是はそも、人間世(にんげんせい)の外、三(みつ)の嶋、十(とお)の洲(くに)に来にけるかと、怪しみながら(伽婢子)、
とある、
三の嶋、
とは、
伝説上の、「蓬莱」「方丈」「瀛洲」の三島(神仙傳)、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。蓬莱(ほうらい)・方丈・瀛州(えいしゅう)の三山は、
東方絶海の中央にあって、仙人の住む、
と伝えられ、
三神山(さんしんざん)、
といい、
三山、
三島、
ともいう(広辞苑)。「十の洲」も、
同じく伝説上の「鳳麟洲」「聚窟洲」など十の「洲(くに)」、いずれも仙人、天女が住むとされる、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
十洲(じつしゅう)、
は、
祖洲・瀛洲・玄洲・炎洲・長洲・元洲・流洲・生洲・鳳麟洲・聚窟洲、
とされる(字源)。
「蓬莱」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488165402.html)で触れたが、
蓬莱・方丈・瀛洲此三神山者、其傳在渤海中、……嘗有至者、諸僊人(仙人)及不死之薬、皆在焉、……金銀為闕(史記・封禅書)、
使人入海求蓬莱・方丈・瀛洲、此三山者相傳在渤海(漢書・郊祀志)、
海中有三山、曰蓬莱、曰方丈、曰瀛洲、謂之三島(神仙傳)、
などと、
渤海中にあって仙人が住み、不老不死の地とされ、不老不死の神薬があると信じられた霊山、
で、
三壺海中三山也、一曰方壺、則方丈也、二曰、蓬壺則蓬莱也、三曰瀛壺洲也(拾遺記)、
と、
蓬莱(ほうらい)山、
方丈(ほうじょう)山、
瀛洲(えいしゅう)山、
と、
三神山(三壺山)、
とされ(仝上・日本大百科全書)、前二世紀頃になると、
南に下って、現在の黄海の中にも想定されていたらしい、
と位置が変わった(仝上)が、
伝説によると、三神山は海岸から遠く離れてはいないが、人が近づくと風や波をおこして船を寄せつけず、建物はことごとく黄金や銀でできており、すむ鳥獣はすべて白色である、
という(仝上)。
(不死の妙薬を求めて航海に出る徐福(歌川国芳) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%90%E7%A6%8Fより)
「仙人」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483592806.html)で触れたように、戦国時代から漢代にかけて、燕(えん)、斉(せい)の国の方士(ほうし 神仙の術を行う人)によって説かれ、
蓬萊、方丈、瀛洲、此三神山者、其傅在勃海中、去人不遠、患且至、則船風引而去、蓋嘗有至者、諸僊人(仙人)及不死之藥皆在焉、物禽獸盡白、而黃金銀為宮闕、未至、望之如雲、及到、三神山反居水下、臨之、風輒引去、終莫能至云、世主莫不甘心焉(史記・封禅書)、
と、
(仙人の住むという東方の三神山の)蓬莱・方丈・瀛州(えいしゅう)に金銀の宮殿と不老不死の妙薬とそれを授ける者がいる、
と信ぜられ、それを渇仰する、
神仙説、
が盛んになり、『史記』秦始皇本紀に、
斉人徐市(じょふつ 徐福)、上書していう、海中に三神山あり、名づけて蓬莱(ほうらい)、方丈(ほうじょう)、瀛州(えいしゅう)という。僊人(せんにん 仙人)これにいる。請(こ)う斎戒(さいかい)して童男女とともにこれを求むることを得ん、と。ここにおいて徐をして童男女数千人を発し、海に入りて僊人(仙人)を求めしむ、
と、この薬を手に入れようとして、秦の始皇帝は方士の徐福(じょふく)を遣わした。後世、この三神山に、
岱輿(たいよ)、
員嶠(えんきよう・いんきょう)、
を加えた、
五神山説、
も唱えられ、
五山が海に浮かんでいて、15匹の大亀にささえられている、
とされたが、昔から、
蓬莱、
だけが名高い(仝上)。
蓬莱・方丈・瀛州の三山は
蓬壺、
方壺(ほうこ)、
瀛壺、
とも称し、あわせて、
三壺、
ともいう。「壺」については、
費長房者、汝南人也、曾為市掾、市中有、老翁賣薬、懸一壺於肆頭、及市罷、輒跳入壺中、市人莫之見、唯長房於楼上覩、異焉、因往再拝、翁乃與倶入壺中、唯見玉堂厳麗、旨酒甘肴盈衍其中、共飲畢而出(漢書・方術傳)、
とある、
壺中天(こちゅうてん)、
は、
仙人壺公の故事によりて別世界の義に用ふ、
とあり(字源)、また、
壺中天地乾坤外、夢裏身名且暮閒(元稹・幽栖詩)、
と、
壺中之天、
ともいい、さらに、
壺天、
ともいう(仝上)。「壺公(ここう)」とは、上記、
費長房者、汝南人也、曾為市掾、市中有、老翁賣薬、懸一壺於肆頭、及市罷、輒跳入壺中、市人莫之見、唯長房於楼上覩、異焉、因往再拝、翁乃與倶入壺中、唯見玉堂厳麗、旨酒甘肴盈衍其中、共飲畢而出(漢書・方術傳)、
で、後漢の時代、汝南(じょなん)の市場で薬を売る老人が、
店先に1個の壺(つぼ)をぶら下げておき、日が暮れるとともにその壺の中に入り、そこを住まいとしていた。これが壺公で、彼は天界で罪を犯した罰として、俗界に落とされていたのである。市場の役人費長房(ひちょうぼう)は、彼に誘われて壺の中に入ったが、そこは宮殿や何重もの門が建ち並ぶ別世界であり、費長房はこの壺公に仕えて仙人の道を学んだ、
とある(日本大百科全書)のを指す。
なお、「瀛洲」は、転じて、日本を指し、
東瀛(とうえい)、
ともいい、日本の雅称とされる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%9B%E5%B7%9E)。
(「船に乗る徐福」(任熊『列仙酒牌』) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%90%E7%A6%8Fより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95