関の東に幽霊の方人(かたうど)して命を失う者あり(宿直草)、
にある、
方人して、
は、
味方して、
の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
「かたうど」は、
かたひとの転(岩波古語辞典)、
かたびとの音便(広辞苑)、
かたひとの音便(大言海)、
かたひとのウ音便(学研全訳古語辞典)、
などとある。
なぞなぞ合せしける、かたうどにはあらで、さやうのことにりやうりやうじ(らうらうじ 巧みである)かりけるが(枕草子)、
と、
左右に分かれてする競技で、一方の組に属する人、
の意で、
歌読、是則・貫之、かたひと、兼覧(かねみ)の大君・きよみちの朝臣(二十巻本「延喜十三年亭子院歌合(913)」)、
と、
歌合わせでは、初め一方の組の応援者をさしたが、のちにはそれぞれの組の歌人をさすようになった、
とある(学研全訳古語辞典)。その意から転じて、
あはや、此国にも平家のかたうどする人ありけりと、力付きぬ(平家物語)、
と、
ひいきすること、
味方をすること、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。「歌合」は、
当座歌合、
兼日歌合、
撰歌合、
時代不同歌合、
自歌合、
擬人歌合、
等々種々あるらしいが、その構成は、人的構成にのみ限っていうと、王朝晴儀の典型的な歌合にあっては、
方人(かたうど 左右の競技者)、
念人(おもいびと 左右の応援者)、
方人の頭(とう 左右の指導者)、
読師(とくし 左右に属し、各番の歌を順次講師に渡す者)、
講師(こうじ 左右に属し、各番の歌を朗読する者)、
員刺(かずさし 左右に属し、勝点を数える少年)、
歌人(うたよみ 和歌の作者)、
判者(はんじや 左右の歌の優劣を判定する者。当代歌壇の権威者または地位の高い者が任じる)、
などのほか、
主催者、
和歌の清書人、
歌題の撰者、
などが含まれる(世界大百科事典)、とある。
なお、「方人(ホウジン)」は、
子貢方人(ヒトヲクラブ)、子曰、賜也賢乎哉、夫我則不暇(論語)、
と、漢語である(字源)。
人と己を引き比べる、
意とある(仝上)。
人を方(ただ)す(貝塚茂樹)、
人を方(たくら)ぶ(https://kanbun.info/keibu/rongo1431.html)、
等々の訓があるが、
人を比較し、論評する、
意である(貝塚茂樹訳注『論語』)。
(「方」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%96%B9より)
「方」(ホウ)は、
象形、左右に柄の張り出た鋤を描いたもので、⇆のように左右に直線状に伸びる意を含み、東←→西、南←→北のような方向の意となる。また、方向や筋道のことから、方法の意が生じた、
とある(漢字源)が、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)は、
舟をつなぐ様、
とし、
死体をつるした様、
とする説(白川静)もある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%96%B9)。ために、
角川新字源
象形。二艘(そう)の舟の舳先(へさき 舟の先の部分)をつないだ形にかたどる。借りて、「ならべる」「かた」「くらべる」などの意に用いる、
とも(角川新字源)、
象形文字です。「両方に突き出た柄のある農具:すきの象形」で人と並んで耕す事から「ならぶ」、「かたわら」を意味する「方」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji379.html)。
(「人」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BA%BAより)
「人」(漢音ジン、呉音ニン)は、
象形。ひとの立った姿を描いたもので、もと身近な同族や隣人仲間を意味した、
とある(漢字源)。別に、
象形。人が立って身体を屈伸させるさまを横から見た形にかたどり、「ひと」の意を表す、
とも(角川新字源)、
象形文字です。「横から見たひと」の象形から「ひと」を意味する「人」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji16.html)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95