紀州、勇士某(なにがし)と云ふ人の祖父、賄ひ為(し)ける時、算用を遂げず病死す(片仮名本・因果物語)、
手代どもを喚(よ)ぶべし、急度(きっと)算用遂げん(仝上)、
我は算用に来たり、後世の沙汰、無益(むやく)なりと云ふて(仝上)、
などとある、
算用、
は、古くは、
さんにょう、
とも訓ませたが、普通、
算用合って銭(ぜに)足らず、
というように、
金銭の額や物の数量を計算すること、
勘定、
の意(この場合、「散用」とも当てる)や、その意の関連で、
色茶屋の算用(浮・好色旅日記)、
と、
支払うこと、
決済すること、
清算すること、
の意で使ったり、それをメタファに、
筭用(サンヨウ)して合点のゆかぬ女(浮・西鶴織留)、
と、
考え合わせてよしあしや過不足をきめること、
と、考えの決算を付ける意や、
是はさんようの外也(浮・真実伊勢物語)、
と、
見積りを立てること、また、その見積り、
予想、
の意で使ったりする。しかし、上記引用の「算用」は、どの意味にも合わない。むしろ、
現世は長者と悦んで閻魔の前で算用せいと(浄・大経師昔暦)、
にある、
きまりをつけること、
決着をつけること、
の意味が合う。
決算する、
という意味の流れと見れば、
決着をつける、
も、意味の外延にはいるとはいえる(日本国語大辞典)。「算用」は、漢語にはなく、
算木(さんぎ)にて計るなり、
とあり(大言海)、「算木」は、
十界十如は法算ぎ、法界唯心覚りなば、一文一偈を聞く人の、仏に成らぬは一人なし(梁塵秘抄)、
とある、
和算で使われた中国伝来の計算用具、
を指す。
木製の小さな角棒で、赤は加、黒は減を示す。これを方眼を引いた厚紙ないしは木製の盤上に並べて数を表わし、配列を変えることによって四則・開平・開立などの計算を行なう、
とある(精選版日本国語大辞典)。中国では、
算・策・籌などと呼ばれ、宋・元時代以降はこれを用いて高次方程式が解かれたが、日本でも江戸時代にはこの目的のために使用された、
とある(仝上)。
算、
算籌(さんちゅう)、
ともいう。「算木」はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%97%E6%9C%A8に詳しい。「算用」は、文字通り、
算を用いる、
という「計算」の意である。
「算用」は、熟語化されていて、
算用合(あひ)、
といえば、
いかに親子の中でも、たがひの算用合はきつとしたがよい(浮世草子・胸算用)、
と、
計算して数を合わせること、帳合、
勘定、
の意だし、
算用(散用)状、
は、
中世、荘園年貢の収支計算書、
の意、
算用立(だて)、
は、
前髪もある私が親ほどな山城屋、算用立も申しにくし(浄・淀鯉)、
と、
帳簿などを計算しなおして収支を検査すること、
算用の吟味、
算用尽(づ)く、
は、
損得ばかり考えて物事をする、
勘定づく、
算用詰、
は、
決算、
算用場、
は、
商家の帳場、
算用高い、
は、
勘定高い、
けちである、
算用違い、
は、
計算ちがい、
考え違い、誤った考え、
算用無し、
は、
俄かに金銀を費し、算用無しの色遊び(日本永代蔵)、
と、
金銭に関して、向うみずなこと、
算用酒、
は、
江戸時代、商取引の支払い勘定の後、双方で飲む祝い酒。えびす神に供え、商売繁盛を祈った、
等々と使われる(広辞苑・大辞泉・日本国語大辞典)。
(「算」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AE%97より)
「算」(漢音呉音サン、唐音ソン)は、
会意文字。「竹+具(そろえる)」で、揃えて数える意、
とある(漢字源)。これだとわかりにくいが、
竹と、具(ぐ そろえる。𥃲は変わった形)とから成り、数取りの竹をそろえて「かぞえる」意を表す、
とある(角川新字源)。別に、
会意文字です(竹+具)。「竹」の象形(「竹」の意味)と「子安貝(貨幣)の象形と両手の象形」(「両手で備える(準備する)」の意味)から、「竹の棒を両手で揃(そろ)える、数(かぞ)える」を意味する「算」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji229.html)。
(「用」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%A8より)
「用」(漢音ヨウ、呉音ユウ)は、
会意文字。「長方形の板+ト印(棒)」で、板に棒で穴をあけ通すことで、つらぬき通すはたらきをいう。転じて、通用の意となり、力や道具の働きを他の面にまで通し使うこと、
とある(漢字源)が、別に、
象形、柵を象ったもので、そこに動物を飼い、犠牲に用いたことによる(白川静)、
とする説(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%A8)、
象形。材木を組んで造ったかきねの形にかたどる。借りて「もちいる」意に用いる、
とする説(角川新字源)、
象形文字です。「甬鐘(ようしょう)という鐘の象形」で、甬鐘は柄を持って持ち上げて使う事から、「とりあげる」、「もちいる」を意味する「用」という漢字が成り立ちました、
とする説(https://okjiten.jp/kanji372.html)もある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95