ひとつ神鳴とどろきて稲妻ひかり、村雨おびただしくして眼(まなこ)も眩むばかりなりけるが(善悪報ばなし)、
にある、
村雨、
は、
叢雨、
群雨、
とも当て、
群になって降る雨、
群がって降る雨、
の意で、
激しくなったり弱くなったりして降る雨(日本国語大辞典)、
ひとしきり強く降ってやむ雨、強くなったり弱くなったりを繰り返して降る雨(大辞林)、
一しきり強く降って来る雨(広辞苑)、
などとあり、
にわか雨、
驟雨(しゅうう)、
白雨、
繁雨(しばあめ)、
過雨(かう)、
通り雨、
等々ともいう(広辞苑・大言海)。万葉集にも、
庭草(にはくさ)に村雨降りてこほろぎの鳴く声(こゑ)聞けば秋づきにけり、
とあるように古くから使われる。
不等雨(むらさめ)、
とも書かれるように、
降り方が激しかったり、弱くなったりする雨、
をいうようである。
(「庄野 白雨」(歌川広重『東海道五十三次』) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%91%E9%9B%A8より)
ひとしきり強く降ってはやみ、また降り出す雨、
ともある(雨のことば辞典)。和名類聚抄(平安中期)には、
暴雨、白雨、無良左女、
類聚名義抄(11~12世紀)には、
白雨、むらさめ、
とある。
人しれずもの思ふ夏の村雨は身よりふりぬるものにぞ有りける(古今集)、
と、夏のイメージが強く、地方によっては夕立の意味とするところもあり、
秋に俄に降り出す雨(類語大辞典)、
としたりするが、「村雨」の名は、むしろ降り方なのではないか。語源を見ると、
「群がって降る雨」の意(広辞苑・日本国語大辞典)、
ムラサメ(群雨)の義(箋注和名抄・言元梯・大言海)、
ムラムラに降って、降らぬところもあるところから(日本釈名・東雅・大言海)、
とあり、
ざっと群がって降る、
意と、
不等雨、
と当てたように、
激しくなったり弱くなったりして降る、
意の両義がある。
「村消え」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/485321558.html)で触れたように、
村消ゆ、
は、
斑消ゆ、
叢消ゆ、
群消ゆ、
とも当て(広辞苑・大言海・岩波古語辞典)、
(雪などが)あちこちとまばらに消えている、
一方は消え、一方は残る、
意である(広辞苑・岩波古語辞典)。
同じ使い方は、「すそご」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484482055.html)で触れた、縅(おどし)や染色に、
同じ色で、所々に濃い所と薄い所のあるもの、
を、
村濃(むらご)、
というが、これも、
斑濃、
叢濃、
とも当て、
むら(斑)、
の意、
ここかしこに叢(むら)をなすこと(大言海)、
つまり、
色の濃淡、物の厚薄などがあって、不揃い、
の意である(広辞苑)。「村」自体が、
群(ムレ)と同根、
とされるところからも、
ひとつところに集まる、
意があるが、それとともに、
斑、
の字も当てるところから、
まだら、
の含意もある。「村雨」に、両義があるのも当然かもしれない。なお、
パラパラと降ってすぐにやむにわか雨、
は、
小村雨、
という(雨のことば辞典言葉)とある。また、「雨」を、
ハルサメ(春雨)・コサメ(小雨)・ムラサメ(叢雨)・キリサメ(霧雨)・ヒサメ(氷雨)、
等々、サメと訓むについては、
アメ(雨)に[s]が添加されてサメという、
とある。同様の音韻変化は、
あまねし(遍し)→サマネシ(万葉集)、
ミイネ(御稲)→ミシネ(神楽歌)、
がある(日本語の語源)とする。
なお、「白雨」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482287636.html)については触れた。
「村」(ソン)は、「村消え」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/485321558.html)で触れたように、
会意兼形声。寸は、手の指をしばしおし当てること。村は「木+音符寸」で、人々がしばし腰を落ち着けた木のある所をあらわす、
とある(漢字源)が、
会意兼形声文字です(木+寸)。「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)と「右手の手首に親指をあて、脈を測(はか)る事を示す文字」(脈を「測る」の意味だが、ここでは、「人」の意味)から、木材・人が多く集まる「むら」を意味する「村」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji173.html)。
「雨」(ウ)は、「雨乞い」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482692535.html)で触れたように、
象形。天から雨の降るさまを描いたもので、上から地表を覆って降る雨、
とある(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95