2022年04月26日

輪宝


この時、虚空より輪宝(りんぽう)下り、剣戟(剣と鉾)降って、修羅の輩(ともがら)を分々(つだつだ)に裂き切ると見えたり(太平記)、

にある、

輪宝、

は、

りんぼう、

とも訓み(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、

聖天子の転輪聖王(てんりんじょうおう)が持つ宝器、これが自転して王を先導して四方を征服・教化する、

とある(兵藤裕己校注『太平記』)。

転輪聖王の石レリーフ、アショーカ王と思われる(紀元前1世紀).jpg

(転輪聖王の石レリーフ、アショーカ王と思われる(紀元前1世紀) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%A2%E8%BC%AA%E8%81%96%E7%8E%8Bより)

「転輪聖王(てんりんじょうおう)」とは、

従此洲、人壽無量歳、乃至八萬有、転輪王生、……此王由輪旋轉、應導威伏一切、名轉輪王(俱舎論)、

と、

転輪王、

ともいい、

チャクラヴァルティラージャン(cakravartiraajan)あるいは、チャクラヴァルティン(cakravartin)の訳語、

で、

チャクラは「輪」、ヴァルティンは「動かすもの」、

の意味とされ、

古代インドの思想における理想的な王を指す概念、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%A2%E8%BC%AA%E8%81%96%E7%8E%8B

世界は繁栄と衰退の循環を繰り返し、繁栄の時には人間の寿命は8万年であるが、人間の徳が失われるにつれて寿命は短くなり、全ての善が失われた暗黒の時代には10年となる。その後、人間の徳は回復し、再び8万年の寿命がある繁栄の時代を迎える。転輪聖王が出るのはこの繁栄の時代であり、彼は前世における善行の結果転輪聖王として現れる、

とあり(仝上)、転輪聖王は、

四天下を統一して正法をもって世を治める王。輪宝を転じて敵対するものを降伏させるところからこの名がある、

が、輪宝の種類(金・銀・銅・鉄)によって、

金輪王、
銀輪王、
銅輪王、
鉄輪王、

の4種があり、

鉄輪王は鉄の輪宝を持ち、(古代インドの世界観で地球上に4つあるとされた大陸のうち)1つの大陸、

を支配し、

銅輪王は銅の輪宝を持ち、2つの大陸、

を支配し、

銀輪王は銀の輪宝を持ち、3つの大陸、

を支配する。そして最上の転輪聖王である金輪王は、

金の輪宝を持ち、4つの大陸全てを支配する、

とある(仝上)。また、

若以三十二相、観如来者、轉輪聖王則是如来(金剛経)、

と、

輪宝のほかに六宝を有し、身に三十二相をそなえ、

出世間(解脱)の仏と対比される。これらの王が出現するときは、

金輪王は人間の寿命が無量から八万歳の間に出現し、鉄輪王は人寿百歳のとき、他はその間で一定しない、

という(仝上・精選版日本国語大辞典)。

この「転輪聖王」の「輪」とは、

聖王の感得せる輪宝、

の意であり(大言海)、「輪宝」は、

転輪聖王の感得する七宝の一つ、

で(広辞苑)、

車輪の形して、八方に鋒端を出す、これを用ゐて加持すれば、旋轉應導して、一切を威伏す、又、轉輪王の位に即く時、天より感得せしと云ふ宝器、

とある(大言海)。

輪宝.bmp

(輪宝 精選版日本国語大辞典より)

転輪聖王遊行(ゆぎょう)の時、必ず先行して、四方を制する、

とある(仝上)。ちなみに、「七宝(しちほう)」とは

輪宝(チャッカラタナ cakkaratana) 四方に転がり、王に大地を平定させる、
象宝(ハッティラタナ hatthiratana) 空をも飛ぶ純白の象、
馬宝(アッサラタナ assaratana) 空をも飛ぶ純白の馬、
珠宝(マニラタナ maniratana) 発する光明が1由旬にも達する宝石、
女宝(イッティラタナ itthiratana) 美貌と芳香を持つ従順かつ貞節な王妃、
居士宝(ガハパティラタナ gahapatiratana) 国を支える財力ある市民、
将軍宝(パリナーヤカラタナ parinayakaratana) 賢明さ、有能さ、練達を備えた智将、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%A2%E8%BC%AA%E8%81%96%E7%8E%8B

また「輪宝」が、転輪王の所持する宝器であるところから、「輪宝」は、

転輪王、
転輪聖王、

の意ともされる(精選版日本国語大辞典)。

「輪」 漢字.gif


「輪」(リン)は、

会意兼形声。侖は、順序よく並ぶ意を含む。輪は「車+音符侖(リン)」で、軸の周りに整然と輻(や)が配列され、組み立てられたわのこと、

とある(漢字源)。ひいては、まるいものの意に用いる(角川新字源)。別に、

会意兼形声文字です(車+侖)。「車」の象形と「3線が合う事を示す文字と文字を書く為にヒモで結んだふだの象形」(「すじ道をたて考えをまとめる」の意味)から車のタイヤが放射状に秩序だって並んでいる、すなわち、「わ(車輪)」を意味する「輪」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji673.html

「寶」 漢字.gif


「寶(宝)」(慣用ホ、漢音呉音ホウ)は、

形声。「宀」+「玉」+「貝」+音符「缶 /*PU/」。音符を除いた部分は、宝石や貝貨といった貴重品が建物に収蔵された様子。{寶 /*puuʔ/}を表す字、

とする説と、

会意。「宀(建物)」に「玉」、「缶」、「貝」といった財貨を集めた様。「缶」は音を表す、

とする説がありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B6、似ているようだが、

後者については、甲骨文字や金文などの資料と一致していない記述が含まれていたり根拠のない憶測に基づいていたりするためコンセンサスを得られていない、

ともある(仝上)が、

会意。「宀(かこう)+珠+缶(ほとぎ)+貝(かいのかね)」で、玉や土器や財貨などを屋根の下に入れ、大切に保管する意を示す(漢字源)、
会意形声。宀と、王(=玉)と、貝(貨幣)と、缶(フウ)→(ホウ 酒つぼ)とから成る。玉などをつぼに入れて家の中にたいせつにしまっておく、ひいて、財宝の意を表す(角川新字源)、
会意兼形声文字です(宀+玉+缶+貝)。「屋根・家屋」の象形と「3つ玉を縦ひもで貫き通した」象形と「酒などの飲み物を入れる腹部の膨らんだ土器」の象形と「子安貝(貨幣)」の象形から、屋内に宝石と貨幣と土器がある事を意味し、そこから、「たから」を意味する「宝」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1067.html

とほぼ前者の説である。

「寶」 甲骨文字.gif

(「寶」 甲骨文字 http://jiagumima.cn/html/jiaguwenzidian_3485.htmlより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:59| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする