2022年11月13日
響(どよ)む
大きに怒れる眼(まなこ)の光、雷光(いなびかり)の如くひらめき、口より火を吐きて立ち休らひ、力足踏みて響(どよ)みける(伽婢子)、
にある、
力足踏みて響みける、
は、
地団駄を踏んで地鳴りをさせる、
意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「力足」(ちからあし)は、
二人が踏(ふみ)ける力足に、山の片岸崩れて足もたまらざりければ(太平記)、
と、
力を入れた足、
また、
足に力をこめること、
の意と、
どっさりと位さだめの力足(雑俳・神酒の口)、
と、
相撲の四股(しこ)、
の意とあるので、
地団駄を踏む、
は、意訳になる。
「どよむ」は、色葉字類抄(平安末期)に、
動、とよむ、
とあり、平安時代ごろまでは、
とよむ、
と清音で、
「どよむ」に変わったのは、平安中期以後
とされ(日本語源大辞典)、
響む、
動む、
響動む、
等々と当てる(広辞苑・岩波古語辞典・日本語源大辞典・大言海)。
「とよむ」の「とよ」は、
擬声語(広辞苑)、
擬音語(岩波古語辞典)、
の、
動詞化、
とあり(広辞苑)、古くは、
雷神(なるかみ)の少しとよみて降らずとも我はとまらむ妹しとどめば(万葉集)、
と、
鳴り響く、響き渡る、
意や、
さ野つ鳥雉(きぎし)は登与牟(トヨム)(古事記・歌謡)、
と、
鳥獣の鳴き声が鳴り響く、
意のように、
人の聲よりはむしろ、鳥や獣の声や、波や地震の鳴動など自然現象が中心であったのに対して、濁音化してからは、主として人の声の騒がしく鳴り響くのに用いられるようになった、
とある(日本語源大辞典)。この「どよ」「とよ」は、
どよめく、
とよもす、
とつながる、
擬音(声)語、
である(仝上)。
「響」(漢音キョウ、呉音コウ)は、
会意兼形声。卿(郷 ケイ)は「人の向き合った姿+皀(ごちそう)」で、向き合って会食するさま。饗(キョウ)の原字。郷は「邑(むらざと)+音符卿の略体」の会意兼形声文字で、向き合ったむらざと、視線や方向が空間をとおって先方に伝わる意を含む。響は「音+音符卿」で、音が空気に乗って向こうに伝わること、
とある(漢字源)が、
「郷(鄕)」は「邑」+音符「卿」の会意形声文字で、「邑(むらざと)」で「卿」は向かい合って会食する様を示す。向かい合って音が「ひびく」様、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9F%BF)、
会意兼形声文字です(郷(鄕)+音)。「ごちそうを真ん中にして二人が向き合う」象形(「向き合う」の意味)と「取っ手のある刃物の象形と口に縦線を加えた文字」(「音(おと)」の意味)から、向き合う音、すなわち、「ひびき」、「ひびく」を意味する「響」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1325.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95