2021年12月27日

うろこ


「うろこ」は、「甍」http://ppnetwork.seesaa.net/article/484637308.html?1638389230で触れたように、従来、「かわら」の語源は、その形態上の類似から、

その葺いた様子が鱗(うろこ)に似ているから、イロコ(鱗 ウロコの古名)の転(和語私臆鈔・俗語考・名言通・和訓栞・柴門和語類集・日本古語大辞典=松岡静雄・国語の語根とその分類=大島正健)、

と、「鱗(いろこ)」との関係で説明されることが多かったが(日本語源大辞典)、

高く尖りたる意と云ふ、棟と同義、鱗(イロコ)の転など云へど、上古、瓦と云ふものあらず、

というように(大言海)、

上代においては「甍(いらか)」が必ずしも瓦屋根のみをさすとは限らなかったことを考慮すると、古代の屋根の材質という点で、むしろ植物性の「刺(いら)」に同源関係を求めた方がよいのではないかとも考えられる、

とされる(日本語源大辞典)、とした。

「鱗」 漢字.gif


「うろこ」は、

鱗、

と当てるが、

いろこ、

とも、

うろくづ(ず)
いろくづ(ず)、

とも、

こけ、
こけら、

とも訓ませる。「うろこ」の語源と関わる。

「うろこ」は、

うろくづ、

ともいうが、

山野の蹄(ひづめ=けだもの)、江海の鱗(うろくづ)(沙石集)、

と、転じて、

魚、

の意でも用いる(岩波古語辞典)。

古くは、「うろこ」は、

魚鱗(いろこ)のごと造れる宮室(みや)(古事記)、

と、

いろこ、

で(広辞苑)、「うろこ」は、その、

いろこの転、

とされる(岩波古語辞典・大言海)。

「いろこ」は、

イロは、魚(イヲ)ロの約(あをそ、あさ(麻))、ロは助辞、コは甲(カハラ)の略転か(カメの子)(大言海)、
イヲコ(魚甲)の転(言元梯)、
イは、イヲ(魚)の下略。ロは付字、コはこまかなるの下略(日本語源=賀茂百樹)、

などとする説があるが、

いろこ、

で、

頭垢、

と当てて、

和名類聚抄(平安中期)に、

頭垢、謂之雲脂(ふけ)、加之良(かしら)乃安加、一云、伊呂古(いろこ)、

十巻本和名抄(934頃)に、

雲脂 墨子五行記云 頭垢謂之雲脂 〈和名 加之良乃安加 一云以呂古〉、

とある。で、確かに、

鱗(イロコ)に似たれば云ふか、

と(大言海)、「鱗(いろこ)」から意味を広げたとも見えるが、逆に、

古くは、鱗(うろこ)・雲脂(ふけ)、また皮膚病の際掻くと出る粉をもイロコと呼ぶことから、イロはざらざらした小粒のものの意で、コは小の意味か、

とする説も可能になる(日本語源大辞典)。

うろくづ、

に転訛した、

いろくづ、

は、和名類聚抄(平安中期)に、

鱗、以呂久都(いろくづ)、俗云、伊呂古、魚甲也、

十巻本和名抄(934頃)に、

鱗 唐韻云鱗〈音隣 伊路久都 俗云伊侶古〉魚甲也、

とあるが、これも、「うろこ」の意から、「うろくづ」同様、

宇治河の底にしずめるいろくづを網ならねどもすくひつるかな(栄花物語)、

と、

魚、

意でも用いる。この語源を、

イロコのイロに、モクヅ(藻屑)のクヅ、小魚のことにもあるか(大言海)、
イロはイヲの転か。クヅは類の意か(古語類韻=堀秀成)、
魚はうろこに色があるから、色屑の義(和句解)、

などと、魚と絡める説もあるが、「いろくづ」も、

イロはざらざらした細かいものの意で、クヅは屑かという。もともと鱗(うろこ)を意味する語で、同義のイロコと併用される一方、より正式の語として意識されていたらしい。のちに魚類を表すようになり、13世紀ころには鱗の意味はイロコが表すようになる、

とあり(日本語源大辞典)、和名類聚鈔に、

呂久都(いろくづ)、俗云、伊呂古、

とあるのが、それを裏付ける。俗に言っていた「いろこ」が「いろくづ」にとって代わったものと思われる。で、

14世紀ころからウロクヅが見えはじめ、16世紀には優勢となり、イロクヅは文章語・歌語などにもちいられる雅語となった、

とあり(仝上)、

イロクズからウロクズへと語形変化が起こったのは中世で、近世までにはウロクズの方が優勢となる、

ともある(精選版日本国語大辞典)。また、

青森を除く東日本ではコケ・コケラが鱗を意味する語として分布するが、すでに若年層では用いないものも多く、廃語化の様相を呈する地域もある。なお、近世の江戸ではウロコを用いるが、これは多く三角形をあらわし、鱗の意味ではコケを用いた、

ともある(仝上)。「鱗」を、

こけ、

と訓むのは、

こけら(鱗)の下略、

で、

魚、蛇の甲、杮葺(こけらぶき)の形に似れば云ふ、

とある(大言海)。

東京では略してコケと云ふ、

とある(仝上)。

今も俗に、蛇、又、魚の鱗を、コケと云ふ(東雅)、
魚鱗、ウロコ、コケ、江戸(本草綱目啓蒙)、

などとある。

「鱗」(リン)は、

会意兼形声。粦(リン)は、連なって燃える燐の火(鬼火)を表す会意文字。鱗はそれを音符とし、魚を加えた字で、きれいに並んでつらなるうろこ、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(魚+粦)。「魚」の象形(「魚」の意味)と「燃え立つ炎の象形と両足が反対方向を向く象形」(「左右にゆれる火の玉」)の意味から、「左右にゆれる火の玉のように光る魚のうろこ」を意味する「鱗」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji2354.html

「鱗」 成り立ち.gif

(「鱗」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2354.htmlより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:02| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする