2022年05月11日

諫鼓鶏


かんこどり、

は、

閑古鳥、

とあてると、当て字であるが、

仲夏後寂しい澄んだ声でかっこう、

と鳴くhttps://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1403.html

カッコウ(郭公)、

の意である(広辞苑)。

カッコウドリの転訛、

とされる(広辞苑・岩波古語辞典)。別に、

クヮンコどり(喚子鳥)の義(万葉考・古今要覧稿)、

とする説もあるが、

郭・喚ともに、音クヮク・クヮンとなればカンとは拗直の相違あり、この鳥は「かっこう」と鳴く、また東日本の方言に散在する名も直音カンコドリ、よってその鳴き声より言う名、

とある(江戸語大辞典)。因みに、「拗音(ようおん)」は、

キャ、キュ、キョ、シャ、シュ、ショのように小さなャ、ュ、ョを綴(つづ)りにもつ音節。本来、日本語にはなく、初めは漢語にのみ用いられた。ねじ曲がった音の意で、子音+半母音(jまたはw。半子音ともいう)+母音の構造をもつ音節。これに対しカ、ク、コ、サ、ス、ソなどは直音(ちょくおん)とよぶ。表記は、ヤ行、ワ行の仮名を小さく添えて書く。「キャ」、「シュ」、「チョ」のようにヤ行を添えるものを「開拗音」ないし「ヤ行拗音」、「クヮ」、「グヮ」のようにワ行を添えるものを「合拗音」ないし「ワ行拗音」という。古くはクヮ、グヮがあり、合拗音はのちに「火事(クヮジ)→カジ」のごとくすべて直音化した、

とある(日本大百科全書)。

カッコウ.jpg


その鳴き声を、寂しきもの、

として、

かんこ鳥鳴く、

と、

閑寂なさま、
物寂しいさま、

に用い、

閑古鳥が歌ふ、

ともいい、

商売などのはやらないさま、

に譬え、

閑古鳥が鳴く、

ともいう(仝上)。この、

かんこどり、

に、

諫鼓鶏、

と当てると、

かんこのとり、

とも訓むが、訓読して、

いさめのつづみ、

とも訓ます(大言海)「諫鼓」は、

堯置敢諫之鼓、舜立誹謗之木(淮南子・主術訓)

に基づき、

堯王が、施政に就きて、遍く人民の諫言を求むとて、朝廷に立てたる太鼓。諫めむと欲する者ある時は、これを撃ちて通ぜしむ、されど諫めむとする者なかりければ、鼓に苔を生じ、音することもなかりければ、鷄、鼓の上に止まりて、悠々たり、これを諫鼓の鷄と云ひ、政事治まりて、世の太平なる象とす、

とあり(大言海)、

諫鼓を用いぬこと久しい、

意から、

善政を施す、

という意味で、

諫鼓苔むす、

ともいう(広辞苑)。

敢諫(かんかん)の鼓(こ)、
敢諫鼓、

とも言う(精選版日本国語大辞典)。これに由来して、元和元年(1615)五月、大坂夏の陣に勝利して江戸へ凱旋した二代将軍徳川秀忠は、日枝神社の大祭である6月の山王祭を前に「太平の世を祝って諫鼓鶏の山車を末代に至るまで一番で渡せ」と上意を下し、それまでの「御幣猿」に代わって「諫鼓鶏」を先駆けとした(事績合考)、

といわれhttp://www.tokyo-jinjacho.or.jp/goshahou/kankodori/

諌鼓に鶏が止まっているのは善政が行われて世の中がうまく治まっている、

ということで、「諫鼓鶏」は、まさに、

天下泰平の象徴、

とされhttps://wheatbaku.exblog.jp/23562601/

江戸の山王祭に麹町から出る諫鼓(カンコ)、さし渡しが三百六十間、胴の廻りが五百四五十間(「咄本・御伽噺(1773)てっぽう)」、

と、

江戸時代、江戸の二大祭(神田祭、山王祭)の時に大伝馬町から出た山車(だし)に飾られた(精選版日本国語大辞典)。

山王祭の山車行列は1番が大伝馬町、2番が南伝馬町と決まっていました。1番目の大伝馬町の山車は「諫鼓鶏」の山車で、2番目の南伝馬町の山車が「猿」の山車、

とありhttps://wheatbaku.exblog.jp/23562601/

神田祭でも、この大伝馬町と南伝馬町は1番と2番と決まっていた、

とある(仝上)。「諫鼓鶏」の羽根の色は、

山王祭では、赤青黄白黒の五彩、

で、

神田祭では、白、

として区別されていた(仝上)とあり、広重の「糀町一丁目山王祭ねり込」は五彩ではなく、白なので、誤っていたことになる(仝上)らしい。

諫鼓鷄 広重.jpg

(「糀町一丁目山王祭ねり込」(歌川広重『名所江戸百景』) https://wheatbaku.exblog.jp/23562601/より)

さらに、この「諫鼓鶏」、

小さな太鼓の側面に風車をつけ、下部にとりつけた竹笛を吹いて回転させ、風車の一端につけた糸の先の豆が太鼓をたたくように仕組んだ玩具、

の名ともなった(精選版日本国語大辞典)。

諫鼓鶏(玩具).bmp

(玩具・諫鼓鶏 精選版日本国語大辞典より)

因みに、御輿の上にあるのは、

鳳凰、

で、日本の鳳凰は、

伝来の鳳凰に八咫烏(ヤタガラス)のモデルである金鳥や朱雀がブレンドされ、日本独自に変化したものになっている、

とあるhttp://makotomi-do.com/blog2/1161/。山車の上のは「鷄」、御輿の上のは「鳳凰」ということになる。

諫鼓鷄.jpg

(諫鼓鷄(泉町の山車) https://www.tochigi-city-kura-navi.jp/spot/page.php?id=311より)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:06| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする