2022年11月16日
餞(はなむけ)
此の者を只返しては詮なし。餞(はなむけ)すべし(伽婢子)、
にある、
餞(はなむけ)、
は、
別れに際して贈る贈り物、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
「はなむけ」は、
贐、
とも当て、
「馬の鼻向け」の意、
とあり(広辞苑・大言海・日本国語大辞典・大辞泉・大辞林・岩波古語辞典)、
旅立つ人の馬の鼻を行くべき方へ向けて見送った習慣による、
とある(広辞苑)。「鼻向け」は、
その方に鼻を向けること。匂いを嗅ぐために、その方向に鼻を向けること、
とあり(広辞苑・日本国語大辞典)、
鼻向けもならぬ、
は、「匂いを嗅ぐ」意から、
臭くてたまらないさま、
にいい、転じて、
見るにたえない、
意となり、
鼻持ちならぬ、
と同義で使われる(仝上)。
馬の鼻を立て直す、
と言い方もあり、
馬の鼻先をもと来た方へ向け変える、
意となる(日本国語大辞典)。
「馬のはなむけ」は、
旅に出る人を送る時馬の鼻を行き先に向けたことからという、
とあり(岩波古語辞典)、
八木のやすのりといふ人あり。この人、国に必ずしも言ひ使ふ者にもあらざなり。これぞ、たたはしきやうにて、馬のはなむけしたる(土佐日記)
講師(かうじ)うまのはなむけしにいでませり(仝上)、
と、
旅立や門出を祝って金品や詩歌などを贈ったり、送別の宴を開いて見送ったりすること。また、その金品・詩歌・宴など、
の意で使う(日本国語大辞典・岩波古語辞典)。字鏡(平安後期頃)に、
餞、馬乃波奈牟介、
とあり、室町時代の意義分類体の辞書『下學集』には、
餞別、ハナムケ、
易林節用集(1597)には、
餞、ハナムケ、
となっている。本来、
旅立つ人を送り、其の馬の鼻へ向けて物を贈る、
ことから、転じて、
旅行く人に送る凡ての品物、又は、詩歌、
を指すようになっていく(大言海)流れが分かる。現代では、
はなむけの言葉、
というように、旅立ちや門出の「挨拶」を意味することが多い(語源由来辞典)ともある。
本来は、「馬のはなむけ」は、文字通り、
行くべき方向へ馬の鼻をむけてやる意(安斎随筆・俚言集覧)、
馬の鼻の向かう方の意(和句解)、
と、「馬の鼻を行き先へ向ける」意とする説と、
馬の鼻に向かって餞別する意(和句解・日本語源=賀茂百樹・大言海)、
と、「馬の鼻に餞別する」意とする説とに分かれるが、常識的には前者なのだろう。
「餞」(漢音セン、呉音ゼン)は、
会意兼形声。「食+音符戔(小さい)」で、こじんまりした酒食の宴のこと、
とあり(漢字源)、「餞」は、
旅立つ人を送って郊外までいき、そこで小さな宴会をし、酒食を共にして別れる、小規模なわかれの宴をもうけること、
とある(仝上)。
「贐」(漢音シン、呉音ジン)は、
会意兼形声。「貝+音符盡(シン 出し尽す)」、
とあり(仝上)、「旅立つ人に贈る品物、送別の気持を尽くす餞別」の意とある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95