2022年11月06日

縹(はなだ)


桜の枝一つ築地より外に差し出でて、縹(はなだ)の打ち帯一筋、縄の様なるを懸け置きたり(伽婢子)、

とある、

縹の打ち帯、

は、

薄い藍色の紐で組んだ帯、

とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「打帯」は、

糸で組んだ紐の帯、

で、

丸打ち、または、平打ちの太い紐を用いる、

とある。

組み帯、

のことである(精選版日本国語大辞典)。

真紅の撃帯(ウチオビ)ひとつ娘にとらせたり(伽婢子)、

と、

撃帯、

と当てたりする(仝上)。「打帯」と呼ぶのは、

糸の組目をへらで打って固く組んだ紐の帯、

だからである(広辞苑)。

 条帯(平組帯)(長さ132.2cm 幅4.7cm).jpg

(「条帯」(平組帯)(正倉院 長さ132.2cm 幅4.7cm) https://kimono-kitai.info/15204.htmlより)

「縹色」は、

花田色、

と当てたりする、

藍染めの紺に近い色、

とあり(日本国語大辞典)、

薄い藍色、

である(広辞苑)。新撰字鏡(898~901)は、

碧、波奈太、

類聚名義抄(11~12世紀)は、

縹、アヲシ・ハナダ、

武家名目抄(江戸時代後期)は、

花田、浅木色也、

とする。

縹色.png


後漢時代の辞典には、

「縹」は「漂」(薄青色)と同義、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%B9、漢和辞典には、

そらいろ、
薄き藍色、
ほんのりした青色(淡青色)、
浅葱色、

などとある(字源・漢字源)。別名、

月草色、
千草色、
露草色、
花色、

ともあり(「月草」は露草の古名、千草は鴨頭草(つきくさ)の転訛で露草のこと)、これら全てが、

ツユクサ、

を表しhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%B9、本来、

露草の花弁から搾り取った汁を染料として染めていた色、

を指すが、

この青は非常に褪せ易く水に遭うと消えてしまうので、普通ははるかに堅牢な藍で染めた色を指し、古くは青色系統一般の総括的な呼称として用いられたようだ、

とある(仝上)。

ツユクサの花.jpg

(ツユクサの花 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%B9より)

つき草、うつろひやすなるこそうたてあれ(枕草子)、

と(ツユクサは古くは「つきくさ」と呼ぶ)、花色といえば移ろい易いことの代名詞であったので、「縹色」は、

露草の花の色から名づけられた、

とされるが、冠位十二階制などの古代の服制では、

藍染、

であったし、

『延喜式』(平安中期)も、

縹色は藍で染める、

とし、

深縹(ふかきはなだ、こきはなだ)、
中縹(なかのはなだ、なかはなだ)、
次縹(つぎのはなだ、つぐはなだ)、
浅縹(あさきはなだ、あさはなだ)、

の四種類にわけ(浅縹よりも淡く染めたものとして白縹(しろきはなだ、しろはなだ)がある)、紺色が深縹に相当し、中縹が「つよい青」の縹色とされ(色名がわかる辞典)、

古代に位を示す服色の当色(とうじき)として、持統天皇4年(690)に、

追位の朝服を深(ふか)縹、進位を浅(あさ)縹、

と定め、養老の衣服令(りょう)(大宝元年(701)制定、養老二年(718)改撰)で、

八位を深縹、初位(しょい)を浅縹、

としている(日本大百科全書)。しかし平安時代後期になると、七位以下はほとんど叙せられることがなく、名目のみになったため、六位以下の地下(じげ)といわれる下級官人は、みな緑を用いた。そこで縹は当色から外されたが、12世紀より緑袍(りょくほう)と称しても縹色のものを着ている。縹は当色ではなくなったため、日常も用いられる色となった(仝上)のである。

古事記伝に仁徳天皇からの使者が皇后に拒絶され、使命を果たそうと地下で嘆願し続けたために、

水溜りに漬かった衣服から青色が流れ出した、

という逸話があるが、下級官人はこのような脆弱な染色を用いていたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%B9ことがわかる。

「縹」 漢字.gif


「縹」(ヒョウ)は、

会意兼形声。「糸+音符票(軽い、浮き上がる)」、

とある。

薄い藍色、

の意の他に、

縹渺(ひょうびょう ほのかに見えるさま)、

と、

薄く軽い、ほんのりと浮かぶ、

意もある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:55| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする