2022年03月31日

四衆


梨軍支(りぐんし)、大きに慚愧して、四衆(ししゅ)の前にして、これならでは、喰ふべき物なしとて、沙(いさご)を喫し、水を飲みて即ち涅槃に入りにけるこそあはれなれ(太平記)、

にある、

四衆、

ししゅ、

と訓ませ(「しゅ」は「衆」の呉音)、

四種の信徒、比丘(僧)、比丘尼(尼)、優婆塞(うばそく 在家の男)、優婆夷(うばい 在家の女)、

と注記がある(兵藤裕己校注『太平記』)が、仏教の術語で、

仏教教団のメンバーの総称、

とする(日本大百科全書)のが正確。つまり、出家者の男女を指す、

比丘(びく ビクシュbhiku)、
比丘尼(びくにビクシュニーbhikunī)、

と、在家信者の男女を指す、

優婆塞(うばそく ウパーサカupāsaka)、
優婆夷(うばい ウパーシカーupāsikā)、

である。比丘・比丘尼は、

具足(ぐそく)戒を受けて教団内で修行に専念する者、

の意で、優婆夷・優婆塞は、

彼らに衣食住などを布施し、五戒を受け帰依(きえ)した在家信者、

を指し、彼らによって、教団は構成され維持される。後に比丘・比丘尼の未成年者、

沙弥(しゃみ)と沙弥尼、

比丘尼として出家する前の二年間を過ごす、

学真女(がくしんにょ)、

を加えて、

七衆(しちしゅ)となる(仝上)。「四衆」は、

四輩、
四部衆、
四部、

などともいう(岩波古語辞典・ブリタニカ国際大百科事典)。

「具足(ぐそく)戒」の「具足」は、

近づくの意で、涅槃に近づくこと、

をいい、また、教団で定められた、

完全円満なもの、

の意ともいい(精選版日本国語大辞典)、

小乗仏教の僧・尼僧の戒。また出家教団(僧伽 そうが)に入るために受持する戒律、

で(百科事典マイペディア)、

具戒、
進具戒、
大戒、

ともいい、『四分律』では、

男性の修行者は250戒、女性は348戒、

あるとされる(精選版日本国語大辞典)。また、「五戒」は、

五つの戒、

だが、「戒」は、

サンスクリット語のシーラśīla、

の訳語、

自ら心に誓って順守する、

徳目であり、ここの「五戒」は、在家者のために説かれた「五戒」で、

不殺生(ふせっしょう 生命のあるものを殺さない)戒、
不偸盗(ふちゅうとう 与えられないものを取らない)戒、
不邪淫(ふじゃいん みだらな男女関係を結ばない)戒、
不妄語(ふもうご いつわりを語らない)戒、
不飲酒(ふおんじゅ 酒類を飲まない)戒、

をいい(日本大百科全書)、

優婆塞戒(うばそくかい)、
五常、
五学処、

などともいう(精選版日本国語大辞典)。

なお、「四衆」は、天台宗では、

発起衆(ほっきしゅ 仏の説法のために時機を考えて質問を発する者)、
当機衆(とうきしゅ 教説を聞いて悟りを得る者)、
影響衆(ようごうしゅ 他所から来て仏の説法教化を助ける者)、
結縁衆(けちえんしゅ 仏の説法会に列席する因縁のある者)、

をいいhttp://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/、仏の説法の席に列席する人々を、「機根」に応じて四種に分けた。なお、「機根」http://ppnetwork.seesaa.net/article/484995810.htmlについては触れた。

「四」 漢字.gif

(「四」 https://kakijun.jp/page/0544200.htmlより)

「四」(シ)は、「六道四生」http://ppnetwork.seesaa.net/article/486172596.html?1648323250で触れたように、

会意。古くは一線四本で示したが、のち四と書く。四は「口+八印(分かれる)」で、口から出た息がばらばらに分かれることを表す。分散した数、

とある(漢字源)。それは、

象形。開けた口の中に、歯や舌が見えるさまにかたどり、息つく意を表す。「呬(キ)(息をはく)」の原字。数の「よつ」は、もとで4本の横線で表したが、四を借りて、の意に用いる(角川新字源)、

とか

指事文字です。甲骨文・金文は、「4本の横線」から数の「よつ」の意味を表しました。篆文では、「口の中のに歯・舌の見える」象形となり、「息」の意味を表しましたが、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「よつ」を意味する「四」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji126.html

とか、

象形。口をあけ、歯と舌が見えている状態。本来は「息つく」という意味を表す。数の4という意味はもともと横線を4本並べた文字(亖)で表されていたが、後に四の字を借りて表すようになったhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%9B%9B

とかと、「指事」説、「象形」説とに別れるが、趣旨は同じようである。

「四」 甲骨文字・殷.png

(「四」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%9B%9Bより)

「四」 楚系簡帛文字・戦国時代.png

(「四」 楚系簡帛(かんぱく)文字・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%9B%9Bより)

「衆」(漢音シュウ、呉音シュ・ス)は、

会意。「日(太陽)+人が三人(多くの人)」で、太陽のもとで多くの人が集団労働をしているさま。上部は、のち誤って血と書かれた、

とある(漢字源)が、

会意形声。囗(こく 地域。罒・血は誤り変わった形)と、㐺(シウ 多くの人。乑は変わった形)とから成り、集落に暮らす多くの人々、ひいて「おおい」意を表す、

とか(角川新字源)、

象形。太陽(日>血)の下に多くの人々(㐺>乑)がいるさま。{衆 /*tungs/}を表す字。「眾」の上部を「血」と書き誤ったもの(康煕字典・正字通)。もとの「眾」は「目」+「乑」の会意。「乑」は人を3個書いた「㐺」であり(簡体字「众」は、元は別字)、人が集まった様。「目」は「臣」「民」同様支配に関連する成分とするが、白川静は「目」の初形は「口」であり「口は邑の外郭で、邑中の人」を意味したもの(ときに「口」を「日」の形に作ることがあるが、それは日月の字に、実体のあるものとして点を加えた示すのと同じ意味であって、日に従う字ではない)とする、

とかhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A1%86あり、「日」と見るには異説がある。

「衆」 漢字.gif


参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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