「花客」は、
カカク(クワカク)、
と訓ませ、
華客、
とも当て、
花をみる人、
花見客、
の意だが、
客の美称、
で、
おとくい、
とか
顧客、
の意で使い、さらに、
花客を作らんが為め殊に手土産などに気を注ぐ事(三宅雪嶺「偽悪醜日本人(1891)」)、
大事なお花客(とくい)である(泉鏡花「薄紅梅」)、
赤毛布(あかゲット)が上花客(じょうとくい)でなくなった(夢野久作「街頭から見た新東京の裏面」)、
などと、
とくい →92.3%、
おとくい→7.7%、
とも訓ませる(https://furigana.info/w/%E8%8A%B1%E5%AE%A2)。
ただ、岩波古語辞典、江戸語大辞典などには載らず、大言海に、
商家などにて、得意の客、得意先、買い付けのひと、
の意と載るが、用例が、近代以降のものしか見当たらない。
「花客」は、平安後期の書簡文および教科書「明衡往来」(藤原明衡)に、
乃時(ナイジ すぐその時)刑部大輔平所召古今和歌集。或花客借取。未被返送、
と、
客人、
来訪者、
の意で使われている(背精選版日本国語大辞典)。
その意味で、
客人→顧客、
の意味の変化は納得できるが、『字源』には、「花客」は、
顧客、
花主、
華客、
と同義とあり、
とくい、
の意とある。漢語なのかどうかははっきりしないが、
顧客、
は、わが国だけの使い方でもある(字源)が、「顧」には、
客の来訪を丁寧にいう語、
とあり、
来て目をかけてくださる意から、
顧客、
惠客(おいでくださる)、
と使う(漢字源)。それを、わが国で、意訳して、
御得意、
の意に転じて使っているのかもしれない。その意味で、
花(華)客、
にも、和風漢字の感じがなくもない。「花」は、漢字では、
桃李花、
落花流水、
と、
牡丹、
をさす(漢字源)、あるいは、
洛陽の人は単に牡丹を花と言ふ、
とあり(字源)、日本では、「花」の含意は、特に、
桜の花、
を指し、そこから、
盛り、
栄えること、
時めくこと、
といった意味を含み、
花代(祝儀)、
花形、
花盛り、
といった言い方をする。何となく、
花客、
は、それとつながる気がしてならない。勿論憶説だが。
「花」(漢音カ、呉音ケ)は、「はな」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449051395.html)でも触れたが、
会意兼形声。化(カ)は、たった人がすわった姿に変化したことをあらわす会意文字。花は「艸(植物)+音符化」で、つぼみが開き、咲いて散るというように、姿を著しく変える植物の部分、
とある(漢字源)。「華」は、
もと別字であったが、後に混用された、
とある(仝上)。別に、
会意兼形声文字です。「木の花や葉が長く垂れ下がる」象形と「弓のそりを正す道具」の象形(「弓なりに曲がる」の意味だが、ここでは、「姱(カ)」などに通じ、「美しい」の意味)から、「美しいはな」を意味する漢字が成り立ちました。その後、六朝時代(184~589)に「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「左右の人が点対称になるような形」の象形(「かわる」の意味)から、草の変化を意味し、そこから、「はな」を意味する「花」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji66.html)。
「華」(漢音カ、呉音ケ・ゲ)は、
会意兼形声。于(ウ)は、丨線が=につかえてまるく曲がったさま。それに植物の葉の垂れた形の垂を加えたのが華の原字。「艸+垂(たれる)+音符于」で、くぼんでまるく曲がる意を含む、
とあり(漢字源)、
菊華、
と、
中心のくぼんだ丸い花、
を指し、後に、
広く草木のはな、
の意となった(仝上)とする。ただ、上記の、
会意形声説。「艸」+「垂」+音符「于」。「于」は、ものがつかえて丸くなること。それに花が垂れた様を表す「垂」を加えたものが元の形。丸い花をあらわす、
とする(藤堂明保説)とは別に、
象形説。「はな」を象ったもので、「拝」の旁の形が元の形、音は「花」からの仮借、
とする説もある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AF)。さらに、
会意形声。艸と、𠌶(クワ)とから成り、草木の美しい「はな」の意を表す、
ともある(角川新字源)。ただ、西周の金文(きんぶん)をみると、どの説もぴたりとこないのだが。
(「華」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AFより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95