2021年11月14日

亢龍悔い有り


「亢龍」は、

こうりゅう、
とも、
こうりょう、

とも訓ます(広辞苑)。

天に高く昇りつめた龍、

つまり、

昇り龍、

である(仝上)。

亢龍悔い有り、

という言い方をする。

栄達を極めた者には、もはやのぼりる道もなく、凋落しかないという悔いがある、

つまり、

物事は絶頂を極めると、必ず衰えること、

をいう(仝上)。

禅師(俊明極)、勅使に向かって、この君(後醍醐帝)亢龍の悔いありと云へども、二度(ふたたび)帝位を践(ふ)ませ給ふべき御相ありとぞ申されける(太平記)、

の用例が有名である。

「亢龍の悔い有り」は、易経の引用で、『易経』周易上経・乾卦に、

亢龍有悔、

とあるのによる。「乾」には、

乾、元亨利貞(乾は、元(おお)いに亨(とお)りて貞(ただし)しきに利(よ)ろし)。
初九、潜龍。勿用(潜龍(せんりょう)なり。用うるなかれ)。
九二、見龍在田。利見大人(見龍田に在り。大人を見るに利ろし)。
九三。君子終日乾乾。夕惕若。厲无咎(君子は終日乾乾(けんけん)し、夕べに惕若(てきじゃく)たり。厲(あや)うけれど咎なし)。
九四。或躍在淵。无咎(あるいは躍(おど)りて淵に在り。咎なし)。
九五。飛龍在天。利見大人(飛龍天に在り。大人を見るに利ろし)。
上九。亢龍有悔(亢龍悔いあり)。
用九。見羣龍无首。吉(群龍首(かしら)なきを見る。吉なり)。

とある。太平記は、上記の文に続いて、

されば、君(後醍醐帝)、武臣のために囚はれて、亢龍の悔いに遭ひ給ひけれども、かの禅師の相し申したる事なれば、再び九五の聖位を践ませ給はん事、疑ひなしと思し召しけるによって、なほ落髪の御事は、暫らくあるまじき由を強ひて仰せ出だされける、

とある。この「九五」は、易経の、

九五。飛龍在天。利見大人。

であり、

天子の位をいう、

とある(兵藤裕己注)。易の占筮については他https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%93%E7%B5%8Cに譲るが、

上九。亢龍有悔

については、こうある。

上九は陽剛居極。天を昇りつめて降りることを忘れた龍。勢位を極めておごり亢(たか)ぶれば、却って悔いを残すことにもなる、

と(高田真治・後藤基巳訳『易経』)。さらに、

九五。飛龍在天。利見大人。

については、

陽剛中正、飛んで点に昇った龍。才徳が充実し志を得て人の上に立った者にもたとえられようが、なお在下の大人賢者(九二)を得てその助けを借りることを心掛けるとよい(彖伝、文言伝は大人をこの九五の君とする)、

とある(仝上)。ちなみに、

初九、潜龍。勿用。

は、

初九は最下の陽剛、たとえれば地下に潜む龍、才徳があっても軽々しくこれを用いることなく、修養して時機の到来を待つべきである、

九二、見龍在田。利見大人。

は、

九二は陽剛居中。龍が田(地上)に姿を現したように、その才徳もようやく明らか。目上の大人(九五)に認められれば、おのれを伸ばす好機会である、

九三。君子終日乾乾。夕惕若。厲无咎。

は、

九三は下卦の極。警戒を要する危位。君子たる者、終日つとめはげみ、夕べにまた反省して惕(おそ)れ慎むことを忘れなければ、危ないながら咎は免れる、

九四。或躍在淵。无咎。

は、

九四は下卦から上卦にのぼったはじめ。将来の躍進を目前にして、なお深淵に臨む時の心構えで身を慎めば咎を免れる。

用九。見羣龍无首。吉。

は、

用九。むらがる龍が姿を現しながらもその頭を示さぬよう、才徳をひけらかすことなく従順で控え目にすれば吉、

とある(仝上)。

「亢」 漢字.gif


「亢」(コウ)は、

会意。「大(人の姿)の字の略形(亠。人の首にあたるところ)+‖印(まっすぐな首の線)」で、直立するの意味を含む。頏(コウ のど)・抗(コウ 立ってふせぐ)・杭(コウ まっすぐにたったくい)に含まれる、

とあり(漢字源)、「亢然」というように、「たかぶる」「すくっとたつ」意である。別に、

象形文字で、のどの膨れた形を象る。気分が高くなると、のどの活動が高くなることから、「たかぶる」という意味になった、

ともあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BA%A2

亢 甲骨②.png

(「亢」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BA%A2より)

「龍」(漢音リョウ、呉音リュウ、慣用ロウ)は、

象形。もと、頭に冠をかぶり、胴をくねらせた大蛇の形を描いたもの。それにいろいろな模様を添えて、龍の字となった、

とある(漢字源)。別に、

「龍」 漢字.gif

(「龍」 https://kakijun.jp/page/ryuu200.htmlより)

象形。もとは、冠をかぶった蛇の姿で、「竜」が原字に近い。揚子江近辺の鰐を象ったものとも言われる。さまざまな模様・装飾を加えられ、「龍」となった。意符としての基本義は「うねる」。同系字は「瀧」、「壟」。古声母は pl- だった。pが残ったものは「龐」などになった、

ともあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BE%8D

「龍」 金文.png

(「龍」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BE%8Dより)

「龍」 甲骨文字.png

(「龍」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BE%8D

参考文献;
高田真治・後藤基巳訳注『易経』(岩波文庫)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:55| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする