2022年04月27日
三熱
あら熱や、堪へ難や。いで三熱の炎を醒まさんとて、閼伽井(あかい)の井の中へ蜚(と)びおりたければ(太平記)、
にある、
三熱、
は、「天人五衰」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/431420217.html)で触れたように、仏語で、
竜・蛇などのうける三つの苦悩、熱風・熱沙に身を焼かれること、悪風が吹いて住居・衣服を奪われること、金翅鳥(こんじちょう)に(子を)捕食されること、
を指す、とあり(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、
三患、
ともいう。因みに、金翅鳥は、
迦楼羅者、是金翅鳥(倶舎論)、
とあるように、
迦楼羅(かるら)、
に同じであり、迦楼羅は、
梵語garuḍaの音写、
金翅鳥は、
garuḍaの訳語、
である(仝上)
「迦楼羅炎」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/486022291.html)で触れたように、金翅鳥は、
インド神話における巨鳥で、龍を常食にする、
とある(広辞苑)が、
インド神話において人々に恐れられる蛇・竜のたぐい(ナーガ族)と敵対関係にあり、それらを退治する聖鳥として崇拝されている。……単に鷲の姿で描かれたり、人間に翼が生えた姿で描かれたりもするが、基本的には人間の胴体と鷲の頭部・嘴・翼・爪を持つ、翼は赤く全身は黄金色に輝く巨大な鳥として描かれる、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%80)、仏教に入って、
八部衆の一つ迦楼羅(かるら)とは別のものであったが、同一視され天竜八部衆の一として、仏法の守護神とされる。翼は金色、頭には如意珠がおり、常に口から火焔を吐くという。日本で言う天狗はこの変形を伝えたものとも言う、
とある(仝上)。
また、「閼伽井(あかい)」は、
仏に供える水を汲む井戸、
とある(兵藤裕己校注『太平記』)が、「閼伽」は、
梵語アルガarghaの音訳、
で、
阿伽、
遏伽、
とも表記する。
器、
功徳(くどく)水、
水、
と訳す。
価値あるもの、
の意で、
客人を接待するにもっとも必要な水を意味し、転じて神に供える捧(ささ)げ物の意となり、それを盛る容器の総称、
となったが、仏教では、
仏菩薩に献ずる聖水、
をさし、密教では、
仏や諸尊に捧げる六種供養(閼伽、塗香(ずこう)、華鬘(けまん)、焼香(しょうこう)、飲食(おんじき)、灯明(とうみょう))の一として、煩悩(ぼんのう)の垢(あか)を洗うもの、
とされる。一般には、
仏前や墓前などに供える神聖な水、
を、
閼伽水、
とし、この浄水をくむ井戸を、
閼伽井、
という(日本大百科全書・精選版日本国語大辞典)。ために、「閼伽」のみでも、
仏前に供える水を入れる器、
の意とする(仝上)。
「三」(サン)は、「三会」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484736964.html)で触れたように、
指事。三本の横線で三を示す。また、参加の參(サン)と通じていて、いくつも混じること。また杉(サン)、衫(サン)などの音符彡(サン)の原形で、いくつも並んで模様を成すの意も含む、
とある(漢字源)。また、
一をみっつ積み上げて、数詞の「みつ」、ひいて、多い意を表す、
ともある(角川新字源)。
「熱」(漢音ゼツ、呉音ネツ・ネチ)は、
形声。埶は、人がすわって植物を植え、育てるさま。その発音を借りて、音符としたものが熱の字(セイ→ゼツ)。もと火が燃えて熱いこと。燃の語尾がつまったことば、
とある(漢字源・角川新字源)。別に、
形声文字です(埶+灬(火)。「人が植木を持つ」象形(「植える」の意味だが、ここでは「然」に通じ(「然」と同じ意味を持つようになって)、「火で焼く」の意味)と「燃え立つ炎」の象形から、「あつい」を意味する「熱」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji655.html)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95