諺に曰はく、白日に人を談ずる事なかれ。人を談ずれば害を生ず。昏夜(こんや)に鬼を話(かた)る事なかれ。鬼を話れば怪いたる(「伽婢子(おとぎぼうこ)」)、
とある、
白日に人を談ずる事なかれ、
は、その由来を、
白日無談人、談人則害生、昏夜無話鬼、話鬼則怪至(竜城録)、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。『竜城録』は、
志怪小説、
で、唐中期の、
柳河東集(柳宗元)、
に収められている、
怪異譚、
を撰述したものである。他に、
「羆説」「李赤伝」「黔之驢」「黄渓記」「非国語・嗜芰」「羆説」「太白僊去」
が収められている(http://www.mugyu.biz-web.jp/nikki.22.07.12zuitou.htm)とある。なお、「志怪小説」については、「志怪」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/434978812.html)で触れた。
(柳宗元(晩笑堂竹荘画傳) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%AE%97%E5%85%83より)
ここで、
鬼、
とあるのは、「日本」の「オニ」ではなく、
おぼろげな形でこの世に現れる亡霊、
つまり、
幽霊、
を指す(漢字源)。中国では、
魂がからだを離れてさまようと考え、三国・六朝以降、泰山の地下に鬼の世界(冥界)があると信じられた、
という(仝上)。
さて、この、
白日に人を談ずる事なかれ、
は、寛文六年(江戸1661年)刊行の『伽婢子』(浅井了意)に載る、
怪を話せば怪いたる、
に出てくる。鷗外にも『百物語』があるが、それは、
百物語には法式あり。月暗き夜行燈(あんどん)に火を点じ、其の行燈は青き紙にて貼りたて、百筋の灯心を点じ、一つの物語に、灯心一筋づつ引きとりぬれば、座中漸々暗くなり、青き紙の色うつろひて、何となく物凄くなり行く也。それに話(かたり)つづくれば、必ず怪しき事、怖ろしき事現はるるとかや、
というもので、
臘月(ろうげつ 陰暦十二月)の初めつ方、風烈しく雪降り、寒き事日比(ひごろ)に替はり、髪の根滲むるにぞぞっと覚え、
るほどの中、
下京辺りの人、五人集り、
「いざや百話せん」
と、法の如く火をともし、面々皆青き小袖着て、並み居て語るに、
六、七十に及ぶ、
頃、
窓の外に火の光ちらちらとして、蛍の多く飛ぶが如く、幾千万ともなく、終に座中に飛び入りて、丸く集まりて鏡の如く鞠の如く、又別れて砕け散り、変じて白くなり固まりたる形、径(わたり)五尺ばかりにて天井に着きて、畳の上にどうと落ちたる。其の音いかづちの如くにして消え失せたり、
と、あまりのことに、
五人ながら俯(うつぶ)して死に入りける、
という。つまりは、
気絶した、
のである。で、冒頭の、
白日に人を談ずる事なかれ、
という故事につながるのである。これが、『伽婢子』の掉尾で、こう締めくくられる。
物語り百条に満てずして、筆をここに留む、
と。『伽婢子』は、全六十八条である。
「白」(漢音ハク、呉音ビャク)は、「白毫」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/490150400.html)で触れたように、
象形。どんぐり状の実を描いたもので、下の部分は実の台座。上半は、その実。柏科の木の実のしろい中身を示す。柏(ハク このてがしわ)の原字、
とある(漢字源)が、
象形。白骨化した頭骨の形にかたどる。もと、されこうべの意を表した。転じて「しろい」、借りて、あきらか、「もうす」意に用いる、
ともあり(角川新字源)、象形説でも、
親指の爪。親指の形象(加藤道理)、
柏類の樹木のどんぐり状の木の実の形で、白の顔料をとるのに用いた(藤堂明保)、
頭蓋骨の象形(白川静)、
とわかれ、さらに、
陰を表わす「入」と陽を表わす「二」の組み合わせ、
とする会意説もある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%99%BD)。で、
象形文字です。「頭の白い骨とも、日光とも、どんぐりの実」とも言われる象形から、「しろい」を意味する「白」という漢字が成り立ちました。どんぐりの色は「茶色」になる前は「白っぽい色」をしてます、
と並べるものもある(https://okjiten.jp/kanji140.html)。
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95