「かむろ」は、「おおわらわ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484158438.html?1635709470)で触れたように、
禿、
と当て、本来、
かぶろ、
といい、
子供の髪型、髪の末を切りそろえ、結ばないで垂らしておく、おかっぱのような髪型、
をいい(岩波古語辞典)、その髪型から、
童子(十歳前後)、
の意となったもののようである(仝上)。「かぶろ」が、
バ行音がマ行音と交換した「かむろ」は、室町後期からみえはじめる、
とある(日本語源大辞典)。
(かぶろ(「法然上人絵傳」 精選版日本国語大辞典より)
「かぶろ」は、本来、
カミ(髪)ウロ(粗)の約カムロの転、
とある(岩波古語辞典)ように、
頭(かしら)の髪無くしてかぶろなり(今昔物語)、
碧樹路深うして山禿(かぶろ)ならず(新撰朗詠集)、
等々と、
頭に髪のないさま、
を言い、
剃髪した頭、
はげ頭、
はげ山、
などにいう(仝上)。「禿」の漢字を当てたのは、漢字の意味(はげ)からきている。「頭髪のはげたる意」の「かぶろ」は、
童丱形(かぶろなり はげ山)の略、頭に髪なきは、山に草木なきが如し、
とある(大言海)。和名類聚抄(平安中期)には、
禿、無髪也、加不路、
とある。「かぶろなり」は、他には載らないが、
童丱形(かぶろなり はげ山)の義、童山とも書くも、則ち是れなり、童丱(カブロ)の、髻なく、頂圓きに似たる故に云ふなり、
とある(大言海)。「丱」(カン・ケン)は、あげまき(古代の童子の、頭髪を左右に分けて頭上に巻き上げ、角状に両輪をつくった髪の結い方)の意が転じて、おさない意。で、「丱女」(カンジョ)、「丱童」(カンドウ)、童丱(ドウカン)等々と使う。
天治字鏡(平安中期)には、
禿、加夫呂奈理、色葉字類抄(1177~81)には、
禿、カブロナリ、童山无草木也、
とある。そこで、童の髪型の「かぶろ」は、
童丱、
と当て、
被(かぶり)の転、ひりふ、ひろふ。ちりばふ、ちろぼふ(散)、
とし、
多く、禿(かぶろ)と混じて、当字に、禿の字を記す、
とする(大言海)。しかし、この大言海説は無理がある気がする。「はげ」の意の「カブロ」の項で、
童丱形(かぶろなり はげ山)の義、童山とも書くも、則ち是れなり、童丱(カブロ)の、髻なく、頂圓きに似たる故に云ふなり、
と書いていたところを見ると、もともと、
童丱(カブロ)の、髻なく、頂圓きに似たる、
から「はげ」を「かぶろ」といったのではないのか。だから、
そもそもは、幼児が髪を生やし始める髪置き後、あまり時を経ず、十分に髪が密集していない程度の状態をはげ頭に見なし、その髪型の幼児をも指した、
と見るのが妥当なのではあるまいか(日本語源大辞典)。その後、
「童」を仲介として、ワラハとカブロの連想関係が強まり、次第に広く子供の短めの垂髪およびその髪型の子どもをさすようになった、
とみられる(仝上)。「わらは」については、「大童」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484158438.html?1635709470)で触れたように、
被髪、
と当て、
わわら端(ば)の略、額髪の下端などの、わわらに乱れて垂りてある状を云ふ、
である(大言海)。因みに、「髪置」とは、
小児がはじめて髪を伸ばす儀式、
を言い、
多くは、三歳に行い、近世、元禄以降、十一月十五日に定まった、
とある(岩波古語辞典)。
(東洲斎写楽作「中山富三郎 切禿」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%BFより)
なお、「かぶろ」は、江戸時代、
遊女の見習いをする少女、
の意でも使う(日本語源大辞典)「廓ことば」である。
遊里で一人前の遊女になるための修業をしている6、7歳から13、14歳までの少女たちのこと。これを過ぎると吉原では振袖新造(ふりそでしんぞう)から番頭新造となり、さらに太夫(たゆう)となった。禿は髪を額のところで切り、残りを肩のあたりまで垂らして切りそろえたので切り禿ともいう。江戸末期の禿の服装は、桃色縮緬(ちりめん)か絖(ぬめ)の無地の表着に花魁(おいらん)の定紋を5か所つけ、帯はビロード、袖は広袖。浮世絵では花かんざしの華麗な服装で描かれている。太夫の道中では、女郎の格によりお伴(とも)の禿も3人、2人、1人の区別があった、
とあり(日本大百科全書)、禿を経ない遊女を、
つき出し、
といった(ブリタニカ国際大百科事典)とあるので、「かぶろ」は、
吉原などの遊所で、大夫、天神など上級の遊女に仕え将来遊女となるための修業をしていた、
のである(仝上)。『江戸花街沿革誌』(1894)に、
七八歳乃至十二三歳の少女後来遊女となるべき者にして遊女に事へ見習するを禿といふ。…禿の称号は吉原のみ用ひ、岡場所などにては豆どん、小職などと云ひ慣はしたり、
とある(仝上)。
「禿」(トク)は、
会意。「禾(まるいあわ)+儿(人の足、人)」で、丸坊主の人を表す、
とあり、「はげ」の意である。かむろ、かぶろと訓ませ、童子の髪型の意で使うのはわが国だけである。
別に、
「禾(粟が丸く穂を垂れるさま→まるい)」+「儿(人)」、
とする説明もある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A6%BF)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95