昨日の商ひに油二合五勺の依怙(えこ)あるによりて(宿直草)、
にある、
依怙、
は、
不正なもうけ、
の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
「依怙」は、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)に、
依、倚也、
怙、恃成、
とあり、
依(よりかかる、頼る)+怙(頼む)、
で(日本語源広辞典)、
哀しい哉、王土の民 瞻仰するも依怙するところ無し(魏・明帝・櫂歌行)、
と、
依りかかり、頼りにする
意であり(字通)、仏教で、
観世音の浄聖は、苦悩と死厄とに於て、能く為に依怙と作(な)らん(法華経普門品)、
厥友邪必其人邪也。厥友正必其人正。依怙心相移故(法華経譬喩品)、
と、
依りたのむこと、
の意で使い、中世頃から、転じて、
頼りとする者を支援する、
という意味でも使われ、
庁の下部(しもべ)の習ひ、かやうの事につゐてこそ、自らの依怙も候へ(平家物語)、
依怙なくすみやかに決断すれば、世間にほまれ有て、立身することあり(「集義和書(1676頃)」)、
と、
愛する方へのみ私すること、
つまり、
一方にかたよってひいきすること、
かたびいき、
えこひいき、
かたちはひ(カタは片、チハヒは力をふるって仕合せを与えること ひいきにすること)、
の意で使い、その実利が、私される意へと広がり、
たばかつてするはかりことは一旦のゑこにはなれども(天草本伊曾保物語)、
と、
私利、
あるいは、
わがまま、
の意で使う(広辞苑・精選版日本国語大辞典・大言海)。で、「贔屓(ひいき)」も、本来は、
巨靈贔屓(張衡・西京賦)、
と、
盛んに力を用いる貌、
大いに力を入れること、
の意であった(仝上・字源)が、
対象が限定されることによって、
自分の気に入った者に特に力添えすること、
の意に転じ、「依怙」「贔屓」がほぼ同じ意になり、
依怙贔屓、
と、重ねて用いる用法も生じたと思われる(仝上)、とある。
江戸時代初期から、
と思われる(語源由来辞典)。
なお、「依怙」は、
ただ儒者の依怙(イコ)甚しきを笑のみ(随筆「孔雀楼筆記(1768)」)、
と、
いこ、
とも訓ませ、
公平でないこと、
の意で使う(仝上)。
(「衣」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A1%A3より)
「依」(漢音イ、呉音エ)は、
会意兼形声。衣は、両脇と後ろの三方から首を隠す衿(エリ)を描いた象形文字。依は「人+音符衣(イ)」で、何かのかげをたよりにして、姿を隠す意を含む。のち、もっぱら頼りにする意に傾いた、
とある(漢字源)。別に、形声とする説もある(角川新字源)。他に、
会意。人と衣を組み合わせた(人に衣を添えた)形。衣には人の霊が取り憑くと考えられたので、霊を授かる・引き継ぐときに、霊が取り憑いている衣を人により添えて、霊を移す儀式をした。それで「よる、よりそう」の意味になる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BE%9D)、
会意兼形声文字です(人+衣)。「横から見た人」の象形と「衣服のえりもと」の象形から、人にまとわりつく衣服を意味し、そこから、「よる」、「もたれかかる」を意味する「依」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1101.html)ある。
(「怙」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%80%99より)
(「古」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8F%A4より)
「怙」(漢音コ、呉音ゴ)は、
会意兼形声。古は、固く枯れた骸骨を描いた象形文字。固い意を含む。怙は「心+音符古」で、心中に固いよりどころがあること、
とある(漢字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95