2022年04月29日

秋刑


召人(めしうど)京都に着きければ、皆黒衣を脱がせ、法名を元の名に替へて、一人ずつ大名に預けらる。その秋刑を待つ程に(太平記)、

にある、

秋刑、

とは、

処刑。秋は草木を枯らすことから、古代中国では秋官が刑罰を司るとされた(周礼)、

とある(兵藤裕己校注『太平記』)。

「秋官」は、

秋官、其属六十、掌邦刑(周禮)、

とある、

中国、周代の六官(りくかん)の一つ。訴訟、刑罰をつかさどった司法官、

とあり(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、この「秋」は、

秋は、粛殺を主(つかさどる)る故に云ふ(大言海・字源)、
秋が草木を枯らすように、きびしいことから(広辞苑)、

の故であり、「秋刑」の「秋」も、

秋の気は万物を粛殺するところから、「周礼」で秋官が刑罰をつかさどるのによる(精選版日本国語大辞典)、
秋は、草木の凋落するなれば、刑に譬えて云ふ(大言海)、

となる。

周代の「六官(りくかん)」は、

中央政府の官吏を天官・地官・春官・夏官・秋官・冬官の六つに分け、それぞれ、治・教・礼・兵・刑・事を分掌させた、その六つの官の総称、

どあり(精選版日本国語大辞典)、天官(てんかん)は、

国政を総轄し、宮中事務をつかさどる官の総称、

「地官(ちかん)」は、

司徒の職で教育・土地・人事などをつかさどる、

「春官(しゅんかん)」は、

王を補佐して祭典や礼法をつかさどる、

「夏官(かかん)」は、

司馬の職で、軍政をつかさどる、

「冬官(とうかん)」は、

司空(しくう)の職で、土木工作の事をつかさどる

もので、この「六官(りっかん)」の長が、それぞれ、

冢宰(ちょうさい)、
司徒、
宗伯、
司馬、
司寇(しこう)、
司空、

となる。「秋官」の長は、

秋官司冦刑官之属(周禮)、

と、

司寇、

となる。この六官の長を、

六卿(りくけい、りっけい)、

といい、

冢宰(ちょさい・ちょうさい)、

が、

六官の長で天子を補佐し、百官を統御した官、

とある(仝上)。

司空・司馬・司徒、

は、

三公の一つ、

とされ、

天子を補佐する三人、

とされる(仝上)。

「龝」 漢字.gif

(「龝(秋)」 https://kakijun.jp/page/aki21200.htmlより)

「秋(龝・穐)」(漢音シュウ、呉音シュ)は、「秋」http://ppnetwork.seesaa.net/article/466853732.htmlで触れたように、

会意。もと「禾(作物)+束(たばねる)」の会意文字で、作物を集めて束ね、おさめること。龝は、「禾+龜+火」で、「龜(カメ)」を日でかわかすと収縮するように、作物を火や太陽でかわかして収縮させることを示す。収縮する意を含む、

とあり(漢字源)、似た趣旨で、

会意兼形声文字です(禾+火+龜)。「穂の先が茎の先端に垂れかかる」象形(「稲」の意味)と「燃え立つ炎」の象形(「火」の意味)と「かめ」の象形(「亀(かめ)」の意味)から、カメの甲羅に火をつけて占いを行う事を表し、そのカメの収穫時期が「あき」だった事と、穀物の収穫時期が「あき」だった事から「あき」を意味する「秋」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji92.htmlが、

「龝」 金文・西周.png

(「龝」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8Bより)

「龝」 甲骨文字・殷.png

(「龝」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8Bより)

別に、

元の字を「龝」+「灬」につくり、穀物につく「龜」(カメではなくイナゴ)を焼き殺す季節の意(白川静)、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8B

形声。禾と、音符「『龝』+『灬』から成る字」、音符(セウ)→(シウ 龜・火は省略形)とから成る。いねの実りを集める、ひいて、その時期「あき」の意を表す、

とも(角川新字源)あり、殷時代の文字を見る限り、龜とは見えない。

「龝」+「灬」につくり、穀物につく「龜」(カメではなくイナゴ)を焼き殺す季節の意、

が正確なのではあるまいか。

「刑」 漢字.gif

(「刑」 https://kakijun.jp/page/0633200.htmlより)

「刑」(漢音ケイ、呉音ギョウ)は、

会意兼形声。左側の形は、もと井。井(ケイ)は、四角いわくを示す。刑は「刀+音符井」。わくの中へ閉じ込める意を含み、刀で体刑を加えてこらしめる意を示すため、刀印を加えた、

とあり(漢字源)、同趣旨の、

会意形声。「刀」+音符「井」、「井」は「型枠」、罪人を桎梏など型枠にはめ懲らしめること、更に「刀」を添えて体刑の意を加える。同系字に「形」「型」、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%91

会意兼形声文字です。「わく・かた」の象形と「刀」の象形から、刀や手かせや・足かせを使って「罰を加える」、「しおき」を意味する「刑」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji1635.htmlあるが、別に、

形声。刀と、音符幵(ケン)→(ケイ)(开は省略形)とから成る。㓝は、会意形声で、刀と、井(セイ)→(ケイ わく、きまり)とから成る。「のり」、転じて、のりに照らしてつみする意を表す、

とあり(角川新字源)、この説の方が自然な気がする。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:秋刑
posted by Toshi at 03:59| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする