牛の尾切れ落ちて、再び僧の貌(かたち)となる。其の牛の尾払子(ほっす)と作して、今に至る也(片仮名本・因果物語)、
にある、
払子、
は、
獣毛、麻などを束ね、柄を付けたもの、法会や葬儀などの時の、導師の装身具とする、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「払子」は、
唐音、
とある(大言海・岩波古語辞典)。「払」は、
漢音フツ、
呉音ホチ、
だが、唐音、
ホツ、
「子」は、漢音、呉音共に、
シ、
だが、唐音、
ス、
である(漢字源)。
(「払子」 広辞苑より)
もとインドで蚊や蠅を追うのに用いたが、のち法具となり、日本では禅僧が煩悩・障碍を払う標識として用いる、
とあり、和漢三才図絵には、
拂子、ホッス、ハヘハラヒ……禅僧之所重、如有得道者、師授與之拂子、以為法門之規模矣、今多用羆毛作、
とあり、
サンスクリット語のビヤジャナvyajanaの訳、
で、単に、
払(ほつ)、
あるいは、
払麈(ほっす)、
と呼び(日本大百科全書)、
白払(はくふつ・びゃくほつ)、
払塵(ふつじん)、
麈尾(しゅび・しゅみ)、
ともいう(広辞苑・デジタル大辞泉)。「麈尾」は、
「麈」は大きな鹿の意、
で、
大鹿の尾の動きに従って、他の鹿の群れが動くところから、他が従うという意を寓して、その尾にかたどって作られたという、
とある(デジタル大辞泉)。
(「払子」 大辞泉より)
後世、中国・日本で、
僧が説法などで威儀を正すために用いる法具。真宗以外の各派で高僧が用いる、
とある(大辞林)。日本へは、鎌倉時代に禅宗とともに伝わった。
律云、比丘患草蟲、佛聴作拂洲子、
とあり(釋氏要覧)、。『摩訶僧祇律(まかそうぎりつ)』に、
比丘が蚊虫に悩まされているのを知った釈尊は、羊毛を撚(よ)ったもの、麻を使ったもの、布を裂いたもの、破れ物、木の枝を使ったものなどに柄をつけて、払子とすることを許したという、
とある(日本大百科全書)。
(「払子」 精選版日本国語大辞典より)
元来の実用具から、
邪悪を払う功徳あるもの、
とされるようになり、中国では禅僧が盛んに用いて、
一種の荘厳具(しようごんぐ)、
とされたという流れになる。運歩色葉集(室町時代編纂の国語辞典)には、
払子、ホッス、禅家説法之時持之、
とある。
「払(拂)」(漢音フツ、呉音ホチ、唐音ホツ)は、
会意兼形声。弗(フツ)は「弓(たれたつる)+八印(左右にはねる)」からなり、たれたつるを左右に払って切るさま。拂は「手+音符弗」で、左右にはらいのける動作を示す。手を左右に振るのは拒否し、否定する表現でもある、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(扌(手)+弗)。「5本の指のある手」の象形と「からまるひもを2本の棒でふりはらう」象形(「はらいのける」の意味)から、「手ではらいのける」を意味する「払」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1114.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:払子(ほっす)