大和説成り立たず

関川尚功『考古学から見た邪馬台国大和説―畿内ではありえぬ邪馬台国』を読む。 本書は、「はじめに」で、 大和は、四周を山に囲まれた適当な広さの盆地、まとまりのある平穏な地域であるといつも感じている。このような感覚からすると、『魏志』に描かれているような、中国王朝と頻繁に通交を行い、また狗奴国との抗争もあるという外に開かれた活発な動きのある邪馬台国のような古代国家が、この奈良…

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夜光の璧

「夜光」とは、 暗いところで、光を出すこと、 の意だが、 「夜光の璧(やこうのたま)」とは、 夜光る玉、 で、 昔、中国で、随侯の祝元陽が蛇から授かったと伝えられる暗夜でも光るという貴重な璧、 の意である。 今可取捨之由忝有此命、夜光之璧何如琢磨乎(「明衡往来(11世紀中頃)」)、 とある(精選版日本国語大辞典)。また、 南海有珠、…

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深見草

「深見草」(ふかみぐさ)は、 ぼたん(牡丹)の異名、 とされ、 たそかれ時の夕顔の花、観るに思ひの深見草、色々様々の花どもを(太平記)、 鉄炮取り直し、真正中(まっただなか)を撃つに、右の手に是を取り、深見草の唇に爾乎(にこ)と笑めるありさま、なを凄くぞ有りける(宿直草)、 等々と使われる。確かに、和名類聚抄(平安中期)に、 牡丹、布加美久佐、 本草和名…

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「砌(みぎり)」は、 落城の砌、 というように、 時、 折、 の意で使うことが多いが、 露置く千般(ちくさ)の草、風に馴るる砌の松のみ、昔も問ふかと物さびたり(宿直草)、 と、 庭、 の意で使ったりする。本来は、古くは、 九月(ながつき)のしぐれの秋は大殿のみぎりしみみに露負ひてなびける萩を玉だすきかけてしのはしみ雪降る(万葉集)、 …

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褊す

「褊(さみ)す」は、 狭す、 とも当てる(精選版日本国語大辞典)。 狭(サ)みすの意(広辞苑)、 狭(サ)ミスの意。相手を狭いものと扱う意(岩波古語辞典)、 とあるが、 サミは形容詞の狭(さ)しの語根を、名詞に形づくれるもの、無(な)しを、無(な)みす(蔑)とするに同じ、孟子・梁惠王「齊國雖褊小」、康熙字典「褊、狭也」(大言海)、 形容詞「さし(狭)」の語幹…

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狂骨

「狂骨」は、 きょうこつ、 と訓ませ、 「きょう」は「軽」の呉音、 とあり(精選版 日本国語大辞典)、 軽忽、 軽骨、 とも当て、この場合、 けいこつ、 とも訓み、 然し汝に感服したればとて今直に五重の塔の工事を汝に任するはと、軽忽(かるはずみ)なことを老衲(ろうのう)の独断(ひとりぎめ)で云ふ訳にもならねば、これだけは明瞭(はっきり)…

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庶幾

「庶幾(しょき)」は、 云うふに及ばす、尤も庶幾する所なり(太平記) と、 こい願う、 意で使うが、これは、「庶幾」の、 「庶」「幾」はともにこいねがうの意、 であり(精選版日本国語大辞典)、 庶幾夙夜、以永終誉(詩経)、 と、漢語である(字源)。また、 顔氏之子、其始庶幾乎(易経)、 と、 ちかし、 とも訓ませる(字源…

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揖譲の礼

車馬門前に立ち連なって、出入(しゅつにゅう)身を側(そば)め、賓客堂上に群集して、揖譲(ゆうじよう)の礼を慎めり(太平記)、 とある、 揖譲、 は、 ゆうじょう(いふじゃう) と訓むが、 いつじょう(いつじゃう)、 とも訓ませる(字源・大言海)。 揖は、一入(イツニフノ)切にて、音は、イフなり。されど、フは、入聲(ニッシャウ)の韻なれば、他の字…

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犂牛

犂牛の喩へ、その理(ことわ)りしかなり。罰その罪にあり、賞その功に依るを、善政の最(さい)とする(太平記)、 とある、 「犂牛(りぎゅう)」は、 毛色のまだらな牛、 まだらうし、 の意(広辞苑・精選版日本国語大辞典)で、日葡辞書(1603~04)にも、 リギュウ、マダラウシ、 とある(広辞苑)。ただし、「犂牛」については、 まだら牛、 とする…

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紅顔翠黛

その昔、紅顔翠黛の世に類ひなき有様を、ほのかに見染し玉簾の、ひまもあらばと三年(みとせ)余り恋慕しけるを、とかく方便(てだて)を廻らして盗みい出してぞ迎へける(太平記)、 とある、 紅顔翠黛(こうがんすいたい)、 は、 紅(くれない)の顔と翠(みどり)の眉墨、 で、 翠黛紅顔錦繍粧(翠黛紅顔錦繍(きんしゅう)の粧(よそお)ひ)、 泣尋沙塞出家郷(泣くなく…

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言語の価値と美

吉本隆明『言語にとって美とはなにかⅠⅡ』を読む。 何度目かの読み直しになるが、今回新たに気づいたことがある。吉本の言語論は、 この人間が何ごとかを言わねばならないまでにいたった現実的な与件と、その与件にうながされて自発的に言語を表出することとのあいだに存在する千里の径庭を言語の自己表出として想定することができる。自己表出は現実的な与件にうながされた現実的な意識の体験が累積…

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蚍蜉大樹を動かす

この兵を以て、かの大敵に合はん事、たとへば蚍蜉の大樹を動かし、蟷螂の隆車を遮らんとするが如し(太平記)、 と、 蚍蜉(ひふ)大樹を動かす、 と、 蟷螂(とうろう)の隆車を遮らんとする、 は、共に、 弱者が自分の力や身分を弁えず、強者に立ち向かう、無謀で、身の程知らずの振舞い、 の喩えとして使われ(故事ことわざの辞典・広辞苑)、ほぼ同義である。「蚍蜉」…

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涯分

不肖の身としてこの一大事を思ひ立ち候事、涯分を量(はか)らざるに似たりと云へども(太平記)、 の、 涯分、 は、 がいぶん、 と訓むが、 かいぶん、 とも訓ます(精選版日本国語大辞典)。 逍遥飲啄安涯分、何假扶揺九萬爲(蘆象詩)、 と、 身分に相応したこと、 身の程、 の意であり(字源)、そこから、 環視其中所有、頗識…

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進化史の新参者

斎藤成也編『図解 人類の進化―猿人から原人、旧人、現生人類へ』を読む。 本書は、 人類進化、 を、綜合的に解説するべく、 進化のしくみ(第1~4章)、 人類のあゆみ(第5~12章)、 に分けて展開している(はじめに)。「人類のあゆみ」の部分は、溝口優司『アフリカで誕生した人類が日本人になるまで』(http://ppnetwork.seesaa.net/…

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者(てえ)れば

上の施行によって、須らく箚付(さっぷ 上から下に下ろす公文書)を議(はか)るべし。者(てえ)れば一実右を起こし(太平記)、 とか、 一方欠けんにおいては、いかでかその嘆きなからんや。てへればことに合力(かふりよく)いたして(平家物語)、 などと使われる「者れば」は、 てえ(へ)れば、 と訓ませ、 「と言へれば」の約、 とあり(広辞苑)、 記録体…

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白波

「白波」は、 白浪、 とも当てるが、文字通り、 伊豆の海に立つ白波(思良奈美 しらなみ)のありつつも継(つ)ぎなむものを、乱(みだ)れしめめや(万葉集)、 と、 白く泡立つ波、 の意(広辞苑)の他に、 白浪五人男、 というように、 盗賊の異称、 としても使う(仝上)。これは、 海上(かいしょう)には海賊多くして白浪(はくろう)…

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宇宙の終末

ケイティ・マック(吉田三知世訳)『宇宙の終わりに何が起こるのか』を読む。 著者は、 「宇宙に始まりがあったことはわかっている。約13億年前、宇宙は想像を絶する高密度状態から、一つの火の玉の状態になり、そこから冷えていくうちに、物質とエネルギーが元気に動き回る流体となった。やがてその中に、たくさんの種子ができ、成長して、いま私たちを取り巻いている恒星や銀河になった。惑星が形…

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荼枳尼天

仁和寺に志一房とて外法成就の人ありけるに、咜祇尼天(だぎにてん)の法を習ひて、三七(さんひち)日行ひけるに(太平記)、 と、「咜祇尼天」とあるのは、 荼枳尼天(だきにてん)、 の意で、 人の死を六ヶ月前に知ってその心臓を食い、その法を修する者に自在の通力を得させるという夜叉神、 と注する(兵藤裕己校注『太平記』)。 以術召請荼枳尼而訶責之、猶汝常噉(=喰)…

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見たうもなし

ここなる僧の臆病げなる、見たうもなさよ(太平記)、 の「見たうもなさ」は、 見たうもなし、 の名詞化で、 みっともないこと、 の意である。 「みたうもなし」は、 見たうも無し、 とも当てるが、 見たくもなしの音便形、 である。つまり、 心憂(こころう)や、みとうもなや(御伽・新蔵人物語)、 と、 見むことを欲せず、…

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函蓋ともに相応す

上将(静尊(せいそん)法親王)は鳩嶺(男山)に軍(いくさ)し、下臣(足利高氏)は篠村に陣す。共に瑞籬(みずがき)の影に在り、同じく擁護(おうご)の懐を出づ。函蓋(かんがい)相応せり(太平記)、 あるいは、 霊仏の威光、上人の陰徳、函蓋(かんかい)ともに相応して、奇特なりける事どもなり(太平記)、 と、 函蓋(かんがい)ともに相応す、 函蓋(かんがい)相応す、 …

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