感に堪へずして、唐綾の染付なる二衣を纏頭にしてき。折節に付けては興がりておぼえき(梁塵秘抄口伝集)、
にある、
纏頭、
は、
てんとう、
と訓ませるが、古くは、
てんどう、
と訓ませた(広辞苑)。
歌舞・演芸などをした者に、褒美ほうびとして与えること、及びそのもの、
のことを言い、もとは、
衣服をぬいで与え、それを受けた時、頭にまとった、
ところからいう(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。
かずけもの、
引出物、
の意である(仝上・岩波古語辞典)。これは、
出羅錦二百匹、為子儀纏頭之費(奮唐書・郭子儀傳)、
と、漢語であり、
はな、
かづけもの、
の意とある。ちなみに、「はな」は、「引出物」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479132660.html)で触れたが、
纏頭、
とも当て、
芸人などに出す当座の祝儀、
の意でもあり、
芸者の揚代(あげだい)の称、
つまり、
花代、
の意でもある(広辞苑)。『資治通鑑』(北宋・司馬光)後梁紀の註に、
舊俗賞歌舞人、以錦綵置之頭上、謂之纏頭、
とあり、
直截頭上に置いたもの、
だと知れ、
もと上位の人が下位の者に着物を与えるとき、頭にかぶせる風習があった、
とある(日本大百科全書)。中国伝来ということである。しかし、わが国では、少しずつ意味を転じ、
今朝召実厳纏頭、依儲事等殊致丁寧也(「高野山文書(1148)」)、
と、
当座の祝儀として与える金銭、
つまり、
はな、
ぽち(京坂方言 心づけ)、
チップ、
の意となり(で、「纏頭」を「はな」とも訓ませる)、さらに、この言葉の語感からか、
六月廿八日小所領一所雖分得候、未得秋分程、事々纏頭候了(「醍醐寺文書(1280)」)、
臨時の客人、纏頭の外他なし。卒爾の経営、周章の至り忙然たり(庭訓往来)、
などと、
いそがしいこと、
また、
あわてること、
の意でも使う(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
「引出物」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479132660.html)でも触れたが、「かずけもの」は、
被け物、
と当て、
人の労をねぎらい、功を賞して与える衣服類、
をいい、
衣服類を相手の左肩にうちかけて与えた、
といい、
もらった者はこれを左肩に掛けて退く、
という(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
纏頭(てんとう)、
ともいい、
力を尽したること少なからず、しかるにいまだ祿給はらず(竹取物語)、
と、
祿(ろく)、
ともいい、さらには、
さもしくかづけ物にはあらず(浮世草子「色里三所世帯」)、
匂ひはかづけ物(西鶴・一代男)、
などと、
ごまかし物、
の意でも使うに至る。これは「被(かづ)く」に、
頭に被る、
意からのメタファで、
病にかづけて寺へ引き込み(三体詩抄)、
と、
かこつける、
意や、
よからぬ事は皆、田舎者になづくる(仮名草子「仕方咄」)、
と、
転嫁する、
意など(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)のとの関連から来たものではあるまいか。なお、
かづけわたの事あり、衣筥(ころもばこ)の蓋に綿を入れて、簀子(すのこ)の北の方に、内持の廊下と云ひて、簾(みす)をかけて出す、蔵人、御導師の肩にかづくるなり(建武年中行事)、
とある、
被綿(かづけわた)、
は、
綿の被物、
の謂いで、
御佛名(ミブツミヤウ)を修したる僧に賜ふに云ふ、
とある(大言海)。
(「纏」 説文解字・漢 字通より)
「纏」(漢音テン、呉音デン)は、
会意兼形声。「糸+音符廛(テン ある所にへばりつく)」。ひもや布を一か所にへばりつくようにまきつけること、
とある(漢字源)。別に、
形声文字です(糸+廛)。「より糸」の象形(「糸」の意味)と「屋根の象形と区画された耕地の象形と2つに分れているものの象形と土地の神を祭る為に柱状に固めた土の象形」(「1家族に分け与えられた村里の土地」の意味だが、ここでは、「帯」に通じ(「帯」と同じ意味を持つようになって)、「おびる」の意味)から、「糸を帯びる」、「まとう」を意味する「纏」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji2660.html)。後者の説の方が、「まとう」の意の「纏」の説明としてはわかりやすい気がする。別に、
形声。声符は廛(てん)。廛は(ふくろ)の中にものを入れてまとめ、それを建物に収納する意。説文解字に「繞(めぐ)らすなり」とあり、縄をめぐらしてまとめくくることをいう。次条に「繞(ぜう)は纏(まと)ふなり」とあって互訓。繞り歩くことを躔(てん)という、
ともある(字通)。
「頭」(漢音トウ、呉音ズ、慣用ト、唐音ジュウ)、
は、
会意兼形声。「頁(あたま)+音符豆(じっと立つ高い木)」で、まっすぐ立っているあたま、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(豆+頁)。脚が長く頭が膨らんだ食器(たかつき)の象形と人の頭を強調した象形から「あたま・かしら」を意味する「頭」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji21.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95