亡国の先兆、法滅の表事、誰人かこれを思はざらん(太平記)、
にある、
表事、
は、あまり辞書にも載らない(手元の大言海・岩波古語辞典・明解古語辞典には載らない)が、
前兆、
と注記される(兵藤裕己校注『太平記』)。
素戔烏の尊に切り殺されたてまつし大蛇、霊劔を惜しむ心ざしふかくして、八のかしら八の尾を表事として、人王八十代の後、八歳の帝となって霊劔をとりかへして(平家物語)、
でも使われるが、
ひょうじ(表示)、
の当て字のようである(精選版日本国語大辞典)。
書生が身、忽に金色に変じたり。人皆、此を見て、此、偏に金粟(こんぞく=金粟如来)世界に生ぜる表示也と云て(今昔物語)、
と同じ使い方で、
きざし、印、兆候、表事、標示、
の意となり(精選版日本国語大辞典)、
ひょうし、
とも訓ませるが、それは、
意思表示、
のように、
外部へ表し示すこと、
の意ともなり(広辞苑)、今日では、
図表にして示すこと、
の意で使う。本来は、どうやら、
物事を表すしるし、
つまり、
きざし、
の意で使ったようである。「あらわれる」意の漢字には、
見、音はゲン、隠れたるものが出てくる義、露顕の義なり、
現、見と音義同じ、現在は、見在なり、
顯(顕)、光也、見也、明也などと註す、照り輝く程にあらわるるなり、高位高官に在る人を顕達、顕者などと云ふもこの義なり、
著、あらはる、あらはす、いちじるしなどと訓む、明らかに見ゆる義、著述、著姓などと連用す、
形、現也と註す、隠れたものの出現して形の観ること、大学「誠於中形於外」、
暴、日に晒す義なり、暴露とは、昼は日に照らされ、夜は露にうたれるをいふ。転用して、外へあらわし出す義とす、
露、むき出しにする義、史記「暴兵露師、十有餘年」、
表、うはがわへ出してあらはすなり、世説「謝之寛容、顛表於貌」、旌に似て用法広し、
彰、一に章に作る、同じ明也、著也と註す、物のあや模様などの、明らかに外に見ゆる義、書経「嘉言孔彰」、
旌、ハタと訓む。もと、はたを立てて功徳を人に知らする義より転用す、
等々と区別している(字源)。
「表」(ひょう)は、
会意。「衣+毛」で、毛皮の衣をおもてに出して着ることを示す。外側に浮き出る意を含む、
とあり(漢字源)、「表裏」の「おもて」であるが、「表現」の「あらわす」意でもある。皮衣では、毛の付いている部分が外側になることから、「おもて」「あらわす」意を表す(角川新字源)ことになる。ただ、別に、
(「表」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji534.htmlより)
会意文字です(衣+毛)。「衣服のえりもと」の象形と「毛」の象形から毛皮のおもて着(上着)、すなわち「おもて」を意味する「表」という漢字が成り立ちました、
とする解釈もある(https://okjiten.jp/kanji534.html)。
「事」(漢音シ、呉音ジ、慣用ズ)は、
会意。「計算に用いる竹のくじ+手」で、役人が竹棒を筒にたてるさまを示す。のち人の司る所定の仕事や役目の意に転じた。また仕(シ そばに立ってつかえる)に当てる、
とあり(漢字源)、
会意。「㫃(旗の原字)」の略体+「中(記録を入れる竹筒)」+「又(手)」で記録したものを差し出すさま。「史」「吏・使」と同系。筮竹+「手」とも、
とあるのは(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BA%8B)、同趣旨と見られるが、別に、
形声。意符史(記録官)と、音符之(シ)の省略形とから成る。記録官の意を表す。もと、史(シ)・吏(リ)・使(シ)に同じ。一説に、象形で、文書をはさんだ木の枝を手に持つ形にかたどるという、
とも(角川新字源)、
象形文字です。「神への祈りの言葉を書きつけ、木の枝に結びつけたふだを手にした」象形から、「祭事にたずさわる人」を意味し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「しごと、つかえる」を意味する「事」という漢字が成り立ちました。
とも(https://okjiten.jp/kanji491.html)ある。
(「事」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BA%8Bより)
「示」(漢音キ・シ、呉音ジ・ギ)は、
象形。上の「一」はものを、下部はものを乗せる高杯の象であり、高杯にものを乗せて「示す」というのが、現在最も有力な説。これに関連して、「不」は高杯の上にものが無いので「あらず」の意とされる(但し、「不」は甲骨文などから「つぼみ」の象形とする説が有る)。他説に、「示」は「光」の変字だとするものがあるが、説得力に乏しい、
と諸説あるようだが(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A4%BA)、見た限りでは、
象形。神霊の降下してくる祭壇を描いたもの。そこに神々の心がしめされるので、しめす意となった。のち、ネ印に書かれ、神・社など、神や祭りに関することをあらわす、
とか(漢字源)、
神の座に立てて神を招くための木の台の形にかたどる、
とか(角川新字源)、
「神にいけにえをささげる台」の象形から、「祖先の神」を意味する「示」という漢字が成り立ちました、
とか(https://okjiten.jp/kanji821.html)、
と祭壇説が大勢である。また「しめす」意については、
「指(シ)」に通じ(同じ読みを持つ「指」と同じ意味を持つようになって)、「しめす」の意味も表すようになりました、
との説もある(仝上)。
(「示」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A4%BAより)
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95