俄に大雨降りて車軸を流し、雷電轟て、四方黒闇(くらやみ)と成り、東西を失す(片仮名本・因果物語)、
にある、
車軸を流す、
は、
激しい大雨が降る、
の意(高田衛編・校注『江戸怪談集』)で、
折節降る雨車軸(シャヂク)を下(クダ)して、鈴鹿川に洪水漲(みなぎ)り下りて(源平盛衰記)、
と、
車軸を下す、
とも言い、
車軸のような太い雨脚の雨が降る、
という、
大雨の形容、
である(雨のことば辞典)。
(「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(歌川広重) https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/items/hiroshige167/より)
「車軸」は、漢語で、
吾馬病、車軸折(史記・范睢傳)、
と、
車の軸、
車の心棒、
の意で、
しんぎ(心木)、
ともいうが、
漸降大雨、滴如車軸(長阿含経)、
と、
大雨の形容、
としても使う(字源・大言海)。で、
折ふし降る雨、車軸の如し(平家物語)、
と、
大雨の形容として使う。
大降り、
本降り、
ざあざあ降り、
土砂降り、
横殴り、
天の底が抜けたよう、
という言い方と重なる。
(「車」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%BB%8Aより)
「車」(シャ)は、
象形。車輪を軸止めでとめた二輪車を描いたもので、その上に尻を据えて告る、または乗せるものの意。もと、居(キョ)と同系。キョの音に読むことがあるのは、上古音ののこったもの、
とある(漢字源)。別に、
象形。馬に引かせるくるまの形にかたどり、「くるま」の意を表す。ひいて、軸を中心にして回転するしかけの意に用いる、
ともある(角川新字源)。
「軸」(漢音チク、呉音ジク)は、
会意兼形声。「車+音符由(仲から抜け出る)で、車輪の中心の穴を通して外へ抜け出ている心棒、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(車+由)。「車」の象形と「底の深い酒ツボ」の象形(「よる(もとづく)」の意味)から、回転する車のよりどころとなる部分「じく」を意味する「軸」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji1305.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95