2022年05月23日
人屋
もとはいみじき悪人にて、人屋(ひとや)に七度ぞ入りたりける(宇治拾遺物語)、
の、
人屋、
は、
牢屋、
の意味(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)とある。
「人屋」は、
じんおく、
と訓ませると、
京中には辻風おびたたしう吹て、人屋多く転倒す(平家物語)、
と、
人の住む家屋、
の意となる(広辞苑)が、
ひとや、
と訓ませると、
獄、
囚獄、
とも当て、
罪人を捕らえて閉じ込めておく屋舎、
牢屋、
牢獄、
の意となる(仝上)。和名類聚抄(931~38年)には、
獄、牢、囹圄、比度夜、牢罪人所也、
とある。また、霊異記(平安初期)の訓釋には、
囹圄、ヒトヤ、
とある。「囹圄」は、
れいご、
と訓ませる(「圄」の呉音)が、漢語では、
れいぎょ、
とも訓み(字源・大言海)、
牢屋、
の意で、
囹圉(レイギョ・レイゴ)、
ともいう(漢字源)。「囹」(漢音レイ、呉音リョウ)は、
領、
圄(漢音ギョ、呉音ゴ)は、
禦、
の意(唐代『初学記』)で、
囚徒を領録して禁禦する、
とある(字源・大言海)。前漢の経書『禮記(らいき)』月令篇に、
司に命じて、囹圄を省き、桎梏を去り、肆掠(しりやく)すること毋(な)く、獄を止めしむ、
とある(大言海・精選版日本国語大辞典)。
「ひと」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483976614.html?1651364003)で触れたように、「人」(漢音ジン、呉音ニン)は、
象形。人の立った姿を描いたもので、もと身近な同族や隣人仲間を意味した、
とあり、その範囲を、
四海同胞、
にまで広げ、それを仁と呼んだ(漢字源)、とある。
立っている姿には違いないが、
人が立って身体を屈伸させるさまを横から見た形にかたどる(角川新字源)、
人が立っている姿の側面を描いたもの(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BA%BA)、
ともある。
「屋」(オク)は、
会意文字。「おおって垂れた布+至(いきづまり)」で、上からおおい隠して、出入りをとめた意をあらわす。至は室(いきづまりの部屋)・窒(ふさぐ)と同類の意味を含む。この尸印は尸(シ しかばね)ではない。覆い隠す屋根、屋根で覆った家のこと、
とあり(漢字源)、
テント状の建物が原義、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B1%8B)が、
尸(居の省略形。すまい)と、至(矢がとどく所)とから成る。居住する場所を求めて矢を放つことから、住居の意を表す(角川新字源)、
会意文字です(尸+至)。「屋根」の象形(「家屋」の意味)と「矢が地面に突き刺さった」象形(「至(いた)る」の意味)から、人がいたる「いえ・すみか」を意味する「屋」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji464.html)、
ともある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95