2022年08月07日
殊勝
如何様(いかさま)にも闍維(しゃゆい)の規式(荼毘の作法)にて来たる。殊勝(すしょう)に覚えしに、さはなくて堂内に来たり(宿直草)、
とある、
殊勝、
は、
おごさかなさま、
の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。普通は、
しゅしょう、
と訓ます。
「殊勝」は、漢語であり、
「殊」は「とくに」、「勝」は「すぐれる」、
という意味になり(https://imikaisetu.goldencelebration168.com/archives/6421)、
天然殊勝、不關風露冰雪(朱熹・梅花詞)、
と、
とりわけすぐれる、
意で(字源)、仏教語として、文字通り、
殊に勝れていること、
として使い、仏の威徳を、
殊勝にして希有なり(無量寿経)、
と表現し、阿弥陀仏がかつて菩薩の時に立てた一切衆生を救う誓願を、
無上殊勝の願を超発せり、
と称讃している。また、仏の教法を、
殊勝の法をききまいらせ候ことのありがたさ(蓮如『御文(おふみ)』)といい、仏のすぐれた智慧を、
殊勝智、
と呼んで讃嘆(さんたん)する、とある(https://www.otani.ac.jp/yomu_page/b_yougo/nab3mq0000000rvf.html・大言海)。そこから、場の雰囲気が甚だ厳粛なことを、
殊勝の気、
と表現したりする(仝上)。日葡辞書(1603~04)では「殊勝」を、
Cotoni sugururu(殊に勝るる)、
とし、
すぐれたことをほめるのに用いる語、
として、イエズス会の宣教師は、
説教や、神聖なこと、信心に関することに用いる、
と説明している(仝上)。
まずは、したがって、
その後の法厳、法花の功徳殊勝なる事をしりて(今昔物語)、
と、
特にすぐれていること、
ひじょうに立派なこと、
格別、
の意で使い、その派生で、
いつ参てもしんしんと致いた殊勝な御前で御ざる(虎寛本狂言・因幡堂)、
と、
神々しいこと、
おごそかであること、
心うたれること、
の意で使い、客体から主体に転じて、
今お取越とて、殊勝にお文をいただき(浮・西鶴諸国はなし)、
と、
心がけがしっかりしていること、
けなげなさま、
神妙なようす、
感心、
の心情表現に転じ、
殊勝な心がけ、
といったふうに使い、さらには、
いかな九文きなかでも勘忍ばしめさるなと真顔にいひしもしゅせうなり(浄・五十年忌歌念仏)、
と、
もっともらしいさま、
とってつけたようなようす、
の意でも使う(日本国語大辞典)。
殊勝顔(殊勝らしい顔つき)、
殊勝ごかし(殊勝なふりをして相手をだますこと)、
等々という言い方もする。
「殊」(漢音シュ、呉音ズ・ジュ)は、
会意兼形声。朱は、木を-印で切断するさまを示す指事文字(形で表すことが難しい物事を点画の組み合わせによって表して作られた文字)で、切り株のこと。殊は「歹(死ぬ)+音符朱」で、株を切るように切断して殺すこと。特別の極刑であることから、特殊の意となった。誅(チュウ 胴切りにして殺す)と同系、
とある(漢字源)が、この解釈は、
甲骨文字や金文などの資料と一致していない記述が含まれていたり根拠のない憶測に基づいていたりするためコンセンサスを得られていない、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%AE%8A)。別に、
形声。「歹」(「死」の略体)+音符「朱 /*TO/」。「死ぬ」を意味する漢語{殊 /*do/}を表す字、
とする説もある(仝上)。
「勝」(ショウ)は、
会意文字。朕(チン)は「舟+両手で持ち上げる姿」の会意文字で、舟を水上に持ち上げる浮力。上に上げる意を含む。勝は「力+朕(持ち上げる)」で、力を入れて重さに耐え、物を持ち上げること。「たえる」意と「上に出る」意とを含む。たえ抜いて他のものの上に出るのがかつことである、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(朕+力)。「渡し舟の象形と上に向かって物を押し上げる象形」(「上に向かって上げる」の意味)と「力強い腕の象形」(「力」の意味)から、「力を入れて上げ、持ち堪(こた)える」を意味する「勝」という漢字が成り立ちました。転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「かつ、まさる」の意味も表すようになりました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji207.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95