2021年11月25日

退屈


「退屈(たいくつ)」は、いま、

散歩をして退屈をまぎらす、

というように、

することがなくて、時間をもてあますこと、

の意で使うことが多いが、もとは、文字通り、

退き屈する、

意で、宋史・李綱傳に、

創業中興之主、盡其在我而已、其成功歸之於天、今未嘗盡人事、敵至而先自退屈、而欲責功於天、其可乎、

とある(字源)。この「退屈」が、

起退屈心(地持論)、
とか、
仏心に退屈なし(反故集)、
とか、
修勝行時、有三退屈(唯識論)
とか、
亦退屈の心にて山林を出る時は、山林は悪しとおぼゆ(正法眼蔵随聞記)、

等々と、仏教で、

仏道修行の苦しさ、むずかしさに負け、精進しようとする気持ちをなくす、

意で使われて(広辞苑・字源・大言海)、そこから、

かやうに申せばまた御退屈や候はんずらめなれども(毎月抄)、

と、

嫌気がさすこと、だれること、

の意や、

いまだ行じてもみずして、かねて退屈する人は愚の中の愚なり(夢中問答)、

と、

うんざりして、やる気をなくすこと、

といった意で使われ、その状態を、

もてあますこと、

から、

倦怠、

の意の、

主殿の無力せられし折からに、長在京はさても退屈(正章千句)、
けだいといふはでうすの御ほうこうのためにみだりなるかなしひ、たいくつの事なり(「どちりなきりしたん(1600)」)、

と、

つまらない、所在ない、暇で倦みあきる、

意までは、繋がっていく(仝上)。因みに、

三退屈、

とは、

①悟りを求めるのは広大深遠であると聞いて起こす退屈、
②布施の万行はきわめて修し難いと聞いて起こす退屈、
③悟りの妙果は証し難いと聞いて起こす退屈、

とされ、これらを対治するのを、

三錬磨、

という、とあるhttps://www.hongwanji.or.jp/mioshie/words/001313.html

また、

海上の兵、陸地(くがち)の、思ひしよりもおびただしく、聞きしにもなほ過ぎたれば、官軍、御方を顧みて、退屈してぞ覚えける(太平記)、

と、

圧倒されること、戦意をなくすこと、

の意や、

されども、城の体(てい)少しも弱らねば、寄手の兵は、多分に退屈してぞ見えたりける(太平記)、

の、

くたびれ果てる、

という意や、

しかれども叶わぬ訴訟に退屈して、歎きながら徒(いたずら)に黙(もだ)しぬれば(仝上)、

の、

気力をなくす、

あるいは、

千度(ちたび)百度(ももたび)闘へども、御方(みかた)の軍勢の軍(いくさ)したる有様を見るに、叶ふべしとも覚えざりければにや、将軍(尊氏)、早くも退屈したる気色に見え給ひける処に(仝上)、

の、

気力が屈した様子、

という意は、

うんざりして、やる気をなくすこと、

という意の外延の中に入る、とみられる。

「退」 漢字.gif

(「退屈」 https://kakijun.jp/page/0971200.htmlより)

「退」(タイ)は、

会意。もと「日+夂(とまりがちの足)+辶(足の動作)」で、足が止まって進まないことを示す。下へ下がって、低いところに落ち着く意を含む、

とあり(漢字源)、

進の対、
出の対、

になり、「退却」の「しりぞく」の意、「衰退」「退色」と、「褪せる」意でもある。類義は、「却」になる(漢字源)。

退は、進の反なり、又遜譲の義にも用ふ。退士は退きて隠れる士。退筆はかきさしたるちび筆なり。老子「功成名遂身退、天之道也」、

ともある(仝上)。別に、

会意。辵と、𣪘(き 艮は省略形。食物を盛る容器)とから成る。お供えの食物を引き下げる意を表す。転じて「しりぞく」意に用いる、

とも(角川新字源)、

「退」 金文.png

(「退」 金文西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%80%80より)

会意文字です(彳+日+夊)。「十字路の左半分の象形」(「行く」の意味)と「食べ物」の象形と「下向きの足」の象形(「しりぞく」の意味)から、昔、役人が役所からしりぞいて家に帰り、食事をする事を意味し、そこから、「しりぞく(帰る)」を意味する「退」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji735.html

「屈」 漢字.gif

(「屈」 https://kakijun.jp/page/0872200.htmlより)

「屈」(漢音クツ、呉音クチ)は、

会意。「尸(しり)+出」で、からだをまげて尻を後ろにつき出すことを示す。尻をだせばからだ全体はくぼんで曲がることから、かがんで小さくなる、の意ともなる。出を音符と考える説もあるが、従い難い、

とある(漢字源)。しかし、

形声。意符尾(しっぽ。尸は省略形)と、音符出(シユツ)→(クツ)とから成る。短いしっぽ、転じて、くじく意を表す、

とか(角川新字源)、

会意文字です(尸(尾)+出)。「獣のしりが変形したもの」と「毛がはえている」象形と「くぼみの象形が変形したもの」から、くぼみに尾を入れるさまを表し、そこから、「かがむ」、「かがめる」を意味する「屈」という漢字が成り立ちました、

とする解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji1192.html

「屈」 金文.png

(「屈 金文・西周 」https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B1%88より)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 05:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする