2022年01月07日

庶幾


「庶幾(しょき)」は、

云うふに及ばす、尤も庶幾する所なり(太平記)

と、

こい願う、

意で使うが、これは、「庶幾」の、

「庶」「幾」はともにこいねがうの意、

であり(精選版日本国語大辞典)、

庶幾夙夜、以永終誉(詩経)、

と、漢語である(字源)。また、

顔氏之子、其始庶幾乎(易経)、

と、

ちかし、

とも訓ませる(字源)。これは、

「庶」「幾」はともに近いの意、

でもある(精選版日本国語大辞典)。

和語では、ために、

この一様、すなはち定家卿が庶幾する姿なり(「後鳥羽院御口伝(1212~27頃)」)、

と、

しょき、

と訓むだけではなく、

心あらむ人愚老が心を知て、如説行学庶幾(ソキ)する所也(「雑談集(1305)」)、

と、

そき、

とも訛り(精選版日本国語大辞典)、また、

記録と實地を併せ考へ、古今の對照やや眞を得たるに庶幾(ちか)い(桑原隲蔵「大師の入唐」)、

と、

ちかし、

と訓ませたり、

庶幾(こいねが)うところなりとて、すでに、軍、立つを大国に聞き付けて万が一の勢なるが故に軽しめ嘲りて(南方熊楠「十二支考」)、

と、

こいねがう、

と訓ませたりする。因みに、「こいねがう」には、

希う(ふ)、
冀う(ふ)、
庶幾う(ふ)、
乞願う(ふ)、

等々と当てたりする(精選版日本国語大辞典)。ために、「庶幾」の訓み方は、

しょき    41.2%、
ちか(シ)  29.4%、
こいねが(ウ)5.9%、

とあるhttps://furigana.info/w/%E5%BA%B6%E5%B9%BE:%E3%81%A1%E3%81%8B

ところで、漢字では、

庶は、冀(キ こいねがう)也と註す。幾と同義なり。庶幾と連用しても、一字ずつ別ち用ひても同じ。又、庶乎(ショコ)と連用す(庶乎は、近しの意で、庶幾と同義)、
幾は、こひねがはくはとも、ちかしとも訓む、遠きものは及び難き故、望を絶つも、近きは及ぶべし、されば、願辞、又は、近辞と註すれども、意は一なり。孟子「王庶幾無疾病」、
希は、まれといふ字なり、故にまれなることのできるやうに願ふなり、
冀は、欲也、望也と註す。覬(キ のぞむ)と音通ず。伺ひ望む意あり、
尚は、庶幾也と註す。「黎民(レイミン 冠を着けない黒髪の者、つまり庶民)尚亦有利哉」の如し。尚の字、たふとぶといふ義あり、たふとび願ふ意なり、
幸は、非分而得曰幸と註す、幸調護太子の如し、

と、註されている(字源)。

「庶」 漢字.gif

(「庶」 https://kakijun.jp/page/1147200.htmlより)

「庶」(ショ)は、

会意。广の中は、動物の頭(廿印)のあぶらを燃やすさまで、光の字の古文。庶はそれに广(いえ)を添えたもので、家の中で火を集め燃やすこと。さらにまた、諸(これ)と同様に、近称の指示詞にあて「これこそは」と強く指示して、「ぜひこれだけは」の意を表す副詞に転用された、

とある(漢字源)。字源には、象形、指事、会意、形声、会意形声の諸説があるらしいが、

广と廿と火とに従う、广は厨房、廿は鍋など烹炊(ほうすい)に用いる器。その下に火を炊いて器中のものを烹炊し、煮ることを意味する字で、煮の本字である(白川)、

とかhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BA%B6

形声。火と、音符石(セキ)→(シヨ)とから成る。火で煮る意を表す。借りて、「もろもろ」の意に用いる、

とか(角川新字源)、

会意兼形声文字です(广+炗)。「家屋のおおいに相当する屋根」の象形と「器の中の物を火で煮たり沸かしたりする」象形から、屋内をいぶして「害虫を除去する」の意味を表しましたが、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「おおい(たくさん)」を意味する「庶」という漢字が成り立ちました、

とかhttps://okjiten.jp/kanji1842.html、微妙に分かれるが、「火」と関わらせていることは同じである。

「庶」 成り立ち.gif

(「庶」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1842.htmlより)

「幾」(漢音キ、呉音ケ)は、

会意。幺ふたつは、細く幽かな糸を示す。戈は、ほこ。幾は「幺ふたつ(わずか)+戈(ほこ)+人」で、人の首にもうわずかで戈の刃がとどくさまを示す。もう少し、近いなどの意を含む。わずかの幅をともなう意からはしたの数(いくつ)を意味するようになった、

とある(漢字源)。

別に、
会意。𢆶(ゆう かすか)と、戍(じゆ まもり)とから成る。軽微な防備から、あやうい意を表す、

との説(角川新字源)、

「幾」 漢字.gif

(「幾」 https://kakijun.jp/page/1245200.htmlより)

会意文字です。「細かい糸」の象形と「矛(ほこ)の象形と人の象形」(「守る」の意味)から、戦争の際、守備兵が抱く細かな気づかいを意味し、そこから、「かすか」を意味する「幾」という漢字が成り立ちました。また、「近」に通じ(「近」と同じ意味を持つようになって)、「ちかい」、「祈」に通じ、「ねがう」、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「いくつ」の意味も表すようになりました、

とする説https://okjiten.jp/kanji1288.htmlがあるが、最後の説で、「ねがう」意が出てくる意味が分かる。

「幾」 成り立ち.gif

(「幾」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1288.htmlより)

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 05:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする