2022年11月25日

算用


紀州、勇士某(なにがし)と云ふ人の祖父、賄ひ為(し)ける時、算用を遂げず病死す(片仮名本・因果物語)、
手代どもを喚(よ)ぶべし、急度(きっと)算用遂げん(仝上)、
我は算用に来たり、後世の沙汰、無益(むやく)なりと云ふて(仝上)、

などとある、

算用、

は、古くは、

さんにょう、

とも訓ませたが、普通、

算用合って銭(ぜに)足らず、

というように、

金銭の額や物の数量を計算すること、
勘定、

の意(この場合、「散用」とも当てる)や、その意の関連で、

色茶屋の算用(浮・好色旅日記)、

と、

支払うこと、
決済すること、
清算すること、

の意で使ったり、それをメタファに、

筭用(サンヨウ)して合点のゆかぬ女(浮・西鶴織留)、

と、

考え合わせてよしあしや過不足をきめること、

と、考えの決算を付ける意や、

是はさんようの外也(浮・真実伊勢物語)、

と、

見積りを立てること、また、その見積り、
予想、

の意で使ったりする。しかし、上記引用の「算用」は、どの意味にも合わない。むしろ、

現世は長者と悦んで閻魔の前で算用せいと(浄・大経師昔暦)、

にある、

きまりをつけること、
決着をつけること、

の意味が合う。

決算する、

という意味の流れと見れば、

決着をつける、

も、意味の外延にはいるとはいえる(日本国語大辞典)。「算用」は、漢語にはなく、

算木(さんぎ)にて計るなり、

とあり(大言海)、「算木」は、

十界十如は法算ぎ、法界唯心覚りなば、一文一偈を聞く人の、仏に成らぬは一人なし(梁塵秘抄)、

とある、

和算で使われた中国伝来の計算用具、

を指す。

木製の小さな角棒で、赤は加、黒は減を示す。これを方眼を引いた厚紙ないしは木製の盤上に並べて数を表わし、配列を変えることによって四則・開平・開立などの計算を行なう、

とある(精選版日本国語大辞典)。中国では、

算・策・籌などと呼ばれ、宋・元時代以降はこれを用いて高次方程式が解かれたが、日本でも江戸時代にはこの目的のために使用された、

とある(仝上)。

算、
算籌(さんちゅう)、

ともいう。「算木」はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%97%E6%9C%A8に詳しい。「算用」は、文字通り、

算を用いる、

という「計算」の意である。

「算用」は、熟語化されていて、

算用合(あひ)、

といえば、

いかに親子の中でも、たがひの算用合はきつとしたがよい(浮世草子・胸算用)、

と、

計算して数を合わせること、帳合、
勘定、

の意だし、

算用(散用)状、

は、

中世、荘園年貢の収支計算書、

の意、

算用立(だて)、

は、

前髪もある私が親ほどな山城屋、算用立も申しにくし(浄・淀鯉)、

と、

帳簿などを計算しなおして収支を検査すること、
算用の吟味、

算用尽(づ)く、

は、

損得ばかり考えて物事をする、
勘定づく、

算用詰、

は、

決算、

算用場、

は、

商家の帳場、

算用高い、

は、

勘定高い、
けちである、

算用違い、

は、

計算ちがい、
考え違い、誤った考え、

算用無し、

は、

俄かに金銀を費し、算用無しの色遊び(日本永代蔵)、

と、

金銭に関して、向うみずなこと、

算用酒、

は、

江戸時代、商取引の支払い勘定の後、双方で飲む祝い酒。えびす神に供え、商売繁盛を祈った、

等々と使われる(広辞苑・大辞泉・日本国語大辞典)。

「算」 漢字.gif

(「算」 https://kakijun.jp/page/1479200.htmlより)


「算」 説文解字・漢 .png

(「算」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AE%97より)

「算」(漢音呉音サン、唐音ソン)は、

会意文字。「竹+具(そろえる)」で、揃えて数える意、

とある(漢字源)。これだとわかりにくいが、

竹と、具(ぐ そろえる。𥃲は変わった形)とから成り、数取りの竹をそろえて「かぞえる」意を表す、

とある(角川新字源)。別に、

会意文字です(竹+具)。「竹」の象形(「竹」の意味)と「子安貝(貨幣)の象形と両手の象形」(「両手で備える(準備する)」の意味)から、「竹の棒を両手で揃(そろ)える、数(かぞ)える」を意味する「算」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji229.html

「用」 漢字.gif

(「用」 https://kakijun.jp/page/0590200.htmlより)


「用」 金文・殷.png

(「用」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%A8より)

「用」(漢音ヨウ、呉音ユウ)は、

会意文字。「長方形の板+ト印(棒)」で、板に棒で穴をあけ通すことで、つらぬき通すはたらきをいう。転じて、通用の意となり、力や道具の働きを他の面にまで通し使うこと、

とある(漢字源)が、別に、

象形、柵を象ったもので、そこに動物を飼い、犠牲に用いたことによる(白川静)、

とする説https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%A8

象形。材木を組んで造ったかきねの形にかたどる。借りて「もちいる」意に用いる、

とする説(角川新字源)、

象形文字です。「甬鐘(ようしょう)という鐘の象形」で、甬鐘は柄を持って持ち上げて使う事から、「とりあげる」、「もちいる」を意味する「用」という漢字が成り立ちました、

とする説https://okjiten.jp/kanji372.htmlもある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする