旧功の輩(ともがら)を招き集められけるに、龍鱗に付いて鳳翼を攀(よ)ぢ、宿望を達せばやと(太平記)、
にある、
龍鱗に付いて鳳翼を攀ぢ、
は、普通、
竜鱗に攀じて鳳翼に附す、
という。
天下士大夫、捐親戚棄土壌、従大王於矢石之閒者、其計固望其攀龍鱗、附鳳翼、以成其所志耳(後漢書・光武紀)、
に依る、
竜のうろこにつかまり、鳳凰の翼につき従う、
つまり、
「攀」は、とりすがって上る、「附」は、つきしたがう、
意で、
勢力のある者にすがりて、立身すること、
である(大言海)。「龍鱗」は、
リュウリン、
とも
リョウリン、
とも訓み、文字通り、
龍の鱗、
の意だが、
臣下のたのみとなる偉大な英主、
の意である(広辞苑)。
臣下が英主に従って功業を立てる、
の意をメタファに、
閉戸著書多歳月、種松皆老作攀龍(王維)、
と、
老松などの幹の樹皮が竜の鱗の形に似たもの、
に譬えたり、
先賢を手本に人徳を養うことのたとえ、
にも使ったり(広辞苑)、
敵虎韜(包囲、攻撃する陣立)に連ねて圍めば、虎韜に分れて相當り、龍鱗に結びて蒐(かか)れば、龍鱗に進んで戦ふ(太平記)、
と、
陣立て、
の一つとしても使う(大言海)。
(「鳳凰」 精選版日本国語大辞典より)
「鳳凰」は、
古来中国で、麒麟、亀、龍とともに四瑞(しずい 四霊)と尊ばれた想像上の瑞鳥、前は麒麟、後は鹿、頸は蛇、尾は魚、背は亀、頷(あご)は燕、嘴は鶏に似、五色絢爛、聲は五声にあたり、梧桐に宿り、竹実を食い、醴泉(れいせん)の水を飲むといい、高さ五、六尺(一・五~一・八メートル)、羽には五色の紋がある。聖徳の天子の兆しとして現れると伝え、雄を鳳、雌を凰という、
とある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。
鳳鳥、
ともいう(仝上)。「四霊」については、「四神相応」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/486277205.html)でも触れた。
(鳳凰(台湾・艋舺龍山寺) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E9%9C%8Aより)
また、「龍鱗を攀じて鳳翼に附す」は、
攀龍附鳳勢莫當、天下盡化為侯王(杜甫)、
と、
攀龍附鳳(はんりょうふほう)、
という四字熟語になっていて、
附鳳、
ともいう(大言海)。似た言葉に、
蒼蠅(そうよう)驥尾に付して千里を致す、
というのがある。これも四字熟語で、
蒼蠅驥尾(そうようきび)、
ともいう。
驥尾に附く、
驥尾に付す、
ともいう(故事ことわざの辞典・広辞苑)。
蠅が驥尾について千里も遠い地に行くように、後進者がすぐれた先達につき従って、事を成し遂げたり功を立てたりする、
意で(広辞苑)、
蒼蠅附驥尾而致千里、以喩顔回因孔子而名彰(史記・伯夷傳)、
蒼蠅之飛、不過十歩、自託驥尾之髪、乃騰千里之路(漢書・張敞(ちょう しょう)傳)、
などによる(大言海・故事ことわざの辞典)。「蒼蠅」は、
あおばえ、
「驥尾」は、
駿馬の尾、
である。なお「蒼蠅」には、
營營青蠅、止手樊(まがき)、豈弟(がいてい 人柄のおだやかなこと)君子、無信、讒言(豈弟は楽易(心が安らかであること)の義)(詩経)、
匪鷄則鳴、蒼蠅之聲(齋風)、
などと、
讒人、
の意もある(字源・大言海)
「龍」(漢音リョウ、呉音リュウ、慣用ロウ)は、「神龍忽ち釣者の網にかかる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/485851423.html)「亢龍悔い有り」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484356729.html)で触れたように、
象形。もと、頭に冠をかぶり、胴をくねらせた大蛇の形を描いたもの。それにいろいろな模様を添えて、龍の字となった、
とある(漢字源)。別に、
象形。もとは、冠をかぶった蛇の姿で、「竜」が原字に近い。揚子江近辺の鰐を象ったものとも言われる。さまざまな模様・装飾を加えられ、「龍」となった。意符としての基本義は「うねる」。同系字は「瀧」、「壟」。古声母は pl- だった。pが残ったものは「龐」などになった、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BE%8D)。
「うろこ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484969775.html)で触れたように、「鱗」(リン)は、
会意兼形声。粦(リン)は、連なって燃える燐の火(鬼火)を表す会意文字。鱗はそれを音符とし、魚を加えた字で、きれいに並んでつらなるうろこ、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(魚+粦)。「魚」の象形(「魚」の意味)と「燃え立つ炎の象形と両足が反対方向を向く象形」(「左右にゆれる火の玉」)の意味から、「左右にゆれる火の玉のように光る魚のうろこ」を意味する「鱗」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji2354.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95