年未だ十五に過ぎざる童男(どうなん)丱女(かんじょ)六千人を集め(太平記)、
とある、
丱女、
は、漢語であり、わが国では、
かんにょ、
とも訓ます。
総角(あげまき)に結った年若い女、
というより、
丱は、少女の髪型(あげまき)の意、
と注記があり(兵藤裕己校注『太平記』)、
童女(どうじょ)、
を指す(広辞苑)。
「丱」(漢音カン、呉音ケン)は、
象形。二枚の板に横軸を通した形を描いたもので、貫くの意を示す。この字は關(関 かんぬき)の字の中の部分に含まれる、
とあるが(漢字源)、
あげまきにむすびたる象形文字(字源)、
髪を左右の二束に分け、かんざしで止めた様の象形文字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B1)、
とある説の方が妥当な気がする。「丱」自体、
前髪を二つにわけて巻き、かんざしを通した、子供や少女の髪型、
つまり、和風に言う、
あげまき、
の意であり、
つのがみ(総角)、
の意であり、
丱頭(かんとう あげまき)、
丱角(かんかく あげまき、転じて幼い童)、
丱女(かんじょ あげまきした少女、幼女)、
丱童(幼童 あげまきしたわらべ)、
という言葉がある(字源・漢字源)のだから。
総角(あげまき)したる童子を、
丱童、
総角したる少女を、
丱女(かんにょ)、
と云ふ(大言海)、とするのは上記の理由である。『詩経』齊風・甫田篇に、
総角丱兮(クワンタリ)、
総角聚兩髪也、
とあり、朱傳に、
丱、兩角貌、
とある(字源・大言海)。
(総角(揚巻) デジタル大辞泉より)
「みずら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484777081.html)で触れたように、
角髪、
角子、
鬟、
髻、
などと当て(広辞苑)、
美豆羅、
美豆良、
とも書いた(日本大百科全書)、大和時代に始まる、
男子の成人に達したもの、
が結った髪型(岩波古語辞典)である、
みずら(みづら)、
の変型である(ブリタニカ国際大百科事典)。のちに、
髪を上げて巻く、
ところから、
あげまき(総角・揚巻)、
と呼ばれ、
古の俗、年少児の年、十五六の間は束髪於額(ひさごはな)す。十七八の間は、分けて、総角にす(書紀)、
と、
髫髪(うなゐ)にしていた童子の髪を十三、四を過ぎてから、両分し、頭上の左右にあげて巻き、輪を作ったもの、はなりとも、
とあり(岩波古語辞典)、
髪を中央から左右に分け、両耳の上に巻いて輪をつくり、角のように突き出したもの。成人男子の「みづら」と似ているが、「みづら」は耳のあたりに垂らしたもの、
とある(精選版日本国語大辞典)。「髫髪(うなゐ)」は、
ウナは項(うなじ)、ヰは率(ゐ)、髪がうなじにまとめられている意で、十二三歳まで、子供の髪を垂らしてうなじにまとめた形、
を言い(岩波古語辞典)、「束髪於額(ひさごはな)」は、
厩戸皇子、束髪於額(ヒサコハナ)して(書紀)、
とあり、辞書には載らず、はっきりしないが、「ヒサゴバナ(瓠花・瓢花)の項に、
上代の一五、六歳の少年の髪型の一つ。瓠の花の形にかたどって、額で束ねたもの、
とある(日本国語大辞典)。ただ、
ひさご花は後世に伝わっていない、
という(文政二年(1819)「北辺随筆」)。
なお、「をなご」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483799792.html)で触れたように、「女」(漢音ジョ、呉音ニョ、慣用ニョウ)は、
象形、なよなよしたからだつきの女性を描いたもの、
とある(漢字源)が、
象形。手を前に組み合わせてひざまずく人の形にかたどり、「おんな」の意を表す、
とあり(角川新字源)、
象形文字です。「両手をしなやかに重ね、ひざまずく女性」の象形から、「おんな」を意味する「女」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji32.html)。甲骨文字・金文から見ると、後者のように感じる。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95