2022年10月02日

三界


はやく屋の内を浄め、精進を潔斎にせよ。三明六通を得て、芥毛頭のこさず三界一覧にするなり(「義殘後覚(ぎざんこうかく)」)、

にある、

三界、

は、

三千世界に同じ、全ての世界、

と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。

三界.jpg

(三界 大辞泉より 「有頂天」には、色界(しきかい)の中で最も高い天である色究竟天(しきくきょうてん)とする説、色界の上にある無色界の中で、最上天である非想非非想天(ひそうひひそうてん)とする説の二説がある)

「三界」(さんがい)は、

三有(さんう)、

ともいい(大辞林)、

一切衆生(しゅじょう)の生死輪廻(しょうじりんね)する三種の世界、すなわち欲界(よくかい)・色界(しきかい)・無色界(むしきかい)と、衆生が活動する全世界を指す、

とある(広辞苑)。つまり、仏教の世界観で、

生きとし生けるものが生死流転する、苦しみ多き迷いの生存領域、

を、欲界(kāma‐dhātu)、色界(rūpa‐dhātu)、無色界(ārūpa‐dhātu)の3種に分類したもので(色とは物質のことである。界と訳されるサンスクリットdhātu‐はもともと層(stratum)を意味する)、「欲界」は、

もっとも下にあり、性欲・食欲・睡眠欲の三つの欲を有する生きものの住む領域、

で、ここには、

地獄(じごく)・餓鬼(がき)・畜生(ちくしょう)・修羅(しゅら)・人・天、

の六種の、

生存領域(六趣(ろくしゅ)、六道(ろくどう))、

があり、欲界の神々(天)を、

六欲天、

という。「色界」は、

性欲・食欲・睡眠欲の三欲を離れた生きものの住む清らかな領域、

をいい、

絶妙な物質(色)よりなる世界なので色界の名があり、

四禅天、

に大別される。「四禅天」(しぜんてん)は、

禅定の四段階、

その領域、とその神々をいい、「初禅天」には、

梵衆・梵輔・大梵の三天、

「第二禅天」には、

少光・無量光・光音の三天、

「第三禅天」には、

少浄・無量浄・遍浄の三天、

「第四禅天」には、

無雲・福生・広果・無想・無煩・無熱・善見・善現・色究竟の九天、

合わせて十八天がある、とされる。

「無色界」は、

最上の領域であり、物質をすべて離脱した高度に精神的な世界、

であり、

空無辺処・識無辺処・無処有処・非想非非想処、

の四天から成り、ここの最高処、非想非非想処を、

有頂天(うちょうてん)、

と称する(広辞苑・日本大百科全書・世界大百科事典)。ただ、「非想非々想天」http://ppnetwork.seesaa.net/article/485982512.htmlで触れたように、「有頂天」には、

色界(しきかい)の中で最も高い天である色究竟天(しきくきょうてん)、

とする説、

色界の上にある無色界の中で、最上天である非想非非想天(ひそうひひそうてん)

とする説の二説がある(広辞苑)。

三界図.jpg

(「三界図」(それぞれの世界の海抜、距離、住民の寿命と身長などが書き込まれている) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%95%8Cより)

因みに、「生死輪廻」(しょうじりんね、しょうじりんえ)は、

「生死」も「輪廻」も梵語 saṃsāra の訳語、

である(精選版日本国語大辞典)。

ところで、「三界」のもつ意味から、

三界無安、猶如火宅(法華経譬喩品)、

と、

三界火宅(苦悩の絶えない凡夫の世界を火焔の燃える居宅にたとえていう)、
三界無安(現世は苦痛に満ちていて、少しも安心ができない)、
三界の首枷(くびかせ 断ちがたいこの世の愛着や苦悩)、

とか、

三界諸天(三界にある諸種の天。欲界の六天、色界の四禅天、無色界の四天のこと)、

とか、

三界に家無し(どこにも安住の家がない)、

とか、

方々をさまよいあるく者を、

三界坊(乞食坊主、流浪人)、

とか、華厳経によって、

三界の一切存在は自分の心に映ずる現象で、自分の心の外に三界はない、

という意味の、

三界所有、唯是一心(八十華厳経)、

と、

三界唯心(さんがいゆいしん)、
三界一心(さんがいいっしん)、
三界唯一心(さんがいゆいいっしん)、

とかというが、「三界」には、仏語で、

過去・現在・未来の三世、

をいうこともあり、

島隠れ行くとは三界流転の心なり(御伽草子「小町草子」)、

と、

三世にわたって因果が連続して迷いつづける、

意の、

三界流転(さんがいるてん)、

という言い方もする(広辞苑・大辞林・精選版日本国語大辞典)。

また「三界」は、メタファとして、

遠く離れた場所、

の意で、場所の名に添えて、

親許三界、
江戸三界、
郭(くるわ)三界
唐三界、

等々と使い、

~くんだり、

の含意で、また時間を示す語に添えて、

茶は土瓶で拵(こしら)へりや一日三界余る(浮世風呂)、

と、その意味を強めて、

それが長い間である気持を表す、

意でも使う(仝上)。

「界」 漢字.gif


「界」(漢音カイ、呉音ケ)は、

会意兼形声。介(カイ)は「人+ハ印」の会意文字で、人が両側からはさまれて中に介在するさま。逆にいうと、中にわりこんで、両側にわけること。界は「田+音符介」で、田畑の中に区切りを入れて、両側にわける境目、

とある(漢字源)。別に、

会意形声。「田+音符「介」(たすける、仲立ち)で、農地を仲立ちする「さかい」、さかいで区切られた「空間」のこと、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%95%8C

会意兼形声文字です(田+介)。「区画された狩猟地・耕地」の象形と「よろいに入った人」(「区切る」の意味)の象形から「区切る・さかいめ」を意味する「界」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji465.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:三界 三千世界
posted by Toshi at 04:14| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする