年のころ廿(はたち)ばかりと見ゆ。白き小袿(こうちぎ)に紅梅の下襲(したがさね)、匂ひ世の常ならず、月にえいじ、花に向かひて(伽婢子)、
にある、
匂ひ、
は、
かさねの色目が美しく取りあわされている様子、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。これだとわかりにくいが、「匂ひ」は、いわゆる、
襲(かさね)の色目、
のうち、
同系色のグラデーション、
を指す(http://www.kariginu.jp/kikata/5-2.htm)。
(襲の色目 大辞泉より)
「襲の色目」は、
女房装束の袿の重ね(五衣)に用いられた襲色目の一覧、
をいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%B2%E3%81%AE%E8%89%B2%E7%9B%AE)。
「小袿」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/492871391.html?1666725543)で触れたように、
正式の女房装束はこの上に「表着」や「小袿」、さらに「唐衣」を着用しますから、表面に表れる面積では「五衣」は少ないのですが、袖などに表れるこの部分の美しさを女房たちは競いました、
とある(http://www.kariginu.jp/kikata/5-2.htm)。平安時代は、グラデーションを好んだようで、その配色の方法で、「匂ひ」の他、
薄様(うすよう グラデーションで淡色になり、ついには白にまでなる配色)
村濃(むらご ところどころに濃淡がある配色です。「村」は「斑」のこと)
単重(ひとえがさね 夏物の、裏地のない衣の重ねです。下の色が透けるので微妙な色合いになる)、
等々がある(仝上)。なお、「村濃」については、「すそご」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484482055.html)で触れた。冒頭の、
紅梅の下襲(したがさね)、
は、
紅梅色から朱色に戻る袿を濃淡に従ってそろえたもの、
をいい、これに対して、
柿(かき)、桜、山吹、紅梅、萌黄(もえぎ)の五色をとり交わしつつ云々(いい)。三色着たるは十五ずつ……、多く着たるは十八、二十にてでありける(栄花物語)、
というのは、濃淡を含めた異系統の数色による襲色目になる(日本大百科全書)。
「卯の花」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/472739320.html)で触れたように、十二単などにおける色の組み合わせを、
色目、
といい、襲(かさね)装束における色づかいについていわれることが多いので、
かさね色目、
などともいい(http://www.kariginu.jp/kikata/kasane-irome.htm)、
衣を表裏に重ねるもの(合わせ色目、表裏の色目)、
複数の衣を重ねるもの(襲色目)、
経糸と緯糸の違いによるもの(織り色目)、
の三種類ある(http://www.kariginu.jp/kikata/kasane-irome.htm・日本大百科全書)。「重色目」は、
表の色と裏の色の組み合わせ、
で、
当時の絹は薄かったので裏地が透けたため複雑な色彩、
になった(https://costume.iz2.or.jp/color/)。
男性の直衣(のうし)などでも「桜の直衣」などというように、衣服の表地と裏地の二色の配合によるもので、袷(あわせ)仕立ての場合当然現れる色目、
になる(日本大百科全書)。春夏秋冬のシーズン色と雑(四季通用)がある。「織り色目」は、
織物の経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の違い、
によるもので、経緯の糸の太さと密度を同じにして織った場合には、いわゆる、
玉虫、
になって、光線のぐあいでひだの高低にしたがって、2色が交錯して見える。また経緯(たてよこ)の太さを変え、そのいずれかを浮かせて文様を織り出せば、いわゆる、
二色の綾(あや)、
になって、地と文様の色が相対する。紫、縹(はなだ)などの経綾地に緯に白を配して文様を表した、
緯白(ぬきじろ)の綾、
などが、男性の指貫(さしぬき)などに多くみられる。また緯糸に数色の色を入れて、これを、
浮織、
に織ったものが、男性の狩衣(かりぎぬ)や女性の表着(うわぎ)や唐衣(からぎぬ)、袿(うちき)などに用いられた、とある(仝上)。
「襲」(漢音シュウ、呉音ジュウ)は、
会意兼形声。「龍」は、もと龍を二つならべた字(トウ)で、重ねる意を表わす。襲はそれを音符とし、衣を加えた字で、衣服を重ねること、
とある(漢字源)。
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コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
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