2022年08月21日

ひぐらし


一日(ひくらし)此の寺に参りしに、人目の関の閑有りて、仏前の錢二十文盗みしかば(宿直草)、

にある

一日(ひくらし)、

は、普通、

日暮、

と当て、

ひぐらし、

と訓むが、古くは、

ひくらし、

と清音で(広辞苑)、

つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、こころにうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば(徒然草)、

と、

朝から夕暮れまでの一日中、

の意である(岩波古語辞典)。

ひねもす、
終日、
日がな、

と同義である。「ひねもす」http://ppnetwork.seesaa.net/article/445249637.html、「日がな」http://ppnetwork.seesaa.net/article/438065587.htmlについては触れた。

また、その意味をメタファに、

その日暮らし、

の意でも使い、日光東照宮の陽明門の異称を、

日の暮れるのも気づかずに見とれてしまうほどの美しい門、

の意で、

日暮の門(ひぐらしのもん)、

といったりする(仝上)。近世初期の上方で、元祿~享保年間(1688~1736)に盛行した、

鉦(かね)を首にかけ、念仏踊、浄瑠璃、説経などの詞章を節を付けて歌い歩いた門付け芸人、

を、

日暮の歌念仏(ひぐらしのうたねんぶつ)、

というのは、「日暮」を、姓のように称し、歌念仏の、

日暮林清、

説経浄瑠璃の、

日暮小太夫などが知られていたから(精選版日本国語大辞典)とある。

歌念仏.bmp

(歌念仏 精選版日本国語大辞典より)

「日暮」に、

蜩、
茅蜩、

と当てると、早朝・夕方および曇天時に「カナカナ」と高い金属音をたてて鳴く、蝉の、

ヒグラシ、

である。和名類聚抄(平安中期)に、

茅蜩、比久良之、

とあり、箋注和名抄(江戸後期)には、

此蟲将暮乃鳴、故有是名、今俗、或呼加奈加奈、

とあるが、

今こんといひて別れしあしたより思ひくらしの音をのみぞなく(古今集)、

と、

日暮らし、

と掛けて使うこともある(日本語源大辞典)。

ヒグラシ.jpg


なお「日暮」を、

ひぐれ(「ひくれ」とも)、
にちぼ、
じつぼ、

などと訓み、

夕暮れ、

の意で使う。

「日」 漢字.gif

(「日」 https://kakijun.jp/page/0459200.htmlより)

「日」http://ppnetwork.seesaa.net/article/463232976.htmlで触れたように、「日」(呉音ニチ、漢音ヅツ)の字は、

太陽の姿を描いた象形文字、

である(漢字源)。

「暮」 漢字.gif

(「暮」 https://kakijun.jp/page/1440200.htmlより)

「暮」(漢音ボ、呉音モ・ム)は、

会意兼形声。莫(マク・バク)は、「艸+日+艸」の会意文字で、草原の草むらに太陽が没するさま、莫が「ない」「見えない」との意の否定詞に専用されるようになったので、日印を加えた暮の字で、莫の原義をあらわすようになった、

とある(漢字源)。「暮」の対は、「初」「朝」「旦」、「暮」の類義語は「夕」「晩」。我が国で、

その日暮らし、

とか、

思案に暮れる、

という使い方をするが、「暮」の原義にはない。別に、

会意兼形声文字です(莫+日)。「草むらの象形と太陽の象形」(太陽が草原に沈むさまから「日暮れ」の意味)と「太陽」の象形から、「日暮れ」を意味する「暮」という漢字が成り立ちました(「莫」が原字でしたが、禁止の助詞として使われるようになった為、「日」を付し、区別しました。)、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1065.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする