2021年12月08日

出世


「出世」は、今日、もっぱら、

立身出世、

というように、

世の中に出て立派な地位・身分になる、

意で使うが、元来は、仏教用語で、

第九の減劫、人寿二万歳の時、迦葉世尊西天に出世した給ふ時(太平記)、

というように、

諸仏が衆生済度のため世界に出現する、

意(広辞苑)であり、例えば、

弥勒、

は、

慈尊(弥勒菩薩)の出生を五十六億七千万年歳の暁に待ち給ふ(太平記)、

と、

兜率天に住し、釈尊入滅後56億7千万年後この世に下生(げしょう)して、龍華三会(りゅうげさんね)の説法によって釈尊の救いに盛れた衆生をことごとく済度するために出世する、

とされる(仝上)。

於是衆生。歴年累月。蒙教修行。漸漸益解。至下於王城始発中大乗機上、称会如来出世之大意(法華義疏)、

とある。そこから転じて、

迷いの世界を離れ出ること、

も、

出世間、

略して、

出世、

という(日本語源大辞典)。従って、

出世の子弟は世俗の親子(愚管抄)、

と、

世俗を捨てて仏道に入ること、

つまり、

出家、

も意味し、

僧侶の意味にもなる(広辞苑)。さらに、禅宗では、

寺院の住持となること、高位の寺に転住すること、黄衣、紫衣を賜ること、和尚の位階を承ける、

意で言い、また、叡山で、

公卿の子息が受戒・剃髪して左右になること、

を指す(広辞苑)。特に、

公卿の子弟の昇進が早かったこと、

から、「出世」の意味に、

世間の出世も好まねば(一遍上人語録)、

と、

立身出世、

の意味が加わったとされる(大言海・岩波古語辞典)。だが、李白の詩に、

浪跡未出世、

とあり、

身を起こし立身する、

意で使われている(字源)ので、漢語由来ではあるまいか。後には、

太夫の新艘、出世の日より三ヶ日の間、さげ髪にて後帯する法也(評判記「色道大鏡(1678)」)、

と、

女郎が一本立ちして張り見世に出ること、
遊郭の勤めに初めて出ること、

という意味でも使うようだ(精選版日本国語大辞典)。

なお、大乗仏教の修行者(菩薩)は、

「出世」するために、布施、持戒、忍辱(にんにく)、精進、禅定、般若の六つの実践徳目(六波羅蜜)を修める、

とある(日本語源大辞典)。そして、修行が進み、

二度と退かない位に至ること、

を、

不退転に達した、

という(仝上)、とある。「退転」は、

菩提心を失ったために、それまでに得たさとりの位や修行などを失ってあともどりすること、

の意(精選版日本国語大辞典)になる。

「出」 漢字.gif

(「出」 https://kakijun.jp/page/0518200.htmlより)

「出」(漢音シュツ、呉音スチ、漢音呉音スイ)は、

会意。足が一線の外へ出るさまを示す、

とある(漢字源)。別に、

象形。足が、囲いから外にでるさまにかたどり、「でる」「だす」意を表す、

とも(角川新字源)、

象形文字です。「足が窪(くぼ)みから出る」象形から「でる」を意味する「出」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji178.html

「出」 甲骨文字・殷.png

(「出」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%87%BAより)

「世」(漢音セイ、呉音セ)は、

会意。十の字を三つ並べて。その一つの縦棒を横に引き延ばし、三十年間にわたり期間が延びることを示し、長く伸びた期間をあらわす、

とある(漢字源)が、

「世」 漢字.gif

(「世」 https://kakijun.jp/page/0503200.htmlより)

これは、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)の、

三十年爲一世。从卅而曳長之、

とあるところから、

「十」を三つ重ねた丗を原字とし、自分の子へ継ぐまでの約三十年が元の意で幾世代も続くことを意味したもの、

としたものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%96のようだが、

三十を表すという解釈は誤りで「世」は「葉(枼)」を原字とし、甲骨文字で分かるように草木の枝葉の新芽の出ている形を示しており、それによって新しい時期、世代を表すものであるとする、

説(白川説)もある(仝上)、とされる。この場合、象形文字となる。甲骨文字ではないが、甲骨文字を引き継ぎ、漢字の祖形を示すとされる、青銅器に鋳込まれた(または刻み込まれた文字)である、西周の「金文(きんぶん)」を見る限り、「葉」の象形文字に見える。

「世」 金文・西周.png

(「世」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%96より)

ただ、別に、

会意文字です。「漢字の十を3つ合わせた」形から、「三十年」、「長い時間の流れ」を意味する「世」という漢字が成り立ちました。転じて、「世の中」の意味も表すようになりました、

との説もあるがhttps://okjiten.jp/kanji509.html、漢字源とは微妙に解釈が違う気がする。

「世」 成り立ち.gif

(「世」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji509.htmlより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 05:05| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする