「よりまし」は、
尸童、
寄坐
憑坐、
憑子、
神子、
依巫、
寄りまし、
等々とあてる(広辞苑・大言海・大辞泉・日本語源大辞典・岩波古語辞典他)。その由来を、
神霊の寄り坐し(岩波古語辞典)、
神霊の憑坐(よりまし)の義か(大言海)、
依巫(よりまし)の義(和訓栞)、
寄在(よりまし)の義(俚言集覧)、
等々とする(岩波古語辞典・日本語源大辞典)ように、
依代(よりしろ 憑代 神霊が寄りつくもの)となるもの、
の意で、依代は、多く、
憑依(ひょうい)物としての樹木・岩石・動物・御幣・人間、
等々で、この場合、
人間の神霊が宿り憑く者、
の意で(岩波古語辞典)、
子供、
である場合が多い。神意を伺おうと、験者や巫女が神降ろしをする際、
男女の幼童の上に神霊を招いて乗移らせ、神の依りますところとして、神の意志は清純な童子の口をかりて託宣(たくせん)として示される、
のであり(仝上・世界大百科事典)、室町中期の用字集「饅頭屋本節用集」には、
降童、ヨリマシ、
とある。
寄り、
寄体(よりがら)、
とも(日本語源大辞典)、
かんこ(神子)
かむなぎ(巫)
みかんこ(御坐・御神子)、
みかむのこ(御坐 御神の子の転)、
ともいい(大言海)、「かんなぎ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483366329.html)で触れたように、
(「かみなぎ」は)女子の、神に奉仕し、神楽に舞ひなどする者、多くは少女なり、又、かみおろしなどするものあり、専ら音便に、かんなぎと云ふ。又、かうなぎ。みこ。官に仕ふる者を、御神(ミカン)の子と云う、
とある(大言海)。
御神(みかん)の子→巫女(みこ)、
とつながるように、「巫女」と重なる。
(かたしろ 精選版日本国語大辞典より)
「尸童」の「尸」は、
かたしろ(形代)、
の意、「かたしろ」は、
人形(ひとがた)、
ともいい(日本大百科全書)、
神霊が依り憑く(よりつく)依り代の一種。人間の霊を宿す場合は人形を用いるなど、神霊が依り憑き易いように形を整えた、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%A2%E4%BB%A3)が、多く児童をあてたので、
尸童、
と書き、「よりまし」とよぶのは、
神霊がその童子によりつくことから、
いう(日本大百科全書)。よりましに立てられた童子に対して祈祷を行うと、神霊がこれにのりうつって託宣をする。古代の祭りはこの尸童が主体であった(仝上)とあり、
伊勢の斎王(いつきのみこ)、
は大和朝廷がたてたよりましであったとされる(仝上)。現在でも各地の祭礼にみられ、神幸の際に行列の中心になり、美しく着飾らせ(稚児舞)たり、人形を用い、馬に乗せて尸童とすることもあり、また祈り終ってから川に流すこともある。
神霊ではなく死霊がついた場合は、
尸者(ものまさ)、
と呼ばれる(仝上)とある。
「尸位素餐」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/486247452.html)で触れたように、「尸」(シ)は、
象形。人間がからだを硬直させて横たわった姿を描いたもの。屍(シ)の原字。また、尻(シリ)・尾の字におけるように、ボディを示す音符に用いる。シは矢(まっすぐなや)・雉(チ まっすぐに飛ぶきじ)のように、直線状にぴんとのびた意味を含む、
とあり(漢字源)、
魂去尸長留(魂は去りて尸は長く留まる)、
と(古楽府)、「しかばね」の意味だが、
弟為尸則誰敬(弟、尸となせばすなはち誰をか敬せん)
と(孟子)、
かたしろ、
古代の祭で、神霊の宿る所と考えられた祭主、
の意味で、
孫などの子供をこれに当てて、その前に供物を供えてまつった。のち、肖像や人形でこれに代えるようになった、
とある(仝上)。のちに、
死体のみならず、精神と切り離された肉体そのものを指すようになった、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B0%B8)。
「童」(慣用ドウ、漢音トウ、呉音スウ)は、「大童」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484158438.html)で触れたように、
会意兼形声。東(トウ 心棒を突き抜けた袋、太陽が突き抜けてくる方角)はつきぬく意を含む。「里」の部分は、「東+土」。重や動の左側の部分と同じで、土(地面)つきぬくように↓型に動作や重みがること。童は「辛(鋭い刃物)+目+音符東+土」で、刃物で目を突きぬいて盲人にした男のこと、
とあり(漢字源)、「刃物々目を突きぬいて盲人にした奴隷」の意とあり、僕と同類で、「童僕」(男の奴隷や召使)と使うが、「童子」というように「わらべ」の意もある。別に、
形声。意符辛(入れ墨の針。立は省略形)と、音符重(チヨウ)→(トウ)(里は変わった形)とから成る。目の上(ひたい)に入れ墨をされた男子の罪人の意を表す。借りて「わらべ」の意に用いる、
ともあり(角川新字源)、
会意兼形声文字です(辛+目+重)。「入れ墨をする為の針」の象形と「人の目」の象形と「重い袋」の象形から、目の上に入れ墨をされ重い袋を背負わされた「どれい」を意味する「童」という漢字が成り立ちました。転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「未成年者(児童)」の意味も表すようになりました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji530.html)。
「憑」(漢音ヒョウ、呉音ビョウ)は、
会意兼形声。馮(ヒョウ・フウ)は、「馬+冫(ヒョウ こおり)」の会意兼形声文字。冫(にすい)は、氷の原字で、ぱんとぶつかり割れるこおり。馬が物を割るような勢いでぱんとぶつかること。憑は「心+音符馮」で、AにBをぱんとぶつけて、あわせること。ぴたりとあわせる意からくっつける意となり、AとBとあわせてぴたりと符合させる証拠の意となった、
とあり(漢字源)、「憑欄(欄に憑る)」と、「寄りかかる」意や、「憑付(ヒョウフ)」と「たのむ」意や、「憑拠(ヒョウキョ)」と「あかし」の意で使い、
暴虎馮河(論語)、
のように、「がむしゃらに黄河をわたろうとする」意で使う。
憑依、
のように、
霊などが乗り移る、
狐が憑く、
の使い方はわが国だけのようだ(仝上)。漢語「憑依」は、
神所憑依、将在徳矣(左伝)、
と、
のりうつる、
意に近いが、
よりたすく、よりかかる、
意で、含意が異なる。
「坐」(漢音サ、呉音ザ)は、
会意。「人+人+土」で、人が地上に尻をつけることを示す。すわって身たけを短くする意、
とある(漢字源)。別に、
象形。土の上に二人の人が向かい合っているさまにかたどる。「すわる」意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です(人+人+土)。「向かい合う人の象形と、土地の神を祭る為に柱状に固めた土の象形(「土」の意味)」から、向かい合う2人が土にひざをつけて「すわる」を意味する「坐」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2404.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95