2022年05月17日

異界の人


柳田國男『遠野物語・山の人生』を読む。

遠野物語・山の人生.jpg


遠野物語、

で、遠野地方の、

山の神、
神女、
天狗、
山男、
山女、

等々とさまざまに呼ばれる、

山人、

を、広く全国で展開したのが、

山の人生、

で、それを要約したのが、

山人考、

という関係になるのが、本書所収の、

遠野物語、
山の人生、
山人考、

の三作の関係になる。「天狗」http://ppnetwork.seesaa.net/article/487940696.htmlで触れたように、「天狗」は、各地で、

狗賓(ぐひん)、
山人(やまびと)、
大人(おおひと)、
山鬼(さんき)、

とも呼ばれ(仝上・日本昔話事典)、

山の神、

と繋がっているが、さらに柳田が、

山男山女、
山童山姫、
山丈山姥、

を括って、

山人、

と呼ぶ人々は、

ダイダラボッチ、

ともつながる(山人考)。

神人、

から、

妖怪、

へと堕していく流れがあるが、柳田國男は、この源流を、古代の文献の、

土蜘蛛、
国樔(くず)、

にさかのぼり、播磨風土記に、

神前(かみさき)郡大川内、同じく湯川の二処に、異俗人三十許口(みそたりばかり)、

とある、

異俗人、

とつなげ(山人考)、

風俗を異にする人民、

が居たのだとする仮説を展開する。その流れは、たとえば、

高野山の弘法大師などが、猟人の手から霊山の地を乞い受けたなどという昔話は、恐らくはこの事情を反映するものであろうと考えます。古い伽藍の地主神が、猟人の形で案内をせられ、また留まって守護したもうという縁起は、高野だけでは決してないのであります(山人考)。

の、

猟人、

も、また、

平野神社の四座御祭、園神(そのがみ)三座などに、出でて仕えた山人という者も、元は同じく大和の国栖であったろうと思います(山人考)、

の、

山人、

も、

(『今昔物語』などに登場する奇怪な)鬼とは併行して、別に一派の山中の鬼があって、往々にして勇将猛士に退治せられております。斉明天皇の七年八月に、筑前朝倉山の崖の上に踞まって、大きな笠を着て顋を手で支えて、天子の御葬儀を俯瞰していたという鬼などは、この系統の鬼の中の最も古い一つである(仝上)、

という、

鬼、

もまた、同じ系統と見なし、

日本の先住民族、

とするのである(そういえば、確か、鬼は、「化外の民」とされたのを思い出す)。そして、こう整理する。

山人すなわち日本の先住民は、もはや絶滅したという通説には、私もたいていは同意してよいと思っておりますが、彼らを我々のいう絶滅に導いた道筋……は六筋、その一は帰順朝貢に伴なう編貫であります。最も堂々たる同化であります。その二は討死、その三は自然の子孫断絶であります。その四は信仰界を通って、かえって新来の百姓を征服し、好条件をもってゆくゆく彼らと併合したもの、第五は永い歳月の間に、人知れず土着しかつ混淆したもの、数においてはこれが一番に多いかと思います(仝上)、

そして、

以上の五つのいずれにも入らない差引残、すなわち第六種の旧状保持者、というよりも次第に退化して、今なお山中を漂泊しつつあった者が、少なくとも或る時代までは、必ず必ずいたわけだということが、推定せられる、

とする(仝上)。これが、様々な異名をつけられた、

山人、

である、と。山人の特色は、

一つには肌膚の色の赤いこと、二つには丈高く、ことに手足の長いことなどが、昔話の中に今も伝説せられます。諸国に数多き大人の足跡の話は、話となって極端まで誇張せられ、加賀ではあの国を三足であるいたという大足跡もありますが、もとは長髄彦(ながすねひこ)もしくは上州の八掬脛(やつかはぎ)ぐらいの、やや我々より大きいという話ではなかったかと思われます、

とする。この仮説の是非はともかく、よく柳田國男が嘆く、

文字偏重、
欧米学問の踏襲、

ではなく、地道に現場の中から収斂させた独自の仮説の力は、その是非は別として、こんにちもまだ欧米学問の軛から脱しきれない社会科学系学者からは、到底出てこない仮説といっていい。

参考文献;
柳田國男『遠野物語・山の人生』(岩波文庫)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:27| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする