俗にさざれ石と呼ぶ、この石の上に清水いりて常に水たえず、白龍石中にすむなり(梁塵秘抄口伝集)、
にある、
さざれ石、
の「さざ」は、
細、
あるいは、
小、
細小
と当て(広辞苑・岩波古語辞典)、
「わずかな」「小さい」「こまかい」、
の意で、
ささ蟹、
ささ濁り、
ささ浪(波)、
等々、接頭語的に用い、
細かいもの、小さいものを賞美していう、
とあり、
形容詞の狭(さ)しの語根を重ねたる語、
とあり(大言海)、
近江の狭狭波(ささなみ)(孝徳紀)とあるは、細波(ささなみ)なり、狭狭貧鈎(ささまぢて)(神代紀)とあり、又、陵墓を、狭狭城(ささき)と云ふも同じ、いささかのササも、サとのみも云ふ、狭布(さふ)の狭布(さぬの)、細波(ささなみ)、さなみ。又、ささやか、ささめく、ささやく、など云ふも同じ、
とある(仝上)。
ただ、「ささやか」(細やか)は別として、「ささやく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449925050.html)、「さざめく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450667068.html)の「ささ」「さざ」は擬声語である旨は触れた。
後世濁ってサザとも、
とある(岩波古語辞典)。
さざれ、
は、
ささらの転、
で、「ささら」は、
妹なろが使ふ川津のささら萩葦と人言(ひとごと)語りよらしも(万葉集)、
と、
ササは細小の意、ラは接尾語、
で(岩波古語辞典)、「さざれ」は、
細、
と当て、
さざれ水、そと流るる水なり(匠材集)、
と、
さざれ(細)波、
さざれ(細)水、
さざれ(細)石、
さざれ(細)砂、
と、名詞に付いて、
「わずかな」「小さい」「こまかい」などの意、
を添える(日本国語大辞典)。
「さざれ石」は、
細石、
と当て、
小さな石、こまかい石、小石、
の意で、
さざれ、
さざれし、
とも約め(大言海・広辞苑)、「さざれし(細れ石)」も、
レシ[r(es)i]が縮約をとげたためサザリになり、語頭を落としてざり・ジャリ(砂利)、
となる(日本語の語源)が、
わが君は千世に八千世にさざれ石の巌となりて苔こけのむすまで(古今和歌集)、
とある、
「さざれ石」は、
細(さざれ)石の巌(いわお)となる、
砂子(いさご)長じて巌となる、
というように、
小石、
の意ではあるが、
長い年月をかけて小石の欠片の隙間を炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化鉄が埋めることによって、一つの大きな岩の塊に変化した、
石灰質角礫岩(せっかいしつかくれきがん)、
を、「君が代」の歌詞にある、
巌(いわお)、
であるとして、この岩を指して、
さざれ石、
と呼ぶことが少なくない(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%95%E3%81%96%E3%82%8C%E7%9F%B3)とある。
(「さざれ石」(千鳥ケ淵戦没者墓苑) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%95%E3%81%96%E3%82%8C%E7%9F%B3より)
小石が巌(いわお)となり、さらにその上に苔が生えるまでの過程、
が、非常に長い歳月を表す比喩表現として用いられ(仝上)、「さざれ石」は、
神々の魂が宿る石、
として、古くから信仰の対象になっている。
(籠神社(このじんじゃ 京都府宮津市)にあるさざれ石 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%95%E3%81%96%E3%82%8C%E7%9F%B3より)
「細」(漢音セイ、呉音サイ)は、
会意兼形声。「田」は小児の頭にある小さいすき間の泉門を描いた象形文字「囟」(シン)、細は「糸(ほそい)+音符囟(シン・セイ)」で、小さく細かく分離していること、
とあり(漢字源)、
田は誤り変わった形、
とある(角川新字源)。また、
隙間がわずかであるの意、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B4%B0)。別に、
会意兼形声文字です(糸+田(囟)。「より糸」の象形(「糸」の意味)と、「乳児の脳の蓋(ふた)の骨が、まだつかない状態」の象形(「ひよめき(乳児の頭のはちの、ぴくぴく動く所)」の意味)から、ひよめきのように微か、糸のように「ほそい」を意味する「細」という漢字が成り立ちました、
とあるのが分かりやすい(https://okjiten.jp/kanji165.html)。
「石」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482824936.html)で触れたように、「石」(漢音セキ、呉音ジャク、慣用シャク・コク)は、
象形。崖の下に口型のいしはのあるさまを描いたもの、
とある(漢字源)。
象形、「厂」(カン 崖)+「口」(いしの形)、山のふもとに石が転がっているさまを象る(『説文解字』他通説)。会意、「厂」(崖)+「口」(祭祀に用いる器)(白川)、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9F%B3)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95