2022年09月24日

詮なし


しかしながら、皆夜の錦にして、詮なし。久しく見ることあたはずして去る(奇異雑談集)、

にある、

詮なし、

は、

詮無し、

とも当て、

しかたがない、
無益である(広辞苑)、

あるいは、

何かをしても報いられない、
かいがない(デジタル大辞泉)、

あるいは、

ある行為をしても、しただけの効果や報いがなにもない、
やる甲斐(かい)がない(日本国語大辞典)、

あるいは、

しかたがない、
かいがない、
無益だ(大辞林)、

といった意味になるが、

しかたがない、

と、

かいがない、

と、

無益である、

とは、意味が重なるようで、微妙に違う気がする。たとえば、

ある行為をしても、しただけの効果や報いがなにもない→やる甲斐がない→しかたがない→無益だ、

といった意味の変化だろうか。ある意味で、

効果や報いがなにもない、

という状態表現から、

やる甲斐がない→しかたがない→無益だ、

と価値表現へとシフトしていった、ということになる。

「詮」は物事の理の帰着するところ、

とあり(岩波古語辞典)、

詮、具説也、解喩也、

ともある(大言海)が、「詮」の漢語の意味ではなく、日本独自の使い方が背景にある。

「詮」 漢字.gif


「詮」(セン)は、

会意兼形声。全(ゼン)は「集めるしるし+工または玉」の会意文字で、物を程よくそろえること。詮は「言+音符全」で、ことばを整然ととりそろえて、物事の道理を明らかにすること、

とある(漢字源)。同趣旨だが、

会意形声。「言」+音符「全」。「全」は、「亼(覆いの下に集める)」+「工」又は「玉」で、工芸物などを集めそろえること。言葉を集め、道理に従い解く、集めたものを選り分ける(「銓」「選」と同義)の意、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A9%AEあり、別に、

会意兼形声文字です(言+全)。「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「(つつしんで)言う」の意味)と「入口の象形と握る所のある、のみの象形または、さしがねの象形」(入口の倉庫などに工具を保管する所から、「保つ、備わる」の意味)から、「備わっている説明」を意味する「詮」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji2134.htmlあるが、漢語では、

具説(大言海)、

つまり、

そなわる、

意で、「真詮」(しんせん)というように、

ことばや物の道理が整然とととのっている、また、物事に備わった道理、

を意味し、また、「詮解」(せんかい)、「詮釈」(せんしゃく)というように、

物事の道理をつまびらかにとく、ときあかす、

意であり、また、「詮衡」「擇言」というように、

えらぶ、言葉や物事をきれいにそろえて、よいもの、ただしいものを選ぶ、

という意味である(漢字源)。

解喩(大言海)、

は、

さとす、

という意味になる(字源)。しかし、わが国では、「詮」を、

詮じつめる、
詮ずる、

と、

筋道を追ってよく考える、つきつめて考える、

意や、

詮も尽き果てぬ、

というように、

為すべき手段、すべ、

の意や、

詮なきこと、

というように、

物事のしたかい、効果、甲斐、

の意や、

詮ずる所、此の趣をこそ披露仕り候はめ(平家物語)、

と、

所詮、結局、

という意で使い、

身の衰へぬる程も思ひ知られて、今更詮方無うこそおぼえさぶらへ(平家物語)、

と、

なすべき方法がない、
しかたがない、
こらえようがない、

意の、

せんかたない(為ん方無い・詮方無い)、

とも使う。

「詮」の日本的な意味を追うと、

筋道を追ってよく考える、つきつめて考える、

為すべき手段、すべ、

物事のした甲斐、

と、やはり、筋道を追っていく状態表現から、その手段、甲斐へと価値表現シフトし、

所詮、

と、

詰まる所、

へ行きつく(「甲斐」http://ppnetwork.seesaa.net/article/398819285.htmlについては触れた)。そこには、暗に、

無益、

というより、

諦め、

の含意がある気がする。

類義語「仕方がない」http://ppnetwork.seesaa.net/article/419038957.htmlで触れたように、「仕方がない」は、多く、

諦め、

の含意がある。語源的には、

「シカタ(手段。方法)+が+ない」

で、どうにもならない、やむを得ない、という意味である。

理不尽な困難や悲劇に見舞われたり、避けられない事態に直面したりしたさいに、粛々とその状況を受け入れながら発する日本語の慣用句、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%95%E6%96%B9%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%84。同義の表現として、

仕様がない、
やむを得ない、
せんない、
詮方ない、
余儀ない、
是非も無し、
是非も及ばず、

がある。どちらかというと、

他に打つ手がない、
そうする他ない、
避けて通れない、
逃げられない、
不可避の、

という色合いが濃い。「おのずから」そうなっているという、

「なるべくしてなった」という力、

を強く感じとっている、無常観にも通じるのかもしれない(「おのずからとみずから」http://ppnetwork.seesaa.net/article/415685379.htmlで「おのずから」については触れた)。信長が、本能寺で、

是非に及ばず

ということばも、それに近い。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする