2022年01月05日
褊す
「褊(さみ)す」は、
狭す、
とも当てる(精選版日本国語大辞典)。
狭(サ)みすの意(広辞苑)、
狭(サ)ミスの意。相手を狭いものと扱う意(岩波古語辞典)、
とあるが、
サミは形容詞の狭(さ)しの語根を、名詞に形づくれるもの、無(な)しを、無(な)みす(蔑)とするに同じ、孟子・梁惠王「齊國雖褊小」、康熙字典「褊、狭也」(大言海)、
形容詞「さし(狭)」の語幹に接尾語「み」が付き、さらに動詞「す」が付いてできた語(精選版日本国語大辞典)、
というところが妥当なのだろう。
「褊」(ヘン)は、
会意兼形声。「衣+音符扁(うすっぺらな)」、
とあり(漢字源)、
形声文字。「衣」と音符「扁」を合わせた字で、衣服がきつく「せまい」という意味、
である(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A4%8A)。同義の漢字は、
「狭」は、廣または闊の反なり、史記「地狭人寡」。心のせまきにも用ふ、
「褊」は、衣服の身はばのせまきなり。転じて、土地また心の狭きにも用ふ。左伝「衛國褊小、老夫耄矣」、
「窄」は、寛の反なり、狭なり、隘なり、天地窄の類、
「隘」は、ものの閒のせまきなり、谷閒などの迫りてけはしく、せまきに云ふ。険隘、峻隘と熟す、転じて心のせまきにも用ふ。狷隘は狷介にして寛容の量なきなり、
と「せまい」の意味を使い分けている(字源)。
きばやし(急)惼(ヘン)に通ず、
とある(仝上)ので、
褊狭(へんきょう)、
と、「土地が狭い」意や「心が狭い」意だけではなく、
褊心(へんしん)、
と、「心が狭く気が短い」意でも使う(仝上)。
「褊(さみ)す」は、漢字の意味から見て、元々は、類聚名義抄(11~12世紀)に、
褊、サミス、さし、せばし、
字鏡(平安後期頃)には、
狭、サミス、
とあり、
三王の陒薜(あいへき)を陿(さみ)す(漢書・楊雄伝)、
と、
狭い、
狭いと思う、
という状態表現でしかなかったものが、
帰伏申したる由にてかへって武家をは褊しけり(太平記)、
所存之企、似褊関東(吾妻鏡)、
などと、
我を廣しとし、他を狭しとするより、第二義の、他を非とし軽侮する意、
となり(大言海)、色葉字類抄(1177~81)では、
褊、サミス、謗也、狭、
と、
見下げる、
卑しめる、
軽んずる、
あなどる
などといった意に転ずる(大言海・岩波古語辞典)
こうした意味の変化はあり得るのだから、
アサミス(浅)の上略(言元梯)、
アサミスル(浅見)の略(菊池俗語考)、
の説は取りがたい。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95