現象学的分析

エドムント・フッサール(立松弘孝訳)『内的時間意識の現象学』を読む。 本書は、二部に分かれる。 「第一部は『現象学および認識論の主要部』と題して1904、05年の冬学期にゲッチンゲンで行われた週四時間講義の最後の部分を収録している。(中略)この講義では《もっとも根底的な知的作用、すなわち、知覚、想像、心象意識、記憶、時間直観》が研究されることになっていた。第二部は講義の補…

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むかばき

こんのあを(襖)きたるが、夏毛のむかばきをはきて、葦毛の馬に乗りてなむ來(く)べき(宇治拾遺物語)、 にある、 むかばき、 は、 行縢、 行騰、 と当て(広辞苑)、 鹿・熊・虎・豹等の毛皮を用ゐ、長さ三尺六寸、一片に製して、腰に着け、両の股脚、袴の前面に垂れ被うふもの、 で(大言海)、 奈良時代には短甲に付属し、平安初期には鷹飼が用い、平安末…

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注連縄

さらば此御祭の御きよめするなりとて、四目(しめ)引きめぐらして、いかにもいかにも人なよせ給ひそ(宇治拾遺物語)、 にある 四目、 は、 注連(しめ)、 の当て字、 注連縄、 の意で、 聖場の標とするためにひきめぐらす縄、 とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。 「注連」は、 標、 とも当て、 動詞「占む」の連用形…

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しわぶ

男、しわびて、我身は、さは観音にこそありけれ、ここは法師になりなんと思ひて(宇治拾遺物語)、 いみじくほうけて、物もおぼえぬやうにてありければ、しわびて法師になりてけり(仝上)、 とある、 しわぶ、 は、 当惑して、 途方に暮れて、 などの意とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。 「しわぶ」は、 為侘ぶ、 と当て、 どうしてよいか始…

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晡時

晡時になりて、油、灯心、抹香を携へ、仏前形(かた)ばかり飾り、看経(かんきん 経文の黙読)やうやう時移れば(宿直草)、 とある、 哺時(ほじ)、 は、 通常、 晡時、 と当てる。 申(さる)の刻、午後四時頃の日暮れ時、 の意である(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。転じて、 日暮時、 夕方、 の意でも使う。 「晡時」は、 …

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一殺多生

さりながら興隆仏法のため、一殺多生の善とはこれらをや申すべき。退治し給へ申さん(宿直草)、 とある、 一殺多生、 は、 仏教で一人を殺すことによって多くの人を助けること、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 「一殺多生」は、 いっせつたしょう、 あるいは、 いっさつたしょう、 と訓ませる(日本国語大辞典)。元は大乗仏教経…

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殊勝

如何様(いかさま)にも闍維(しゃゆい)の規式(荼毘の作法)にて来たる。殊勝(すしょう)に覚えしに、さはなくて堂内に来たり(宿直草)、 とある、 殊勝、 は、 おごさかなさま、 の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。普通は、 しゅしょう、 と訓ます。 「殊勝」は、漢語であり、 「殊」は「とくに」、「勝」は「すぐれる」、 という意…

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慮外

某(それがし)は御身上おぼつかなく、慮外にも御馬に乗り参り候と云ふ(宿直草)、 とある、 慮外、 は、 異常な、 一風変わった、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 「慮外」は、漢語である。文字通り、「意外」、「考慮の外」あるいは「思慮の外」と訓めば、 事乖慮外(事、慮外に乖(そむ)く(暗殺された))(晉書・毛璩傳) と、 …

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円居

某(なにがし)の沙門、ただかりそめに座を立ちて帰らず。円居の僧不審して、寺へ戻りしかと人やりて見するに居ず(宿直草)、 にある、 円居、 は、 まどい、 と訓ませるが、 同席の、 の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 団居、 とも当て(広辞苑)、 連聲(レンジヤウ)に。まどゐ、 とあり(大言海)、 近世初期ごろま…

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夫子

慕虎馮河して死すとも悔ゆる事なき者は与せじ、と夫子(ふうし)の戒めしもひとりこの人の爲にや(宿直草)、 にある、 夫子、 は、 孔子、 を指す(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。ちなみに、「慕虎馮河」は、ただしくは、 暴虎馮河、死而無悔者、吾不与也(論語・述而篇)、 である(仝上)。 「夫子」は、 孤實貪以禍夫子、夫子何罪(左伝)、 …

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まけ

されば心に懸からぬ怪異(けい)は更にその難無きものをや。なう、お目のまけを取り給へ、空には花は咲き候まじ(宿直草) にある、 まけ、 は、 目に白いもやがかかっているように見えるのを指す、 とあり(高田衛編・校注『江戸怪談集』)、 目気、 とも当て、転じて、 膜、 とある(仝上)。ここでは、 まけ、 は、 比喩として使っ…

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むさと

むさと物事機をかけまじき事なり。惣じて小事は身のたしなみ、心の納め様にも依るべし(宿直草)、 にある、 むさと、 は、 むやみに、 の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「むさと」は、 むざと、 ともある(広辞苑)が、 近世初期までは「むさと」と清音、 であった(精選版日本国語大辞典)。 人の国をむさと欲しがる者は、必ず悪しき…

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雁股の矢

弓取り直し素引き(弦だけを引き試みること)さして、豬(い)の目透かせる雁股(かりまた)の矢を取り(宿直草)、 とある、 豬の目透かせる雁股の矢、 は、 心臓形の猪の目の透かし彫りを施し、鏃の先を二股に作って内側に刃を付けたものを取り付けた矢、狩猟用、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 (雁股 精選版日本国語大辞典より) 「鏑矢」(http:/…

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冥加

此の礫打たれし家主も自然と機にもかけざるは、理の常を得し冥加ならんか(宿直草)、 の、 冥加、 は、 冥賀人に勝れて、道俗・男女・宗と敬て、肩を並ぶる輩无し(今昔物語)、 と、 冥賀、 と当てたりするが、 孝衡曰、加護二種有、一、顕如、謂現身語、讃印其所作、二、冥加、謂潜垂覆摂、不現身語(鹽尻)、 と、 冥々のうちに受ける神仏の加護…

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昴星

天漢(天の川)恣(ほしいまま)に横たはりて、昴星(ぼうせい)うつべき露なし(宿直草)、 にある、 昴星、 は、和名、 すばる星、 である(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「すばる」は、 二十八宿の西方第四宿で昴(ぼう)、 をいい、 おうし座にある散開星団プレアデスの和名、 で、 距離四〇八光年。肉眼で見えるのは六個で、六連星(むつら…

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万里一空

宮本武蔵『五輪書』を読む。 「武士の兵法を行ふ道は、何事に於ても人にすぐるゝ所を本とし、或は一身の切合に勝ち、或は数人の戦に勝ち、主君の為、名をあげ身をたてんと思ふ。是兵法の徳を以てなり。又世の中に、兵法の道をならひても、実の時の役にはたつまじきと思ふ心あるべし。其儀に於ては、何時にても、役にたつやうに稽古し、万事に至り、役にたつやうにおしゆる事、是兵法の実の道也。」 と…

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一葉の舟

只かき乱したる心も解(ほど)けて、己が糸筋素直ならば、一葉の舟の例(ため)しにも乗らなん(宿直草)、 とある、 一葉の舟、 は、 舟の起源は、中国の貨狄(かてき)が蜘蛛が柳の一葉から作った舟を皇帝に献じたことからであるとする伝説。謡曲『自然居士』など、 とあり(高田衛編・校注『江戸怪談集』)、 こがくれに浮べる秋の一葉舟(ヒトハブネ)さそふあらしを川をさに…

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果報

身も逸(はや)らば、心の外(ほか)に越度(おつど)もあるべし。思案して五輪を切らざるは、ああ果報人かな(宿直草)、 とある、 果報人、 は、 幸運な人、 の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「果報」には、 此の所にて皆死すべき果報にてこそ有るらめ(太平記)、 と、 因果応報、 つまり、 前世での善悪さまざまの所為が原因となっ…

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血気の袖どち群れつつ話す(宿直草)、 肝太き袖は顔眺めらるるわざよ(仝上)、 などにある、 袖、 は、 血気さかんな若者たち、 肝太き人、 と、 「袖」は「人」の意、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「袖」に人の意はないので、ここでは、 袖、 で、例えば、 着物、 をいえば、換喩になり、象徴的に 人、 …

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六十万決定往生

定めて六十万決定(けつじょう)往生のひとにやと、殊勝の思ひをなす(宿直草)、 にある、 六十万決定往生、 とは、 時宗祖一遍が念仏札に記した言葉、一切衆生が極楽往生できることを示す、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 (「念仏札」 http://www.jishu.or.jp/ippensyounin-osie/gohusanより) この念仏札は…

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