2022年04月18日

嬋娟


ただ容色嬋娟(せんけん)の世に勝れたるのみならず、小野小町が弄(もてあそ)びし道を学び(太平記)、

の、

嬋娟、

は、

嬋妍幽艶なる女百人そろへて、紂王に奉つて(仝上)、

と、

嬋妍、

とも表記し、

せんけん、
せんげん、

と訓ませ、

容姿があでやかで美しいこと、
品位があってなまめかしいこと、

といった意味である(広辞苑・精選版日本国語大辞典)が、

秋月復嬋娟(阮籍詩)、

とか、

嬋娟美女(宣和書譜)、

とか、

花嬋娟沃春泉、竹嬋娟籠暁烟、雪嬋娟不長娟、月嬋娟眞可憐(孟浩然詩)、

などと使われる漢語である(字源・大言海)。

娟は、於縁切、エンを正とす、今慣用音に従ふ、

とあり(大言海)、

せんけん、

ではなく、

せんえん、

と訓むのが正しい(字源・仝上)ようである。白楽天の詩にも、

嬋娟雨鬢秋蝉翼
宛轉雙我遠山色
笑随戯伴後園中
此時興君未相識(新楽府・井底引銀瓶)、

とある。

その姿を強調し、

嬋娟窈窕(嬋妍窈窕)、

ともいう。「窈窕」の「窈」は、「奥深し」「静香」「うるわし」、「窕」は、「美しい」「奥ゆかしい」「静か「ふかい」といった意味(漢字源)なので、

窈窕淑女、君子好逑(詩経)、

と、

美しく嫋やかなさま、

の意だが、これは、

云有第三郎、窈窕世無雙(古詩)、

と、

男子のしとやかなるさま、

にもいい(字源)、

既窈窕以尋壑(陶淵明)、

と、

山水などの奥深いさま、

にもいう(仝上)。

「嬋」 漢字.gif


「嬋」(漢音セン、呉音ゼン)は、

会意兼形声。「女+音符單(タン・ゼン ひとえ、かるくひらひらする)」、

で、身のこなしが軽くやわらかなさまの意である(漢字源)。

「嬋」 説文解字・漢.png

(「嬋」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AC%8Bより)

「娟」(ケン・エン)は、

右の旁(ケン・エン)は、まるくくびれた虫のこと。娟はそれを音符として、女を加えた字で、くねくねとして身ごなしの軽い意を表す、

とあり、うつくしい、身軽でスマートなさま、とある(漢字源)。こうみると、「嬋娟」は、身のこなしの軽さを言い表しているだけだが、

「嬋娟」は、軽やかに身をくねらせるあでやかな女性、転じて、詩では、花・月などの美しさを形容するのに用いる、

とある(仝上)。

「娟」 漢字.gif


「妍」(慣用ケン、漢音・呉音ゲン)は、

会意兼形声。幵(ケン)は、干印を二つ並べて、揃って整ったことを示す。妍は「女+音符幵」で、女性の容姿の磨きのかかった美しさを意味する、

とある(仝上)。

「妍」 漢字.gif


参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:16| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする