2022年04月25日

会笏


ただ、めでたき歌どもにて候へと、会笏せぬ人はなかりけり(太平記)、
敵の村立(むらだ)つたる中へ、会笏もなく懸け入らんとす(仝上)、
其時此老僧、会釈して(仝上)、

などとある、

会笏、

は、

会釈、

の当て字、最初の「会笏」は、

お世辞、

の意、

次の「会笏」は、

名乗り、

の意とある(兵藤裕己校注『太平記』)。最後の「会釈」は、

挨拶、
お辞儀、

の意と思われる。

「会釈」http://ppnetwork.seesaa.net/article/467504382.htmlで触れたように、「会釈(ゑしゃく)」は、

凡そ諸経論の文は、人の信により、意楽(いげふ)によって、様々の会釈(ヱシャク)をのぶる者也(「真如観(鎌倉初)」)、

とあるように、

(仏語)和会(わえ)通釈の意。前後相違してみえる内容を互いに照合し、意義の通じるようにすること(広辞苑)、
仏教用語「和会通釈(わえつうしゃく)」の略である。和会通釈とは、一見矛盾する教義どうしを照合し、根本にある共通する真実の意味を明らかにすることである(語源由来辞典)、
(「和会(わえ)通釈」の意)仏語。一見矛盾しているように思われる異義、異説の相違点を掘り下げて、その根本にある、実は矛盾しない真実の意味を明らかにすること(精選版日本国語大辞典)、
中国語の「仏法を会得し解釈する」が本来の語源(日本語源広辞典)、

等々諸書、

和会通釈(わえつうしゃく)、

を由来とする。確かに、

会得して、心の中に釈然と解き得ること、

の意ではある(大言海)が、また、

相会ひて、打ち解け語らふこと、

の意ともある(大言海)。

「釋(釈)」(漢音シャク、呉音セキ)の字をみると、

会意兼形声。睪(エキ)は「目+幸(刑具)」から成り、手かせをはめた罪人を、ひとりつずつ並べて面通しすること。釋はそれを音符とし、釆(ばらばらにわける)を加えた字で、しこりをばらばらにほぐし、ひとつずつにわけて、一本の線に連ねること。釈は、音符を尺に換えた略字、

とある(漢字源)。「釋」は、「とく」意で、

しめて固めたものを、ひとつひとつ解きほぐす、分からない部分やしこりをときほぐす、

意で、「釈然(しこりがとけてさっぱりする)」「氷釈(氷がとけるようにほぐれる)」等々と使い、そこから、「保釈」といった「いましめをとく」意に転じ、「堅持不釈」と、「すてる」意となる。

「會(会)」(漢音カイ、呉音エ・ケ)の字は、

会意。「△印(あわせる)+會(増の略体 ふえる)」で、多くの人が寄り集まって話をすること、

とある(漢字源)。「会合」「会見」の「あう」とか、「機会」のようなめぐりあわせ、あるいは物事に「であう」意、「会心」の思い当たる意でもある(仝上)。

これらを考えると、「会釈」は、一般には、たしかに、

和会通釈(わえつうしゃく)

由来とされるが、もともと、

会得して、心の中に釈然と解き得ること、
あるいは、
打ちとけ語らふこと、

の意味があった(大言海)ものと思われる。だから、

一言会釈、一坐飲酒(説法明眼論)、

と、

仏教にては、法門の難儀を会得解釈すること、

に転用したのではあるまいか。勿論憶説ではあるが。

和会通釈(わえつうしゃく)、

は、

会通(えつう)、
和会、
融会(ゆうえ)、

ともいい、一般には、

一見矛盾しているように思われる異義、異説の相違点を掘り下げて、その根本にある、実は矛盾しない真実の意味を明らかにする、

意とされ、転じて、

義云。……未知、与此条若為会釈(「令集解(868)」)、
あまりに会釈すぎたり(成簣堂本沙石集)、

と、

あれこれ思い合わせて、納得できるような解釈を加えること

となり、転じて、

大納言の、其の心を会釈せらるるにや(無名抄)。

と、

前後の事情をのみこんで理会する、

意や、

人の心情けなくゑしゃく少なきところも、かかる世界におはせんも恐ろしう(「浜松中納言(11世紀中)」)、

と、

一方的でなくいろいろな方面に気を配ること、
あれこれの事情を考慮に入れること、

つまり、

遠慮会釈なく、

というように、

配慮、
斟酌、
心づかい、

の意になり、

又一定(いちじょう)をとはんをりは、両方に会尺(ゑしゃく)をまうくる由の案どもにて(「愚管抄(1220)」)、

と、

あれこれとやむを得ない事情を説明すること、
言いわけ、
申し開き、

の意から、

入道の弔ひ、当座の会釈とおぼえたり(源平盛衰記)、

と、

相手の心をおしはかって応対すること、
応接のもてなし、

の意や、

大矢の左衛門尉致経、あまたの兵(つはもの)を具してあへり。国司会尺する間致経がいはく(「宇治拾遺(1221頃)」)、

と、

儀礼にかなった応対、
儀礼的な口上を述べること、
あいさつ、

の意に転ずる。それが

Yexacuno(エシャクノ) ヨイヒト(「日葡辞書(1603~04)」)、

の、

好意を示す応対、
態度、
愛想、

の意となり、

えしゃくこぼす(愛敬ある様子をする)、
えしゃくこぼる(愛敬が顔に現われる)、

と使われ、江戸期になって、

役目なれば罷通ると、会釈(ヱシャク)もなく上座に着ば(「浄瑠璃・仮名手本忠臣蔵(1748)」)、

と、

えさく、

とも訛り、

ちょっと頭を下げて礼をすること、
軽いお辞儀、
一礼、

の意となる(精選版日本国語大辞典)。江戸語大辞典には、

軽くお辞儀する、

の意の外に、

しばしゑしやくせしが(「契情買虎之巻(安永七年(1778))」)、

と、

差し控える、遠慮する、

意でも使って、両者の距離の確認に代わっている。この意味は、

遠慮会釈もなく、

にわずかにその含意が残っている以外、今日は、

軽くお辞儀する、
にこやかにうなずく、
一礼する、

といった意になっている。因みに、「会釈」は、

あしらひ(い)、

と訓ませると、能楽で、

能楽の型の一つ。相手役の方に体を向けて、互いに気持を通わせること、
能の囃子でリズムにはっきりと合わせず伴奏すること、
拍子に合わない謡に、大、小の鼓または大、小の鼓と太鼓でする伴奏、
大、小の鼓または大、小の鼓と太鼓の囃子とは独立した、拍子に合わない笛の伴奏、
シテ、ワキなどの登場、退場の時に奏する伴奏、あしらい出し、あしらい込み、
シテの物着(ものぎ)の間に演奏する物着あしらい、また、シテが橋掛りから舞台に入る時演奏する歩みのあしらいなど、

狂言で、

伴奏すること、リズムに合わせても、色どり程度の伴奏なのでこう呼ぶ、
囃子事の総称。狂言会釈(きょうげんあしらい)とも呼ぶ、
相手に体を向けて適当に応対をすること(「長刀会釈(なぎなたあしらい)」という成句もある)、

俳諧で、

支考の付句論。連句において付け心の分類の1つ「七名(しちみょう)」の内の1つ。打越(うちこし 付句の前々句のこと。付句をする場合、この句と題材、趣向が似ることを嫌う)の難しいときなどに、前句の人の容姿や周辺の器材などをもって程よくその場をあしらってゆく方法、

長唄で、

自由な形で即興演奏する手法、

等々様々な意味で使われる(広辞苑・精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。

「會」 漢字.gif

(「會(会)」 https://kakijun.jp/page/kai13200.htmlより)

「會(会)」(漢音カイ、呉音エ)の字は、

会意。「△印(あわせる)+會(増の略体 ふえる)」で、多くの人が寄り集まって話をすること、

とした(漢字源)が、異説があり、

ふたのある鍋を象り、いろいろなものを集め煮炊きする様を言う、

という象形説(白川静)と、上記、

「亼」(集める)+「曾」(「増」の元字)多くの人が寄り集まることを意味する、

とする会意説(藤堂明保)とがありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%83

「會」 甲骨文字・殷.png

(「會」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%83より)

会意。曾(こしき)にふたをかぶせるさまにより、「あう」、ひいて「あつまる」意を表す。教育用漢字は省略形の俗字による(角川新字源)、

象形文字です。「米などを蒸す為の土器(こしき)に蓋(ふた)をした」象形から土器と蓋(ふた)が、うまく「あう」を意味する「会」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji257.html

曾(こしき)説、

の方が目につく。

「釋」 漢字.gif


「釋(釈)」(漢音シャク、呉音セキ)の字も、上記(漢字源)の、

会意兼形声。睪(エキ)は「目+幸(刑具)」から成り、手かせをはめた罪人を、ひとりつずつ並べて面通しすること。釋はそれを音符とし、釆(ばらばらにわける)を加えた字で、しこりをばらばらにほぐし、ひとつずつにわけて、一本の線に連ねること。釈は、音符を尺に換えた略字、

とする説以外に、

形声。釆と、音符睪(エキ)→(セキ)とから成る。種子をよりわける、ひいて、解き分ける、はなつなどの意を表す。常用漢字は俗字による、

とか(角川新字源)、

形声文字です(釆+尺(睪))。「獣の指のわかれている」象形(「分ける」の意味)と「人の目の象形と手かせの象形」(「罪人を次々と面通しする」意味だが、ここでは、「斁(エキ)」に通じ(同じ読みを持つ「斁」と同じ意味を持つようになって)、「固まりを分解する」の意味)から、「分解する」を意味する「釈」という漢字が成り立ちました。

とかhttps://okjiten.jp/kanji1361.html

形成(意味を表す部分と音を表す部分を組み合わせて作られた)文字説、

が目につく。

「笏」 漢字.gif


「笏」(慣用シャク、漢音コツ、呉音コチ)は、

形成、「竹+音符勿(モツ・コツ)」、

で(漢字源)、

「笏」の本来の読みは「コツ」であるが、「骨」に通じるのを忌み、また日本で用いた笏の長さが一尺だったので「尺」の音を借りたもの、

とある(仝上)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:会笏 会釈
posted by Toshi at 04:03| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする