盗人聞いて、贓物(ぞうもつ)捨てて去りにけり(片仮名本・因果物語)、
の、
贓物、
は、
盗物、
の意で、室町時代の意義分類体の辞書『下學集』に、
贓物 注「盗物(ヌスミモノ)也」、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
玉篇(南朝梁の顧野王によって編纂された部首別漢字字典)に、
贓、蔵(カクス)也、
とあり、廣韻(北宋期、『切韻』『唐韻』を増訂して作った韻書(漢字を韻によって分類した書物))には、
納賄曰贓、
とあり、「贓物」の「贓」は、
其羞辱、基於貪汗坐贓(漢書・賞尹傳)、
と、
賄賂(マヒナヒ)、盗賊(ヌスミ)などにて、取りたる財物(シナモノ)、
とある(大言海)。
贓品、
ともいい、漢語では、
ぞうぶつ、
と訓ます(字源)。
窃盗など財産に対する罪に当たる行為によって得た財物で、被害者が法律上の回復追求権をもつもの、
とある(広辞苑)。で、1995年刑法改正前には、
盗品など(贓物)の無償での譲り受け(収受)・運搬・保管(寄蔵)・有償での譲り受け(故買)・有償の処分についての斡旋(牙保)をすることにより成立する罪。盗品等に関する罪、
を、
贓物罪、
呼んだ(仝上)。この場合、
ぞうぶつ、
と訓ます。
「贓」(慣用ゾウ、漢音呉音ソウ)は、
会意兼形声。臧(ソウ)は、強いどれいのこと。藏(蔵)は、その音を借りた形声文字で、倉という意味を表わす。贓は「貝+音符臧(ソウ 藏・倉)」で、財貨を取り込んで、ひそかにしまいこむこと、
とある(漢字源)。その意味で、
今夜、香雲庵へ盗人入り、塗籠の贓物これをとらる(看聞御記)、
と、
蔵にしまってある物品、
の意で使うのも、「贓」の意から離れているわけではない。
「物」(漢音ブツ、呉音モツ・モチ)は、
会意兼形声。勿(ブツ・モツ)とは、いろいろな布でつくった吹き流しを描いた象形文字また、水中に沈めて隠すさまともいう。はっきりとみわけられない意を含む。物は「牛+音符勿」で、色合いの定かでない牛。一定の特色がない意から、いろいろなものをあらわす意となる。牛は、ものの代表として選んだに過ぎない、
とある(漢字源)が、
勿は「特定できない」→「『もの』の集合」の意(藤堂明保)、
説以外に、
犂で耕す様(白川静)、
とする説もあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%89%A9)、
古い字体がなく由来が確定的ではない、
とある(仝上)。牛説は、
形声。牛と、音符勿(ブツ)とから成る。毛が雑色の牛の意から、転じて、さまざまのものの意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(牜(牛)+勿)。「角のある牛」の象形と「弓の両端にはる糸をはじく」象形(「悪い物を払い清める」の意味)から、清められたいけにえの牛を意味し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「もの」を意味する「物」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji537.html)ある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:贓物(ぞうもつ)