2021年11月27日

色ふ


「色ふ(う)」は、

彩ふ、
艶ふ、

とも当てる。

いかばかり思ひおくとも見えざりし露にいろへる撫子(なでしこ)の花(和泉式部集)、

と、

色が美しく映える、
彩が多彩である、

という対象の状態表現の意や、

かざしの花の色色は、秋の草に異なるけぢめ分かれて何事にも目のみまがひいろふ(源氏物語)、

と、

色合いで目が惑わされる、
色合いで視覚が混乱する、

という対象によって主体に起こる惑いといった意で使われる(岩波古語辞典)。それが、他動詞化すると、

文(あや)、綺(イロヘ)画けるに同じ(「彌勒上生経賛平安初期点(850頃)」)、

と、

いろどる、
あやどる、

の意となる(広辞苑・大言海)。さらに、

この皮ぎぬ入れたる箱を見れば、種々(くさぐさ)のうるはしき瑠璃をいろへて作れり(竹取物語)、

と、

金属や宝石などを鏤(ちりば)め飾る、

意となり、さらに、「彩る」をメタファに、

もろこしに白楽天と申しける人は、七そぢの巻物作りて、ことばをいろへ、たとひをとりて、人の心をすすめ給へりなど聞こえ給も(「今鏡(1170)」)、

と、

文章や演技など技巧に工夫を凝らす、潤色する、

意でも使うに至る(精選版日本国語大辞典)。

類聚名義抄(11~12世紀)には、

艶、イロフ、ウルハシ、

とある。この語源は、

色を活用す、顎(あぎと)ふ、境ふ、歌ふ、同趣、

とある(大言海)。「いろ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/438454270.htmlで触れたように、「色」の語源には、

うるは(麗)しのウルの轉なるべし。うつくし、いつくし、いちじるしい、いちじろし(仝上)、

と、「いろふ」とつながることをうかがわせる。

「色」 漢字.gif


「色」(慣用ショク、漢音ソク、呉音シキ)は、

象形。屈んだ女性と、屈んでその上にのっかった男性とがからだをすりよせて性交するさまを描いたもの、

とあり(漢字源)、「女色」「漁色」など、「男女間の情欲」が原意のようである。そこから「喜色」「失色」と、「顔かたちの様子」、さらに、「秋色」「顔色」のように「外に現われた形や様子」、そして「五色」「月色」と、「いろ」「いろどり」の意に転じていく。ただ、「音色」のような「響き」の意や、「愛人」の意の「イロ」という使い方は、わが国だけである(仝上)。また、

象形。ひざまずいている人の背に、別の人がおおいかぶさる形にかたどる。男女の性行為、転じて、美人、美しい顔色、また、いろどりの意を表す(角川新字源)、

とも、

会意又は象形。「人」+「卩(ひざまずいた人)、人が重なって性交をしている様子。音は「即」等と同系で「くっつく」の意を持つもの。情交から、容貌、顔色を経て、「いろ」一般の意味に至ったものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B2

とも、

会意文字です(ク(人)+巴)。「ひざまずく人」の象形と「ひざまずく人の上に人がある」象形から男・女の愛する気持ちを意味します。それが転じて、「顔の表情」を意味する「色」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji143.html

ともある。

「色」 金文・春秋時代.png

(「色」 金文・春秋時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B2より)

「艶(艷)」(エン)は、

会意。「色+豐(ゆたか)」で、色つやがゆたかなことをあらわす。色気がいっぱいつまっていること、

とあり(漢字源)、「艷話(えんわ)」のように、エロチックな意味もあるので、「つや」に、男女間の情事に関する意で「艶物(つやもの)」という使い方はわが国だけ(仝上)だが、語義から外れているわけではない。

「艶」 漢字.gif

(「艶」 漢字 https://kakijun.jp/page/1910200.htmlより)

別に、同趣旨の、

本字は、形声で、意符豐(ほう ゆたか)と、音符𥁋(カフ)→(エム)とから成る。旧字は、会意で、色と、豐(ゆたか)とから成り、容色が豊かで美しい意を表す。常用漢字は俗字による、

とする(角川新字源)ものの他に、「豔・豓」と「艷」を区別して、「豔・豓」は、「艶」の旧字とし、

会意兼形声文字です(豐+盍)。「草・木が茂っている象形と頭がふくらみ脚が長い食器(たかつき)の象形」(「豊かに盛られた、たかつき」、「豊か」の意味)と「物をのせた皿にふたをした」象形(「覆う」の意味)から、顔形が豊かで満ち足りている事を意味し、そこから、「姿やしぐさが色っぽい(異性をひきつける魅力がある)」、「顔・形が美しい」を意味する「豔・豓」という漢字が成り立ちました、

とし、「艶(艷)」は、

会意文字です(豊(豐)+色)。「草・木が茂っている象形と頭がふくらみ脚が長い食器(たかつき)の象形」(「豊かに盛られた、たかつき」、「豊か」の意味)と「ひざまずく人」の象形と「ひざまずく人の上に人がある」象形(「男・女の愛する気持ち」の意味)から、「男・女の愛する気持ちが豊か」を意味する「艶」という漢字が成り立ちました、

とする説明もあるhttps://okjiten.jp/kanji2086.html

「艶」 成り立ち.gif

(「艶」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2086.htmlより)

「彩」(サイ)は、

会意兼形声。采(サイ)は「爪(手の先)+木」の会意文字で、木の芽を手先で選び取ること。採の原字。彩は「彡(模様)+音符采」で、模様をなす色を選んで取り合わせること、

とある(漢字源)。「彩色」の「いろどり」や、「彩雲」の「色の取り合わせ」「色彩」の「いろのとりあわれせ」の意である(仝上)。別に、

「彩」 漢字.gif

(「彩」 https://kakijun.jp/page/1154200.htmlより)

会意兼形声文字です(采+彡)。「木の実を採取する象形」(「つみとる」の意味)と「長く流れる豊かで艶(つや)やかな髪」の象形(「いろどり(模様・色)の意味)」から、多くの色の中から、人が意識的に選んでとりあげる事を意味し、そこから、「いろどる(色をつける)」を意味する「彩」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1152.html

「彩」 成り立ち.gif

(「彩」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1152.htmlより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする