2021年12月29日

根機


「根機」は、

根器、
根気、

とも当て(岩波古語辞典)、本来、仏教用語で、

衆生の、教法を受けるべき性質・能力、

の意で、

人の根機下される故なり(沙石集)、

と、

仏の教化を受けるとき発動することができる能力または資質、

という意味であり(精選版日本国語大辞典)、

機根、

とも、

機、

とも言われる(仝上)が、その意味を広く取って、

楠、いよいよ猛き心を振るひ、根機を尽くして、左に打って懸かり(太平記)、

と、

忍耐する気力、
気根、

の意でも使う。

「機根」は、

気根、

とも当て、やはり仏教用語で、

その機根をはからひて、上人もかくすすめけるにや(十訓抄)、

と、

仏の教えを聞いて修行しえる能力のこと、また、仏の教えを理解する度量・器のことで、さらには衆生の各人の性格をいうhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%9F%E6%A0%B9

とか、

一般の人々に潜在的に存在し、仏教にふれて活動しはじめる一種の潜在的能力のこと(ブリタニカ国際大百科事典)、

の意であり、仏教においては、

弟子や衆生のこの機根を見極めて説法することが肝要で、非常に大事である、

とされhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%9F%E6%A0%B9、各種経典において、

利根(りこん) - 素直に仏の教えを受け入れ理解する人
鈍根(どんこん) - 素直に仏の教えを受け入れず理解しにくい人

などとも説かれている(仝上)、とある。

「機根」は、「根機」同様に、

かの亡者は生得(しやうとく)機根の弱気人(ロザリオの経)、

と、

気力、
根性、

の意でも使い、一般にいう

根性、

は、この機根に由来する言葉であるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%9F%E6%A0%B9とされ、

根性の根とは能力、あるいはそれを生み出す力・能生(のうしょう)のこと、性とは、その人の生まれついた性質のことを意味する、

とある(仝上)。さらには、

ちと機根の落つる御薬を、申し請けたきよし申せば(咄「昨日は今日」)、

と、

精力、性欲、

の意にまで使う。用例から見ると、

時代機根に相萌して、因果業報の時至るゆゑなり(太平記)、

と、もっとひろく、

時勢と気運、

の意でも使われる(兵藤裕己校注『太平記』)。

「機微」http://ppnetwork.seesaa.net/article/403855330.htmlで触れたように、「機」自体が、類聚名義抄(11~12世紀)に、

機、アヤツリ、

とあり、

千鈞の弩(いしゆみ)は蹊鼠(けいそ)の為に機を発せず(太平記)、

と、

弩のばね、転じて、しかけ、からくり、

の意で使われるだけではなく、

迷悟(凡夫と佛)機ことなり、感応一に非ず(性霊集)、

と、

縁に触れて発動される神的な能力、
素質、
機根、

の意や、

一足も引かず、戦って機已に疲れければ(太平記)、

と、

気力、
元気、

の意でも使われている(岩波古語辞典)。「機」は、

縁に遇えば発動する可能性をもつもの、

の意http://labo.wikidharma.org/index.php/%E6%A9%9Fとあり、

仏の教法を受け、その教化をこうむる者の素質能力。また教化の対象となる衆生、

をいい、これを法または教と連称して機法、機教という(仝上)、とあり、『法華玄義』に、機の語義を、

微(仏の教化によって発動する微かな善を内にもっている)、
関(仏が衆生の素質能力に応じてなす教化、即ち仏の応と相関関係にある)、
宜(仏の教化に宜しくかなう)、

の三義を挙げる(仝上)、とある。

機は必ず何らかの根性(根本となる性質、資質)をもつ、

から機根或いは根機といわれるというわけである(仝上)。さらに、

機の語が表われる場面には一つの法則がある。それは仏(あるいは菩薩)と衆生という関係において、機と法(仏のはたらき)の相応関係が論ぜられる場合、

とあるhttps://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/DD/0013/DD00130R025.pdf。まさに、

機縁、

つまり、

仏の教えを受ける衆生の能力と仏との関係(縁)、

である。「機」に、

御方(みかた)の疲れたる小勢を以て敵の機に乗ったる大勢に懸け合って(仝上)、

と、

物事のきっかけ、
はずみ、
時機、

の意で使う所以はある。

「根」もまた、

根気、
性根、

と使うように、仏教用語の、

能力や知覚をもった器官、

を指し(日本大百科全書)、

サンスクリット語のインドリヤindriyaの漢訳で、原語は能力、機能、器官などの意。植物の根が、成長発展せしめる能力をもっていて枝、幹などを生じるところから根の字が当てられた、

とあり(仝上)、外界の対象をとらえて、心の中に認識作用をおこさせる感覚器官としての、

目、耳、鼻、舌、身、

また、悟りの境地を得るために優れた働きがある能力、

信(しん)、精進(しょうじん)、念(ねん)、定(じょう)、慧(え)、

を、

五根(ごこん)、

という(広辞苑・仝上)。因みに、目、耳、鼻、舌、身に意根(心)を加えると、

六根、

となる(精選版日本国語大辞典)。

「根」 漢字.gif


「根」(コン)は、

会意兼形声。艮(コン)は「目+匕(ナイフ)」の会意文字で、頭蓋骨の目の穴をナイフでえぐったことを示す。目の穴のように、一定のところにとまって取れない意を含む。眼(目の玉の入る穴)の原字。根は「木+音符艮」で、とまって抜けない木の根、

とある(漢字源)が、

木のねもと、ひいて、物事のもとの意を表す、

ともある(角川新字源)。別に、

会意形声。「木」+音符「艮」。艮はとどまるの意味。木を土に留める「ね」の意味となった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A0%B9

会意兼形声文字です(木+艮)。「大地を覆う木の象形」と「人の目を強調した象形」(「とどまる」の意味)から植物の地中にとどまるもの、すなわち「ね」を意味する「根」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji420.html

「根」 成り立ち.gif

(「根」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji420.htmlより)

「機分」http://ppnetwork.seesaa.net/article/484789500.html?1639339910で触れたように、漢字「機」(漢音キ、呉音ケ)は

会意兼形声。幾(キ)は、「幺二つ(細かい糸、わずか)+戈(ほこ)+人」の会意文字で、人の首に武器を近づけて、もうわずかで届きそうなさま。わずかである、細かいという意を含む。「機」は、「木+音符幾」で、木製の仕掛けの細かい部品、僅かな接触で噛み合う装置のこと、

とあり(漢字源)、漢字「機」には、

はた、機織り機、「機杼」、
部品を組み立ててできた複雑な仕掛け、「機械」、
物事の細かい仕組み、「機構」「枢機(かなめ)」、
きざし、事が起こる細かいかみあい、「機会」「契機」「投機」、
人にはわからない細かい事柄、秘密、「機密」「軍機」、
勘の良さ、細かい心の動き、「機知」「機転」、

といった意味があり(仝上)、和語「機」が、強く漢字の意味の影響を承けていることがわかる。

「機」 漢字.gif

(「機」 https://kakijun.jp/page/ki200.htmlより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:根機 機根
posted by Toshi at 05:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする