2022年09月26日

襖(あを)


しろぎぬのあをといふ物きて、帯して、わかやかに、きたなげなき女どもの(宇治拾遺物語)、
無文(むもん 無地)の袴に紺のあらひざらしのあをに、山吹のきぬの衫(かざみ)よくさらされたるきたるが(仝上)、

の、

あを、

は、

襖、袷をいう、

とあり(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)、

皮まきたる弓持て、こんのあをきたるが、夏毛のむかばきはきて、葦毛の馬に乗てなむ来べき(仝上)、

とある、

あを、

は、

紺の襖、襖は裏付けの狩衣で武官の服、

とある(仝上)。因みに、「襖」を、

襖障子、
唐紙障子、

の意で、

ふすま、

とも訓ませているが、これはもともと、

臥す間、

から来ていて、当て字である(広辞苑)。

ここで、「襖」を、

アヲ、

と訓ませるのは、「襖」の字音、

アウの転(広辞苑・日本国語大辞典)、
アウをアヲと日本語化したもの(岩波古語辞典)、

とある。和名類聚抄(931~38年)にも、

阿乎之、愚按、アウをアヲとするは、唇内音なる故に、和行(ワギャウ)の通なり、舊字も同じ、

とある。字音仮字用格(本居宣長)も、

和名抄に、襖子を阿乎之(アヲシ)とあるは、ウの韻を、ヲに転じて御國言の如く言ひなせる例なり、

としている。しかし、

「豪、爻、宵、肅の韻のウは、和行のウなり」とあり、然れども、漢字の韻の、ウなるもの數多あるに、古書中に、ヲとしたるもの數語あるのみ、釈然たらず、尚考究すべきなり、芭蕉の現今支那音は、バチャオなりと聞く、漢口(ハンカオ)、青島(チンタオ)などもあり、又簺(サイ)をサエ、才(ザイ)、財(ザイ)をザエ、弟(テイ)をテエ、佞(ネイ)をネエ、佩(ハイ)をハエ、表背(ヘウハイ 表装)をヘウホイ(宋音か)、ヘウホエなどあり。何れも漢字音なり。音轉なるか、是れ數語に限りて轉ずと云ふも、異(い)なるものにて、研究の問題なり、暫く、あづかりおく、

と、

ワ行のウをヲとした例は少ない、

として疑問を呈するものもある(江戸時代後期の国学者、関藤政方(まさみち)『傭字例』)。で、

アウシ(襖子)を日本語風にした語(字音仮字用格・和訓栞)、
アマオホヒ(雨掩)の略(本朝辞源=宇田甘冥)、

とするものもあるのだが、どんなものだろうか。

「したうづ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/488529163.htmlで触れたように、朝服である「束帯」には、

盤領(まるえり)の上着、

である、

袍(ほう)、

を着るが、「袍」には、文官用の、

縫腋(ほうえき)の袍、

と、武官用の、

闕腋(けってき)の袍、

があり、「縫腋(ほうえき)の袍」は、

袖の下から両腋(りょうわき)を縫いつけた袍。裾の襴(らん)が、蟻先(ありさき)の名で左右に張り出し、背に「はこえ」がある、

もので、

まつわしのうえのきぬ、
もとおしのほう、

ともいい(広辞苑)、

縫腋の袍.jpg

(「縫腋の袍」 広辞苑より)

「闕腋の袍」は、

襴(らん)がなく袖から下両腋を縫わないで開け、動きやすくした袍、

をいい、

わきあけのきぬ、
わきあけのころも、

ともいう(仝上)。因みに、「襴」は、

裾に足さばきのよいようにつける横ぎれ。両脇にひだを設けるのを特色とし、半臂(はんぴ)や袍に付属するが、袍はひだを設けずに外部に張り出させて蟻先(ありさき)といい、ひだのあるのを入襴(にゅうらん)と呼んで区別した、

とある(精選版日本国語大辞典)。「半臂」は、「したうづ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/488529163.htmlで触れた。

闕腋の袍.jpg

(「闕腋の袍」 広辞苑より)

「襖」は、武官用の、

腋のあいた無襴の盤領(あげくび)の上着、

をいう。令義解(718)に、「襖」は、

謂無襴之衣也、

とある。「襖」を、

狩衣、

の意とするのは、

狩衣が、

狩襖(かりあお)、

といったため、「狩」が略されて、「襖」と呼んだためである(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

狩襖、

と呼んだのは、狩衣が、

闕腋(けってき)、

つまり、

両方の腋(わき)を縫い合わせないで、あけ広げたままのもの、

だからである。

礼服(束帯).jpg

(「文官と武官の束帯」 日本大百科全書より)

束帯については、「いだしあこめ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/488875690.htmlで触れた。

「襖」 漢字.gif


「襖」(オウ・アウ)は、

会意兼形声。「衣+音符奧(燠、ぬくみがこもる、あたたかい)」、

とあり(漢字源)、

うわぎ(袍・表衣)の意で、長きを袍、短きを襖といふ、

とある(字源)。我が国では、

襖(ふすま)、

の意で用いる。

襖(中古の武官の朝服)、
素襖、

等々、「表衣」の意に用いているのは原義に叶っている。。別に、

形声文字です(衤(衣)+奥)。「身体に纏(まつ)わる衣服の襟元(えりもと)」の象形(「衣服」の意味)と「屋根・家屋の象形と種を散りまく象形と区画された耕地の象形(「探・播」に通じ(「探・播」と同じ意味を持つようになって)、「詳しく知る」の意味)と両手の象形」(「目が届かず、手で詳しく知る事ができない」、「奥」の意味)から、身体の形を覆い隠す服「皮衣(かわごろも)」を意味する「襖」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2731.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
鈴木敬三『有職故実図典』(吉川弘文館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:22| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする