「おおわらわ」は、
大童、
と当てる(広辞苑)。
髪の髻(もとどり)がとけてばらばらになった姿、
で、
かぶとも落ちて大童(おほわらは)になり給ふ(平治物語)、
と、
子供のかぶろ頭、
に喩えていっている(岩波古語辞典)状態表現であったが、そこから、
なほ弓を強く引かんために、着たる鎧を脱ぎ置いて、脇い立て(わいだて 大鎧の一部。草摺と壺板(どうの右側の合わせ目に当てる防具)から成る)ばかりを大童になり(太平記)、
と、
兜を脱いで乱れ髪で働くさま、
と価値表現へと転じた。今は、その延長で、
力の限り奮闘するさま、
あるいは、
事に臨んでいっしょうけんめいに活動するさま、
夢中になって事をすること、
の意で使い、どちらかというと、
検査のすんだ荷物を大童(オオワラワ)でスーツケースに詰めこんで、
と、
ばたばたとしゃかりきになっている、
といった含意もある(精選版日本国語大辞典)。
室町末期の日葡辞書には、
Vōuaraua
を、
髪はばらばらに解け、着物はしまりなくはだけなどして、身なりの乱れている、
意とした(日本大百科全書)。
もともと、「大童」には、
長季は宇治殿若気也。仍大童まで不加首服云々(「古事談(1212‐15頃)」)、
と、
年長者で理髪をせず、加冠しないままに幼童の風を残している姿、
を意味し(仝上)、また、
元服以前の男子年少者はなにもかぶらず、頂(いただき)を露(あら)わしたままでいた。これを童(わらわ)といい、年齢的には成長していても、加冠の式を経ない者は大童(おおわらわ)と呼んで、一人前とはみなされなかった、
ともある(世界大百科事典)ので、こちらに喩えたともいえる。
「かぶろ」は、
禿、
と当て、
かむろ、
ともいい、この場合は、
子供の髪型、髪の末を切りそろえ、結ばないで垂らしておく、おかっぱのような髪型、
をいい、その場合、
きりかぶろ、
とも言う。
ただ、武士が兜をかむる場合、時代とともに変化があり、
平安時代後期頃までは、髻(もとどり)を頭上に立てたまま用いた。この場合に烏帽子は髻を包むように縮めておき、兜の天辺の穴から出してかむった、
とある。平治物語絵巻などに、
兜の頂上から黒いものが出ているのは髻を包んだ烏帽子の先端が出ている態を描いたもの、
とある(図録日本の甲冑武具事典)。それで、
天辺の穴から外へ突き出した烏帽子に包まれた髻が心棒になって兜がぐらつかない、
という(仝上)。そのため、この天辺の穴は大きく、源平盛衰記などで、
兜を傾けて突進せよ、ただしあまり傾けて天辺射さすな、
などの指示があるのは、この穴に矢を射込まれるためだという。しかし、鎌倉時代頃から、
兜をかむるときには髻を解いて乱髪にしたので、天辺の穴は小さくなり、やがて天辺の穴は換気用、神の座す場所などと意味が変わった、
とある(仝上)。「大童」の用例から見ると、『太平記』は、乱髪で兜をかぶっていたとみられるが、それ以前は、烏帽子も脱いで、まさに乱髪そのものの状態ということになる。
この、「おほわらは」の、
ワラハは、被髪(わらは)にて、童子の髪風なり、大人の被髪なれば、オホと云ふか、
とあり(大言海)、「わらは」は、
被髪、
と当て、
わわら端(ば)の略、額髪の下端などの、わわらに乱れて垂りてある状を云ふ、
とある(大言海)。その髪型から、
被髪(わらは)にてあれば名とす、
として、その髪型のものを、
童、
と当て、
童子(十歳前後)の略、
の意となったもののようである(仝上)。「わわら」は、
わわらば(散乱葉)、
と当てる、
ほつれ乱れた葉、
の意に使い、
わわく、
という動詞は、
ほつれ乱れる、
意である。類聚名義抄(11~12世紀)に、
弊、ヤブル・ツビタリ・ワワケタリ、
とある。「わわく」の「わわ」は、
ほつれる、
乱れる、
という擬態語の可能性がある。
わわくる、
わわし、
は、
騒ぐ、
やかましい、
意である。
「童」(慣用ドウ、漢音トウ、呉音スウ)は、
会意兼形声。東(トウ 心棒を突き抜けた袋、太陽が突き抜けてくる方角)はつきぬく意を含む。「里」の部分は、「東+土」。重や動の左側の部分と同じで、土(地面)つきぬくように↓型に動作や重みがること。童は「辛(鋭い刃物)+目+音符東+土」で、刃物で目を突きぬいて盲人にした男のこと、
とあり(漢字源)、「刃物々目を突きぬいて盲人にした奴隷」の意とあり、僕と同類で、「童僕」(男の奴隷や召使)と使うが、「童子」というように「わらべ」の意もある。別に、
形声。意符辛(入れ墨の針。立は省略形)と、音符重(チヨウ)→(トウ)(里は変わった形)とから成る。目の上(ひたい)に入れ墨をされた男子の罪人の意を表す。借りて「わらべ」の意に用いる、
ともあり(角川新字源)、
会意兼形声文字です(辛+目+重)。「入れ墨をする為の針」の象形と「人の目」の象形と「重い袋」の象形から、目の上に入れ墨をされ重い袋を背負わされた「どれい」を意味する「童」という漢字が成り立ちました。転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「未成年者(児童)」の意味も表すようになりました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji530.html)。
(「童」成り立ち https://okjiten.jp/kanji530.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
笠間良彦『図録日本の甲冑武具事典』(柏書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95