「依怙地」は、
いこじ、
とも、
えこじ、
とも訓み、
意固地、
とも当て(広辞苑)、
そんなにたのんできたものを、かさねへといってはいこじのよふだ(洒落本「婦身嘘(1820)」)、
と、
意地を張ってつまらないことに頑固なこと、また、そういう性質、
をいい、
かたいじ(片意地)、
ともいう。「依怙地(いこじ)」は、
依怙地(えこじ)の音変化(江戸語大辞典・精選版日本国語大辞典)、
意気地(いきじ)」の変化(大辞林・日本国語大辞典・日本語源広辞典・江戸語大辞典)、
依怙意地の略、偏意地(カタイヂ)の意(大言海)、
と、
意気地→依怙地(いこじ)、
依怙地(えこじ)→依怙地(いこじ)、
二説があることになる。「意気地(いきじ)」は、
自分の意志や面目などをどこまでも守り通そうとする気持、
自分自身や他人に対する面目から、自分の意志をあくまで通そうとする気構え、
の意、つまり、
意地、
だが、この、
いきじ(意気地)、
が転訛して、
いくじ、
と訓み、
物事をなしとげようとする気力、態度、意地、
心の張り、
の意で使う。「意気」は、
一以意気許知己、死亡不相負(後漢書・江表傳)、
と、
こころもち、
意気込み、
の意であり、
吏士皆人色、而廣意気自如、益治軍事(史記・李将軍傳)、
と、
意気自如(=自若)、
とか、
擁大蓋、策駟馬、意気揚揚、甚自得也(史記・晏嬰傳)、
と、
意気揚々、
と使う(字源)。
意地を張る、
というように、我が国で、
我意を通そうとする、
意で使う、
意地、
は、漢語では、
意地有喜有憂(俱舎論頌釋)、
と、単なる、
こころ、
の意で、
地は心の在る場所、
の意味になる(仝上)。しかし、この「意気」「意地」を、
「意気」「意地」はともに自分の意志をどうしても通そうとする気持ち、「強情」という意味の漢語である。これを重ねた「意気意地」は、語中の「意」を落としてイキヂ(意気地)になった。「物事をやりとげようとする気の張り、気力」という意味である。さらに、キが母交(母音交替)[iu]をとげてイクジ(意気地)に転音した。「気力に掻けて苦に立たない人、ふがいない人」をイクヂナシ(意気地無し)という。「壹岐判官知康と申すイクヂナシ」(承久記)。さらに、クが母交をとげてイコヂ(依怙地)になった。「がんこに意地を張ること、堅(片)意地」の意である。土佐ではこの……イコヂショウ(依怙地性)がイゴッソウに転音している。(中略)イコヂ(依怙地)はエコヂ(依怙地)に転音して、「片意地、意地っぱり」をいう、
と、音韻変化から、
意気地、
依怙地、
の関係を見る説もある(日本語の語源)。しかし、「意気意地」を端緒とするのは如何であろうか。むしろ、
意気地、
は当て字で、「依怙」(えこ・いこ)の、
一方に偏って贔屓する、
という意味から、
かたくなな意地っ張り、
を、
依怙地、
といったのではあるまいか。その意味で、
依怙意地の略、偏意地(カタイヂ)の意(大言海)、
と見る説が妥当に思えてならない。
なお、「依怙」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/490986646.html?1661367536)については触れた。また、「意地」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163489.html)についても触れた。
(「意」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%84%8Fより)
「意」(イ)は、
会意。音とは、口の中に物を含むさま。意は「音(含む)+心」で、心中に考えめぐらし、おもいを胸中に含んで外へ出さないことを示す、
とある(漢字源)。別に、
会意。心と、音(おと、ことば)とから成り、ことばを耳にして、気持ちを心で察する意を表す。ひいて、知・情のもとになる意識の意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意文字です(音+心)。「刃物と口の象形に線を一本加え、弦や管楽器の音を示す文字」(「音」の意味)と「心臓の象形」から言葉(音)で表せない「こころ・おもい」を意味する「意」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji435.html)。
「気」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/412309183.html)でも触れたが、「氣(気)」(漢音キ、呉音ケ)は、
会意兼形声。气(キ)は、息が屈折しながら出て来るさま。氣は「米+音符气」で、米をふかすとき出る蒸気のこと、
とあり(漢字源)、
食物・まぐさなどを他人に贈る意を表す。「餼(キ)」の原字。転じて、气の意に用いられる、
とある(角川新字源)。
「氣」は「气」の代用字、
とあるのはその意味である(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B0%97)。別に、
会意兼形声文字です(米+气)。「湧き上がる雲」の象形(「湧き上がる上昇気流」の意味)と「穀物の穂の枝の部分とその実」の象形(「米粒のように小さい物」の意味)から「蒸気・水蒸気」を意味する「気」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji98.html)。「气」(漢音キ、呉音ケ)は、
象形。乙形に屈曲しつつ、いきや雲気の上ってくるさまを描いたもの。氣(米をふかして出る蒸気)や汽(ふかして出る蒸気)の原字。また語尾がつまれば乞(キツ のどを屈曲させて、切ない息を出す)ということばとなる、
とあり(漢字源)、
後世「氣」となったが、簡体字化の際に元に戻された。乞はその入声で、同字源だが一画少ない字、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B0%94)。
「固」(漢音コ、呉音ク)は、「闘諍堅固」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/486212308.html)で触れたように、
会意兼形声。古くは、かたくひからびた頭蓋骨を描いた象形文字。固は「囗(かこい)+音符古」で、周囲からかっちりと囲まれて動きの取れないこと、
とあり(漢字源)、似た説に、
会意形声。「囗(囲い)」+音符「古」、「古」は、頭蓋骨などで、古くてかちかちになったものの意。それを囲んで効果を確実にしたもの、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%9B%BA)が、別に、
形声。囗(城壁)と、音符古(コ)とから成る。城をかたく守る、ひいて「かたい」意を表す、
とか(角川新字源)、
(囗+古)。「周辺を取り巻く線(城壁)」の象形と「固いかぶと」の象形(「かたい」の意味)から城壁の固い守り、すなわち、「かたい」を意味する「固」という漢字が成り立ちました、
ともあり(https://okjiten.jp/kanji598.html)、説がわかれている。
(「地」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%9C%B0より)
(「也」 金文・春秋時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%9Fより)
「地」(漢音チ、呉音ジ)は、
会意兼形声。也(ヤ)は、うすいからだののびた蠍を描いた象形文字。地は「土+音符也」で、平らに伸びた土地を示す、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(土+也)。「土の神を祭る為に柱状に固めた土」の象形(「土」の意味)と「蛇」の象形(「うねうねしたさま」を表す)から、「うねうねと連なる土地」を意味する「地」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji81.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95