召人(めしうど)京都に着きければ、皆黒衣を脱がせ、法名を元の名に替へて、一人ずつ大名に預けらる。その秋刑を待つ程に(太平記)、
にある、
秋刑、
とは、
処刑。秋は草木を枯らすことから、古代中国では秋官が刑罰を司るとされた(周礼)、
とある(兵藤裕己校注『太平記』)。
「秋官」は、
秋官、其属六十、掌邦刑(周禮)、
とある、
中国、周代の六官(りくかん)の一つ。訴訟、刑罰をつかさどった司法官、
とあり(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、この「秋」は、
秋は、粛殺を主(つかさどる)る故に云ふ(大言海・字源)、
秋が草木を枯らすように、きびしいことから(広辞苑)、
の故であり、「秋刑」の「秋」も、
秋の気は万物を粛殺するところから、「周礼」で秋官が刑罰をつかさどるのによる(精選版日本国語大辞典)、
秋は、草木の凋落するなれば、刑に譬えて云ふ(大言海)、
となる。
周代の「六官(りくかん)」は、
中央政府の官吏を天官・地官・春官・夏官・秋官・冬官の六つに分け、それぞれ、治・教・礼・兵・刑・事を分掌させた、その六つの官の総称、
どあり(精選版日本国語大辞典)、天官(てんかん)は、
国政を総轄し、宮中事務をつかさどる官の総称、
「地官(ちかん)」は、
司徒の職で教育・土地・人事などをつかさどる、
「春官(しゅんかん)」は、
王を補佐して祭典や礼法をつかさどる、
「夏官(かかん)」は、
司馬の職で、軍政をつかさどる、
「冬官(とうかん)」は、
司空(しくう)の職で、土木工作の事をつかさどる
もので、この「六官(りっかん)」の長が、それぞれ、
冢宰(ちょうさい)、
司徒、
宗伯、
司馬、
司寇(しこう)、
司空、
となる。「秋官」の長は、
秋官司冦刑官之属(周禮)、
と、
司寇、
となる。この六官の長を、
六卿(りくけい、りっけい)、
といい、
冢宰(ちょさい・ちょうさい)、
が、
六官の長で天子を補佐し、百官を統御した官、
とある(仝上)。
司空・司馬・司徒、
は、
三公の一つ、
とされ、
天子を補佐する三人、
とされる(仝上)。
(「龝(秋)」 https://kakijun.jp/page/aki21200.htmlより)
「秋(龝・穐)」(漢音シュウ、呉音シュ)は、「秋」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/466853732.html)で触れたように、
会意。もと「禾(作物)+束(たばねる)」の会意文字で、作物を集めて束ね、おさめること。龝は、「禾+龜+火」で、「龜(カメ)」を日でかわかすと収縮するように、作物を火や太陽でかわかして収縮させることを示す。収縮する意を含む、
とあり(漢字源)、似た趣旨で、
会意兼形声文字です(禾+火+龜)。「穂の先が茎の先端に垂れかかる」象形(「稲」の意味)と「燃え立つ炎」の象形(「火」の意味)と「かめ」の象形(「亀(かめ)」の意味)から、カメの甲羅に火をつけて占いを行う事を表し、そのカメの収穫時期が「あき」だった事と、穀物の収穫時期が「あき」だった事から「あき」を意味する「秋」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji92.html)が、
(「龝」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8Bより)
(「龝」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8Bより)
別に、
元の字を「龝」+「灬」につくり、穀物につく「龜」(カメではなくイナゴ)を焼き殺す季節の意(白川静)、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A7%8B)、
形声。禾と、音符「『龝』+『灬』から成る字」、音符(セウ)→(シウ 龜・火は省略形)とから成る。いねの実りを集める、ひいて、その時期「あき」の意を表す、
とも(角川新字源)あり、殷時代の文字を見る限り、龜とは見えない。
「龝」+「灬」につくり、穀物につく「龜」(カメではなくイナゴ)を焼き殺す季節の意、
が正確なのではあるまいか。
「刑」(漢音ケイ、呉音ギョウ)は、
会意兼形声。左側の形は、もと井。井(ケイ)は、四角いわくを示す。刑は「刀+音符井」。わくの中へ閉じ込める意を含み、刀で体刑を加えてこらしめる意を示すため、刀印を加えた、
とあり(漢字源)、同趣旨の、
会意形声。「刀」+音符「井」、「井」は「型枠」、罪人を桎梏など型枠にはめ懲らしめること、更に「刀」を添えて体刑の意を加える。同系字に「形」「型」、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%91)、
会意兼形声文字です。「わく・かた」の象形と「刀」の象形から、刀や手かせや・足かせを使って「罰を加える」、「しおき」を意味する「刑」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1635.html)あるが、別に、
形声。刀と、音符幵(ケン)→(ケイ)(开は省略形)とから成る。㓝は、会意形声で、刀と、井(セイ)→(ケイ わく、きまり)とから成る。「のり」、転じて、のりに照らしてつみする意を表す、
とあり(角川新字源)、この説の方が自然な気がする。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:秋刑