「推参」は、
定澄令申云。得業已上法師等卅余人許留、推参如何者(御堂関白記・寛弘三年(1006)七月一四日)、
遊者は、人の召に随ひてこそ参れ、左右なく、推参するやうやある(平家物語)、
などと、
招かれもしないのに自分からおしかけていくこと、
の意で、あるいは、
人を訪問することを謙遜(けんそん)していう、
場合にも使う(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。さらに、
いかなる推参の婆迦(ばか)者にてかありけん(太平記)、
と、
さしでがましいこと、
無礼な振舞い、
の意でも使う(仝上)。
「推」(呉音・漢音スイ、タイ、唐音ツイ)は、
会意兼形声。隹(スイ)は、ずんぐりとしもぶくれした鳥の姿。推は「手+音符隹」で、ずっしりと重みや力を懸けておすこと、
とあり(漢字源)、別に、
形声文字です(扌(手)+隹)。「5本指のある手」の象形(「手」の意味)と「尾の短いずんぐりした小鳥」の象形(「鳥」の意味だが、ここでは「出(スイ)」に通じ(同じ読みを持つ「出」と同じ意味を持つようになって)、「出る」の意味)から、手で「押し出す」を意味する「推」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji902.html)。
(「推」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji902.htmlより)
つまり、「推」は、「推進」というように、おし進める意で、さらに「推理」というように、考えをおし進める意でもある。その意味では、
強いて押しかける、
意で、それは、場合によっては、
差し出がましい振舞い、
となり、ひいては、
無礼な振舞いとなる。漢字の、
推参、
は、
自分から進んで参る、
参上する、
という意となる(字源)。謙遜の意でなら、
参上、
伺候、
と意味が重なる。
「参る」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484295621.html)で触れたように、「参る」は、
まゐ(参)い(入)るの約、
とあり(岩波古語辞典・広辞苑・大言海)、
「まゐく(参来)」「まゐづ(参出)」「まゐたる(参到)」などと関連して、「まゐ」と「いる」の結合と考えられる、
とある(日本語源大辞典)。「まゐる」の、
マヰは宮廷や神社など多くの人が参集する尊貴な所へ、その一人として行く意。イルは一定の区域の内へ、外から進みこむ意。従ってマヰルは、宮中や神社など尊い所に参入するのが原義、転じて、参上する、差し上げる意、
とある(岩波古語辞典)が、
貴人の居所に入って行くのが原義(日本語源大辞典)、
と、もう少し絞り込んだ見方もある。
「參(参)」(漢音呉音サン・シン、呉音ソン)は、
象形。三つの玉のかんざしをきらめかせた女性の姿を描いたもの。のち彡印(三筋の模様)を加えた參の字となる。入り交じってちらちらする意を含む、
とある(漢字源)。つまり、「參」には、「参加」「参政」といった「まじわる」「加わる」、お目にかかる意の「参観」の意はあるが、
神社などに参る、
意や、「降参」の意の、
参る、
という意味はなく、わが国だけの使い方らしい。
「参上」は、
目上の人のところへ行く、
意で(広辞苑)、
「まいのぼる(参上)」の変化した語、
であり(精選版日本国語大辞典)、
参向、
と同義となる。
伺候、
と同義で、
高貴な人の前に参り、お目にかかる、
意の、
見参、
は、
げんざん、
けんざん、
げざん、
げぞう、
などと訓ませるが、
見参(みえまゐらす)の字の音読み、
とある(大言海)。ということは、立場が逆で、本来は、
謁見、
目通り、
引見、
等々の意に近いことになる。で、
見参する、
を、
大方には、参りながら、此御方のげざんに入ることの難しくはべれば(蜻蛉日記)、
と、
見参に入る、
という(大言海)。あるいは、
同き十八日に、明卿初て見参せしめられたり(「折たく柴の記(1716頃)」)、
と、
武士が新しく主従関係を結ぶにあたって、主人に直接対面する、
意で使う(精選版日本国語大辞典)。
ただ、「見参」を、
「参会」や「対面」の意で用いるのは日本独自の用法で、中国の文献には見られない、
とある(精選版日本国語大辞典)。
古くは、「見参」は、
見参五位已上賜祿有差(類聚国史・天長八年(831)八月丙寅)、
とあり、
上代、節会(せちえ)、宴会などに出席すること。また、出席者の名を書き連ねて、御前に提出すること。またその名簿、
の意であったらしく、その名残りは、
現参被始之。筆師訓芸〈願信房〉、鈍色・五帖けさ(「大乗院寺社雑事記」応仁元年(1467)五月二三日)、
と、
法会・集会などへの衆僧の出仕を確認すること、
出欠をとること、
の意で使われている(精選版日本国語大辞典)。
目下の者が目上の者のもとへ参上して対面すること、また逆に目上の者が目下の者を出頭させ対面すること、
の意の「見参」は、平安時代より見られる用語とある(世界大百科事典)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95