2022年04月21日
羅綺
羅綺にだも堪へざるかたち、誠にたをやかに物痛はしげにて、未だ一足も土をば踏まざりける人よと覚えて(太平記)、
にある、
羅綺(らき)にだも堪へざるかたち、
は、
薄絹の衣の重さにも堪えられそうにないさま、
の意とある(兵藤裕己校注『太平記』)。
羅綺に任(た)へえざるがごとし(陳鴻傳『長恨歌傳』)、
に典拠しているらしい(仝上)。
「羅綺」は、
羅(うすもの)と綺(あやぎぬ あや・模様のある絹の布)、
の意で、それをメタファとして、
美しい衣服、
の意でも使うが、上記の引用は、
うすい絹のように軽いもの、
の喩えとして使っている。「羅」は、
本来、鳥網の意味で、経糸を交互にからみ合わせてその中に緯糸を通し、網をすくうようにして織った、目の粗い絹織物のこと、
をいい、「あやぎぬ」は、
細かい綾模様を織り出した綸子の一種で、きらきらする光沢のある紋織物、
を指す(http://www.so-bien.com/kimono/%E7%A8%AE%E9%A1%9E/%E7%B6%BA%E7%BE%85.html)とある。
「羅綺」は、
皆得服綾錦羅綺紈(ガン 白絹)素金銀篩鏤之物(魏史・夏侯尚傳)、
と使う(字源)が、
河北則羅綾紬紗鳳翮葦席(玉海)、
と、
羅綾(らりょう)、
も、
うすぎぬとあやぎぬ、
と、同じ意味になるし、
車乗填街衢、綺羅盈府寺(顔氏家訓)、
と、「羅綺」の逆、
綺羅、
も、
あやぎぬとうすぎぬ、
の意となる(仝上)。「綺羅」は、
隙駟(ゲキシ 月日のたつのが早いこと)追ひがたし、綺羅の三千暗に老いんだり(和漢朗詠集)、
と、
装い飾ること、
はなやかであること、
の意や、
世のおぼえ、時のきら、めでたかりき(平家物語)、
と、
栄花をきわめること、
威光が盛んであること、
寵愛を受けること、
と言った意味でも使う(広辞苑)。
「きら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449864898.html)で触れたように、「綺羅」は、
綺羅、星の如く、
と使われ、
綺羅を磨く、
と、
華美を凝らす、
という意で使う。
綺羅星、
は、
綺羅、星の如く、
の意で、
暗夜にきらきらと光る無数の星、
を意味するが、
「綺羅」は美しい衣服のことで、「綺羅、星の如し」は、美しい服の人が居並ぶ様子。「綺羅星」で輝く星とするのは誤解から生じた、
とある(擬音語・擬態語辞典)。
「羅」(ラ)は、
会意。「网(あみ)+維(ひも、つなぐ)」
とあり(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%BE%85)、
网と、維(つなぐ意)とから成り、あみを張りめぐらす意を表す、
ともあり(角川新字源)、また、
会意文字です(罒(网)+維)。「網」の象形と「より糸の象形と尾の短いずんぐりした小鳥と木の棒を手にした象形(のちに省略)」(「鳥をつなぐ」、「一定の道筋につなぎ止める」の意味)から、「鳥を捕える網」を意味する「羅」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2007.html)。
「綺」(キ)は、「綺ふ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484547997.html)で触れたように、
会意兼形声。「糸+音符奇(まっすぐでない、変わった形)」、
とあり(漢字源)、「あや」「あやぎぬ」の意で、別に、
会意兼形声文字です(糸+奇)。「より糸」の象形(「糸」の意味)と「両手両足を広げた人の象形と、口の象形と口の奥の象形(「かぎ型に曲がる」の意味)」(「普通ではない人、優れている人」の意味)から、「目をうばうような美しい模様を織りなした絹」を意味する「綺」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2359.html)。現存する中国最古の字書『説文解字(100年頃)』には、
綺、文繪(あやぎぬ)也、
とある(大言海)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95