吾少信管見、老而彌篤(何承天、答顔永嘉書)、
と使う、
「管見」は、
管(くだ)を通して見る、
意で、
狭い見識、
自分の見識や見解を謙遜して言う語、
であり、
以管窺天、以針刺地、所窺甚大、所見者甚少(説苑)、
と、
管窺(かんき)、
ともいう(広辞苑)。
高材(逸材)に対してかやうな事を申せば、管を以て天を窺ひ、途(みち)を聴き巷(みち)に説く風情にて候へども(太平記)、
と、
管を通して天を窺う、
からきている。
(扁鵲(へんじゃく) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%81%E9%B5%B2より)
因みに、上記の、
途(みち)を聴き巷(みち)に説く、
は、『論語』陽貨篇の、
子曰、道聴而塗説、徳之棄者也(道を聴きて塗(みち 道のこと)に説くは、徳をこれ棄つるなり)、
の、
道ばたで聞きかじってきたことを、自説のように道ばたで説く、
の意である。
この、
管を以て天を窺う、
は、『史記』扁鵲伝の、
扁鵲(へんじゃく)仰天歎曰、夫子之爲方也、若以管窺天、以郄視文、
と、
管を以て天を窺い、郄(げき 隙間)を以て文(あや)を視るが如し、
とあるのによる(https://kanbun.info/koji/kanwomo.html)。扁鵲は、名医として知られ、『史記』扁鵲伝で、
医師で脈診を論ずる者はすべて扁鵲の流れを汲む、
とされる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%81%E9%B5%B2)ので、
夫子之爲方也(夫子(ふうし)の方を爲す)、
ことについて、「管見」と為すのは、なかなか重い自戒とみられる。これは、また、
管を用いて天を窺う、
用管窺天、
ともいう(広辞苑)。
用管闚天(カンヲモツテテンヲウカガフ)、
ともいい、『荘子』秋水に、
是直用管窺天、用錐指地也、不亦小乎、
ともある(字源・故事ことわざの辞典)。で、
管闚(かんき)、
用錐指地、
以蠡測海(いれいそくかい)、
などともいう、とある(字源)。「蠡」は、
ひさご(ヒョウタンを割って作った器)、
の意(https://www.kanjipedia.jp/kanji/0007276300)で、
蠡測(レイソク)、
とも言う(仝上)。これは、漢の東方朔の「答客難」に、
以筦窺天、以蠡測海、以筳撞鐘、
とあるのによる(精選版日本国語大辞典)。「筦」は、
竹製の管、
「筳」は、
竹や木の小枝、
の意(http://fukushima-net.com/sites/meigen/1504)。「蠡」には、
ほら貝、
の意もある(https://www.kanjipedia.jp/kanji/0007276300)が、
法螺貝(ほらがい)で海水を汲んで、はかるここと、
とある(精選版日本国語大辞典)のは、如何なものか、
ひさご、
の方が、妥当だろう。
蠡測、
も、史記・扁鵲の「管見」別バージョンということになる。
「管」(カン)は、
会意兼形声。「竹+音符官(屋根の下に囲ってある人)」。丸く全体に行き渡るの意を含む、
とある(漢字源)が、
会意形声。「竹」+音符「官(屋敷に囲われている人)」、丸く囲われる中空の棒状のもの(くだ)をいう。「つかさどる」「とりまとめる」の意は、「丸く囲う」の意からか、または「官」からの派生とも、
ともあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AE%A1)、別に、
形声。竹と、音符官(クワン)とから成る。竹に穴をあけた「ふえ」の意を表す。また、「くだ」の意に用いる、
との解釈(角川新字源)、
(「管」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji553.htmlより)
形声文字です(竹+官)。「竹」の象形と「家屋・祭り用の肉」の象形(軍隊の留まる役所の意味だが、ここでは、「貫(かん)」に通じ(同じ読みを持つ「貫」と同じ意味を持つようになって)、「つらぬく」の意味)から竹の「くだ」・「ふえ」を意味する「管」という漢字が成り立ちました、
との解釈(https://okjiten.jp/kanji553.html)などもある。
参考文献;
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95